卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

食料自給率の考え方−コロナウイルスと食料安保3

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小泉大臣はなぜ非難されたのか

いつだったか、小泉環境大臣が国際会議に参加した際、前日にステーキハウスに行ったことを環境保護団体から批判されたことがあった。
ステーキを食べることと環境保護はどう関係あるのか、すぐには分からなかったのだが、おそらく小泉大臣も分からなかったのだろう。

今国会に種苗法改定案が上程され見送りになったことで国民の食料安全保障に対する関心も高まった。農水省がかなり前に出した畜産物の生産1kg生産するためにトウモロコシ換算で飼料がどれだけかかるか、話題となった数字が以下の通りである。

牛肉1kg=11 kg
豚肉1kg=7kg
鶏肉1kg=4kg
鶏卵1kg=3kg

この数値によって、環境を守るためには牛肉を食べるより豚肉を、豚肉を食べるより鶏肉を食べることが環境保護に貢献すると言われたのだが、環境大臣としての資質はともかく、一般的に日本でそこまでの意識はないと思う。

しかし、世界的な潮流であることは確かであり、グローバル化が今後も進むようなら考えざるを得ないだろう。

国の独立を支える基本は「食」である

「食の自立」を考える際に基準となるのが「食料自給率」である。
日本の食料自給率は先進国のなかで最低とよく言われるが、この食料自給率には様々な考え方がある。

食料自給率とは、国内供給に対する国内生産の割合を示す指標である

外国から日本に全く食料が供給されなくなった場合、日本国内の生産だけで日本国民全員が餓死しないで生きていけるかの判断となる指標である。

そうした事態は今後起こり得ないとは言えない。戦争か、あるいはコロナウイルスよりもっと大きな感染症が世界的に蔓延した場合に起こりうる問題であるし、歴史的にも飢えに苦しんだ経験は限りなくある。

だからこそ世界の独立国は食料自給率を国の独立を守る重要な指標として取り組んでいるのである。

問題は食料自給率の計算方法と計算基準である

食料自給率について農水省は次のように説明している。分かりやすいのでそのまま紹介する。

食料自給率とは、我が国の食料全体の供給に対する国内生産の割合を示す指標です。

その示し方については、単純に重量で計算することができる品目別自給率と、食料全体について共通の「ものさし」で単位を揃えることにより計算する総合食料自給率の2種類があります。

このうち、総合食料自給率は、熱量で換算するカロリーベースと金額で換算する生産額ベースがあります。

品目別自給率とは国内生産量/国内消費仕向け量である。そして国内消費仕向け量とは国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量(又は+在庫の減少量)である。

この数式で計算すると、小麦の品目別自給率は国内消費651万トンに対し国内生産は76.5万トンで、小麦の国内生産量(76.5万トン)/小麦の国内消費仕向け量(651.0万トン)=12%となる。

これではパンだけでなく日本の伝統食である うどん、そうめん等もほとんど自給できないことになる。「貧乏人は麦を食えばいい」は食料自給率からいえば無理なのである。

食料自給率は37%なのだろうか66%なのだろうか

食料自給率は37%、66%のどちらなのだろうか。

農水省説明によると、どちらも間違いではないのだが、受け取る側の印象からすると、「国民が消費している食品の6割以上が輸入頼り」と「国民が必要としている食品の7割近くが自給されている」では全く違う。数値の基準データは一つなのに結果は真逆となる。数字のマジックである。

総合食料自給率は、熱量で換算するカロリーベースと金額で換算する生産額ベースがある。
この違いを、牛肉についての農水省の説明で見ていこう。

下図は左がカロリーベースで、右が生産額ベースである。

生産額ベースの考え方は、飼料はどこから買っても同じではないか、問題は畜産農家の生産が国民に供給されている牛肉の何割を占めているかが問題であるとする考えで、生産額を基準とした自給率を計算すると右図の通り43%となる。

牛肉のケースと同じ考え方で食料全体をみると、平成30年度の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースで66%となる。

どちらを基準とするかで食料安保政策は大きく違ってくるだろう。

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