卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

首都圏に100キロ、首都圏対応のSCMの拠点目指す〜ぐんま県央青果 堀 淳 社長に聞く(下)

前号からの続き(農林リサーチ23年9月号より転載)

ぐんま県央青果 堀 淳 社長

―次に他社にとって大きな関心は、どのような経営を行うことで成果を得ることができたのかだと思います。
具体的な取り組みでは何が変わったのでしょうか?。

堀=ここまでの実績を上げることができたのは、もちろん、職員全員が頑張ってくれた成果ですが、私が目指したのは以下の点です。

意識が変われば行動が変わる
  • 意識が変われば行動が変わります。行動が変われば必ず何か手応えを感じる。それがモチベーションになっていくことを信じ、今なぜ改革が必要なのか繰り返し説明し納得してもらいました。
  • お客様オーダーには絶対的に応えていくことを徹底しました。欠品を出さない仕事が信用を重ね、信頼を勝ち取っていくことに直結します。
  • 業務時間内は、時間軸で最大限のパフォーマンス発揮しするため、出社時間、休憩時間、退社時間と残業、休日出勤のルール化を図りました。
  • お客様満足度を高めるために、接客の重要性を徹底しました。親切でなければ営業は務まりませんが、そのために機微、機知を育成しました。
  • 商品を高く売ればお客様が逃げ、商品を安く仕切れば産地が逃げます。どうすればいいか、各種経費を数値化し、徹底分析で無駄、非効率業務を排除、選択と集中で利益確保に取り組みました。
売上は会社の勢い、利益は経営の質
  • 収益確保に向けた利益構造の学習 販売担当者各人に販売原価の経費意識と経営者意識を醸成しました。
  • 「損益分岐点」の意識付け。単月ごとに当月損益分岐点予測を周知しました。

薄利多売を絵に描いたような青果卸売業界にとって、単月の営業日数を20日とした場合、ほぼ営業日数18日を経過した時点での累計粗利でやっと経費を補える損益分岐点売上高に到達することができます。
残りの営業日二日から三日分の粗利合計がその月の営業利益になるので、毎日の担当者別の進捗管理が非常に重要です。
薄利多売のため、売上も利益も1日も無駄にできません。補うためにスーパー、量販店への休日対応を積極的に進めています。

  • 売上は会社の勢い、利益は経営の質だと思います。薄利多売の攻めの商売を進めています。
  • 営業各人の品目別の年度計画、月刊計画、日別のP D C A作成と管理を行なっています。
  • 営業各人の日別、累計売上、粗利の進捗管理の見える化も行いました。
  • 経費意識の醸成を図りました。変動費、固定費、週配送経費、光熱費などです。
荷主別の帳票類統一
  • 荷主別に数種類あった帳票類を一枚に統一、伝票処理時間の短縮と帳票代費の大幅削減に成功しました。買受人から反発もありましたが、現在は理解して頂いています。
  • 在庫管理、数値管理のルール化を徹底しています。特に毎朝の各人の「在庫帳記入」はアナログですが業務規程に定めてルール化しました。商品回転率の向上、不良在庫の撲滅、見切り販売の軽減で利益確保に繋げます。
  • 集配送経費の縮減に取り組み、全ての集配送ルートを分析し、積載効率を改善しました。
労働環境の改善めざす
  • 人事評価制度を、誰が見ても納得のいく客観性のある運用にしました。中間面接を行い、会社の方向性と各人と約束した役割分担と営業数値の実態を明らかにして、誤解、錯覚がないよう伝達、確認をし合い期首目標達成に向かっています。
  • 就業時間の変更、シフト制を導入しました。
  • 多様性ビジネスモデルの受発注に対応するため就業時間の変更を行いました。営業職はワークライフバランスではなくワークライフミックスの実現を目指しています。
全職員連続5日間休暇の実施
  • 賃金アップに向けた原資の確保で今年度のベースアップは平均3.19%を実施、統合前と比較し賞与は担当者の業績に応じて最大3倍増の改善をしました。また今期は、夏冬の賞与とは別に期末賞与を、乗率平均1.0支給しました。
  • 就業時間のルールを明確化 伝票処理時間の短縮、経理部門と物流部門の機能横断型の連携を強化しました。
  • 休憩室を設置しました。 
  • グループ制の実施により、最低4週4休への取り組み、水曜休み、日曜休み、祭日の前日に休みを交代でとるようにし、代わりに休日の午後出勤で休み明けの欠品、荷引き、売上不足を補うようにしました。
  • コンプライアンス休暇の意味合いを含めて、全職員連続5日間休暇の実施を行います。

県央青果の今後、レンゴーとの連携
(グループに依存せず自立、長期安定経営目指す)

― ありがとうございました。次にぐんま県央青果の今後は、R&Cとの連携も含め、どのよううに取り組まれるのでしょうか?

