卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

種苗法改正と食料自給率−コロナウイルスと食料安保4

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市場でもカット野菜に国産野菜が活用されている(岡山クラカ)

自給率目標は「平時の金額、緊急事のカロリー」

 

カロリーベース、生産額ベース、それぞれについて問題はある。

1.カロリーベースの場合

輸入による飼料がなくなった場合、国内の飼料で代替できる部分は一定増えるだろう。飼料の輸入が減ると、その部分がストレートに国内の生産減少になるとは言えず、国内生産者が「より良い」あるいは「より安い」飼料を得るため努力している状況が反映されない。緊急事の牛肉は必要量の11%しか供給できないというカロリーベース計算は机上論であって現実的ではない。

2.生産額ベースの場合

元になる「金額」は変動する。通常、国産牛肉の価格は輸入より2〜3割高いので、緊急時における実際の「流通量」自給比率は43%よりも低くなるだろう。さらにこの考え方は、外国に生産・輸出できる余剰食料があり、お金があれば世界のどこかから買うことができることが前提である。

また、コロナ禍の波及によって国内の牛肉や高級食材の価格低迷が起きているように、金額を基準とした食料自給率の計算は非常事態下での食料安保の指標として不正確である。グローバル化の流れは今後も一定程度進むだろうが、同じく非常事態も必ず起きるだろう。

食料自給率が需要と供給のバランスを判断できる指標としてみると、例えば「平常時は生産額ベース・非常時はカロリーベース」の指標として両方の自給率アップに取り組むことが必要なのではないだろうか。

国の食料自給率目標は令和12年度までにカロリーベース45%、生産額ベース75%である。

大国はカロリー、金額ともに100%超 世界各国の特徴

カナダ、豪州、アメリカは国土が広い大国でありフランスも農業国である。いずれもカロリーベースで100%を大きく上回り、金額ベースでも80〜90%と高い。海外輸出が国内生産者を守り、国内自給率を維持できることにもなるのに対し、イギリス、イタリア、スイス等は、カロリーベースでは50〜60%だが、金額ベースでもそれに近い数字となっている。

日本はカロリーベースでは37%と低く、金額ベースではイギリス、スイスと近い。
日本は工業国としての経済発展をめざし、食料は海外依存のグローバル化をめざす政策であったから、「食料自給率」アップよりも、むしろ農業・漁業の市場主義経済導入によって、国内自給率が低くても輸出拡大によって国内生産の振興を図る政策をとっている。これはカナダ、豪州、アメリカ方式に近いのだが、この三国は非常事態下においても国民への食の供給は維持されている。

食料安保に向けて日本が目指す方向はこうした国土大国方式ではなく、ドイツ、イギリス、イタリア等の、第一次産業と第二次・第三次産業のバランスのとれた発展を目指すべきだろう。それを明らかにしたのが新型コロナウイルスではないだろうか。

種苗法改正案と飼料の自給率

食料自給率と種苗法改正案はどのように関連しているのか。
種苗法改正案は農業における市場主義経済導入の促進が大きな目的であると言ったが、小麦・トウモロコシ等は、食料、飼料だけでなくエタノールなどの燃料用としての需要も高まっている。

今回の新型コロナウイルス禍においても、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)は、小麦等の輸出規制を始めた国が出ていることと関連して世界的な食料不足が発生する恐れがあると述べている。

そうした状況を考えれば、国内における小麦やトウモロコシ生産の拡大に取り組む必要があるだろう。もちろん、こうした作物は外来品種だけでなく日本の固有品種も多く、コストや価格の面で輸入品に負けているが、食料自給率の観点からいえば、この部分の行政支援が重要な政策課題となるだろう。

国の方針もこの飼料の自給率目標をあげており、10年後の令和12年目標でカロリーベースの飼料の国産率を53%に、生産金額ベースの飼料の国産率を79%とすることによって飼料の自給率を現在の25%から34%にあげることを目標にしている。

こうした政策目標の達成に対して、種苗法改正案による登録品種の拡大は国内生産者の生産意欲を削ぐ危険性が高いと思う。

地方創生に向けた国内生産の拡大が課題

コロナによる非常事態は、優良品種の海外流出を防ぐ目的よりも国内生産の拡大が優先すべき課題であることを示しているのではないだろうか。
新型コロナウイルス以前から日本国内の地方疲弊、都市部の一極集中は進んでいるが、これも食料自給率の考え方と同じである。地方自治体単位の食料自給率は北海道206%、秋田188%に対し東京、大阪は1%である。

つまり国内を工業・商業地域と生産地域に分け、東京、大阪や札幌、仙台、名古屋、福岡を主体にした経済構造となっている。グローバル化の考え方「世界の先進、世界の農村」国内版であり、こうした経済構造が都市部の一極集中を生み出した要因である。

経済効率化からいえば、農村地域を大型化し都市部の供給拠点とすることは同じ国内であるから可能だろう。しかし、この考え方では一極集中はさらに進み「地方創生」が実を結ぶことは難しいだろうと思う。

新型コロナウイルスによって東京在住者の地方移住希望者が増えているという。遅々として進まない首都機能分散などを含めた商工業と第一次産業のバランスがとれた「地方創生」政策に取り組むことが国内食料自給率アップへの道ではないだろうか。