卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

24年問題はチャンス〜首都圏対応のSCM拠点目指す〜ぐんま県央青果 堀 淳 社長に聞く(上)

(農林リサーチ23年8月号より転載)

2023年4月、「レンゴー青果伊勢崎支社」が高崎市総合卸売市場に移転統合、新会社となった「ぐんま県央青果」(堀敦 社長)は、売上、利益ともに群馬県のトップ市場の地位を確立した。
3月期決算は、長野本社との帳合取引を全てカットし正味売上で115億円となり、統合前の二社取扱高合計をキープ、営業利益は1.1%と、卸売業務主体で1%を超える快挙となった。

大型卸と地元卸との統合は、多くの場合、社員間の軋轢が解消せず期待通りの相乗効果を生むことは困難なケースが多い。

今回は、年間取扱い1千億円を超す大型卸「R&Cながの青果」と地元卸「ぐんま県央青果」の統合である。
社風が全く違う統合卸の運営に一定の懸念はあったが、結果は想定を上回る結果となった。

しかし、3月期の結果は、すでに過去の到達点にすぎなくなっている。
改正市場法による国の支援を受け、新しい冷蔵庫を卸売場に建設することで産地市場の性格と首都圏に100キロという立地の優位を活かし、24年問題を有利に転換するチャンスと捉えている。

北関東におけるサプライチェーンの拠点を目指す「ぐんま県央青果」の現状と今後の抱負を堀淳社長に聞いた。以下、インタビューを2回に分けて掲載する。

ぐんま県央青果 堀 淳 社長

― 大型卸と地元卸が統合した場合、最初から成功する事例はあまり多くありません。
卸売会社の統合は、1+1=1となるケースも珍しくありませんが、ぐんま県央青果は売上、利益ともに1+1=2となる稀有なケースとなりました。
地元卸の社名を残し、連合青果から新会社の社長就任という極めて困難な立場で取り組まれたこの一年、3月期決算の概要からお話しください。

堀=スーパー主体であった連合青果伊勢崎支社と、小売買参人主体であったぐんま県央青果ですから全く社風は違います。
しかし、2社のビジネスモデルの違いが、統合によるシナジー効果を生むことができました。期待はしていましたが、ここまでの成績は正直、出来過ぎだと思います。
統合初年度の令和4年度決算は、売上115億円(前年比99.5%)、営業利益1億3100万円(376.9%)、営業利益率は1.1%です。(前年比は統合前の2社合計比)
入荷量は野菜で95%、果実93%、合計95%です。この売り上げは連合青果伊勢崎支社時代の長野本社との帳合分、4億5千万円を入れていませんので、実質の売上は大きく増えています。

― 統合しても人員は減っていないと聞きましたが?

堀=統合時の職員は県央青果42人、旧伊勢崎支社28人、計70人でしたが、今は72人です。
もちろん、経験者は貴重な人材ですから人員を減らすことは全く考えていませんでした。残念ながら数名の方がいろいろな事情で退職されましたので、新たに4人を中途採用し現在は72人です。 

―統合会社の初年度は、なかなか一体感が生まれません。新しい会社の社長としてどのような方針で取り組まれたのでしょうか?

堀=もちろん、うちも問題が山積していましたが、エイヤーと大鉈を振るいパラダイムシフトさせました。
お客様や職員から不平や軋轢も出ました。それでも多くの職員は、このままでは青果卸売業として成り立たない状況を理解してくれました。理解されないまま退職した職員もいましたが、それはやむを得ないと思います。
新しいビジネスモデルを目指して接客技術、販売技術、事務処理技術の向上に取り組んでくれた職員には本当に感謝しています。
期末には感謝の意味も込めて期末手当を出しましたが、家族の方から驚かれたということも聞いています。

― 3月期の決算はすでに通過点になっています。7月には青果卸売場の一画に1千㎡の冷蔵庫を建設・稼働するなど積極的な設備投資に取り組まれています。この冷蔵庫の概要と目的は?

搬出入の効率化のためオーバースライダーとシートシャッターを併用している
卸売場に千㎡の冷蔵庫整備

堀=冷蔵庫の概要は以下のとおりです。

(面積)17.2m×18.458m=317.47㎡×3区画=952.41㎡
 内部はビニールシートで6ブロックに間仕切り
(庫内高) 4.50m
(出入り口)電動両開き(W3.5m×H3.5m)4個
 オーバースライドドア(W5.0m×H3.5m×2)2個
 手動片開き扉 6個
(冷蔵設備)日立スクロール冷凍機 6台(−10°C)
      パナソニック冷却器12台(10°C)

三つの用途、配送・パッケージ・温度帯別管理

冷蔵庫は固定壁の無いワンルームタイプでカーテンによる用途に応じた間仕切りが可能となっています。
計画されている用途は以下の三通りです。 

  1. スーパー配送タイプ
    場内からは通常の左右開扉から品物を随時搬入する。
    明け方の配送時は、外周道路側の全面オーバースライド扉を開け、トラックへの積み込みを一斉に開始する。積み込み時間を短縮、搬入側と搬出側のカーテンを仕切り、残荷の温度上昇を防止する。
  2. パッケージ作業タイプ
    冷蔵庫内を原体エリア、パッケージ作業エリア、完成品ストックエリアにカーテンで仕切り、商品の移動動線を冷蔵庫内に確保。冷蔵庫の庫外を経由しないことで商品の温度変化を抑える。
  3. 温度帯別管理
    冷蔵庫内の温度を細かく設定し、それぞれの野菜・果実に最適な温度帯での管理を可能とする。同時に過度な冷却を防止し、品質保持と環境負荷軽減の両立を図る。
冷蔵庫建設の目的はストックポイント

冷蔵庫建設の直接的な目的はストックポイント機能の醸成です。冷蔵庫、保冷施設は24時間、生産性のある運用設計を計りました。
そのために、協業できる意志と熱意のある仲卸、関係業者、あるいは異業種の企業とも連携し、市場内外に対する時間貸しなどで生産性を高め無駄の排除をしていきたいと思っています。

年間700億円の群馬県産野菜への貢献はかる

また、ストックポイント機能を整備することによって、年間700億円を生産している群馬県産農産物に対して、生産者の経費削減に寄与し、生産・販売の維持拡大に地元市場として貢献することも目的一つです。
群馬県農産物をスーパー、量販店、加工業者、病院、学校給食、産業給食、外食産業など、さまざまな実需者につなぐ基盤・プラットフォームを作りたいと計画しています。

パッケージとモーダルシフトを重視

具体的には、コロナ禍でお客様の要望が強くなった非接触型商品のためのパッケージ機能の拡充と、もう一点は高崎市場に近いコンテナ基地であるJR倉賀野駅を活用したモーダルシフトです。
これは、人員確保、人件費、土地代が高額となる首都圏では難しい業務です。
首都圏まで100キロの地の利を活用し、二つの機能を高崎市場で整備するサプライチェーンを、ぐんま県央青果が発信するビジネスモデルとして取り組んでいきたいと思っています。

―ありがとうございます。さらに具体的な経営方針と取り組みについて伺います。

以下、次号に続く