堀=ぐんま県央青果は、R&Cホールディングスのグループ会社ですが、グループに依存、甘えることなく自立し、長期安定経営の基盤を作るのが私の仕事だと思っています。
我々の業務は人々に毎日、必要とされるエッセンシャルビジネスの一つです。非常に尊い仕事の一つですので「価値ある商品の薄利多売」を追求していきます。具体的な課題としては次のとおりです。

R&Cホールディングスとの関わりでは、市場デジタル推進協議会、産地、卸、実需者間のデータ連携を目的に取り組みをスタートさせています。農水省の指導の下、補助事業としてシステム開発の実証試験に継続的に参加し、コスト・利益の見える化により健全経営を行い、持続可能なサプライヤーの継続を目指します。

人材育成に注力する
  • リーダー育成、職員教育の課題としては、人材育成にお金をかけていきたいと思います。会社の方針をよく理解し、職員、メンバーに誤解と錯覚を作らず、かつ、状況変化に応じた対策をタイムリーに発信、解決できる情熱とスピード感と考える力のある部門リーダーを育成したい。
  • 2024年問題と国内農産物への支持、食料自給率を踏まえ、地産地消で農産物経費の削減と遠隔地からの供給から地場産比率をあげていく。12月以降の秋冬野菜の地元栽培施設園芸の拡大、特に越冬キュウリと果菜類、購入頻度の高いキャベツなど群馬県内はもちろんフードマイレージを意識し脱炭素にも生産者手取りにも寄与できるように取り組んでいきます。
多様性のあるビジネスモデルを
  • 群馬県内の当社指定14J Aとの関係強化を推進します。
    年度はじめに計画した各J A別の達成目標にむけ、窓口担当者が毎月J A進捗会議を開催し、現状と先行き対策を話し合い、計画達成を進めています。
  • 県央青果の多様性のあるビジネスモデル(スーパー、量販店、加工、仲卸、外食、病院、介護、産業給食、学校給食、転送)を拡大していくため、重点販売先に対しても窓口販売者を配置し、進捗会議を月3回開催し、目標達成を目指しています。
  • 重点販売先の占める全体売上構成比は最大取引先で8%前後なので取引先顧客の変化による当社売り上げへの影響は少ない状態ですが、全体の5%程度の取引先を拡大し売上、取扱量を増加させていく方針です。
  • 地元で生産される農産物はその地元で暮らす人々と一体であり地域文化でもあることをモットーに、食育の観点とSDGsに寄与し地域生産、地域消費の地産地消に取り組みます。
  • 優秀な群馬県産農産物の産地市場として「鮮度感」を大切に、首都圏まで100キロの立地を活かしたストックポイント化でハブアンドスポークを確立、このための一時保管、物流、ピッキング業務の機能アップ、パック業務を行う施設整備は必須だと思いますので、引き続き施設面での機能強化を図っていきます。
R&Cながの青果グループのスケールメリット図る
  • R&Cながの青果とは同じ職種なので、グループが持つ多様な産地、商品のスケールメリットの互換性を活かし青果物ソリューション企業としての地位を目指します。
  • 「お客様が求めるその一歩先の満足が提供できる」社員、企業文化、風土を醸成したい。
  • 地元群馬県産農産物が一度首都圏に入った農産物が再び群馬県内スーパー量販店に陳列される状態を改善したい。「青果物流通の新しい循環の仕組み」を作りたい。
  • いくらI T化、D X化が進んでも商売には人と人とのつながり、普遍的なものがある。昭和チックだが、ここを共有できる皆さんと一緒に商売をしていきたい。

― 最後に個人的なことを若干お話しください

堀=R&Cホールディングスの堀雄一社長はじめ、大勢の皆さんから鍛えて頂いた商売の教えの大切さを実感している毎日です。
統合1年が過ぎ、改めて油断大敵を肝に銘じて既存のお客様を大切にしながら常に新しい産地、新しいお客様を追求して職員とともに親切で公明正大な商売を心掛けていきます。
現在62歳、1984年旧連合青果に入社 主に根菜、土物を担当しました。
野菜部長、統括を経て長野支社長代理、伊勢崎支社長、伊勢崎地方卸売市場社長を経て、現ぐんま県央青果代表取締役を務めています。よく聞かれますが、雄一社長とは母方の従兄弟です。(終わり)