卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

佐賀青果に学ぶ‐県下8市場取扱高の70%シェア

佐賀青果市場

民設民営の地方卸売市場 「佐賀青果市場」が存在感を増している。
佐賀青果は3年連続で100億円を突破、佐賀県下にある8青果市場の取扱高の約7割を占めている。
交通の要衝にある立地とJA系市場の利点を活かした機能を整備し、博多、北九州、久留米の、三つの中央市場や熊本など、全国屈指の大型市場に挟まれる形で位置している中で県内、県外に広域流通拠点市場としての存在感が増しつつある。

近年、改正市場法などの追い風もあり、年商100億〜200億円の地域拠点地方市場が活気付いている。佐賀青果市場がなぜ活性化に成功しているのか、取材した。

1.(株)佐賀青果市場の概要

佐賀青果市場の令和5年3月期決算概要は以下の通りである。

(株)佐賀青果市場 令和5年3月期決算

取扱高

10,180,176

102%

(野菜)

(6,712,714)

100%

(果実)

(3,467,463)

105%

売上総利益

535,113

売上比5.3%

営業利益

29,067

0.29%

経常利益

53,221

0.52%

当期純利益

53,221(税引き前)

      (単位:トン、千円、%)

令和5年3月期決算は全国的に単価高などに助けられ好決算となった。佐賀青果も主力産品であるタマネギ、ブドウ、柑橘類が好調で、別表の結果となった。

このなかで特徴的なことは、売上101億円のうち、受託品が59%、買付品が41%とバランスが取れ、受託品粗利は7.88%、買付品粗利が4.79%と高い利益率をあげていることである。
この利益を確保していることで、荷主交付金と買参人交付金がほほ同じの合計1億1千万円を支出しつつ黒字経営を維持している。売上の1%を還しても売上総利益(粗利)は5.26%を確保している。

これらの数字は令和4年度限定の数字ではない。純資産は12億円を超している。市場用地の賃借料数千万を負担しつつ卸売会社として強い財務体質を作り上げている。経営は売上優先ではないことを実証する数字である。

JAが卸売会社に73%出資〜生産者がつくった消費地市場

佐賀青果市場は昭和25年に創立され、地域の民営市場を統合し昭和45年に現在地に新設・移転した。
資本金は9千万円。73%をJA佐賀県農業協同組合とJA佐賀市中央農業協同組合が出資している。いわゆる農協系市場だが実体は少し違う。

中央市場ではかつて、東京大田市場や仙台、札幌など大型中央市場に生産者団体が卸売会社として入場していた。
また地方公設市場の開設にあたって地元農協が出資したケースもあるが、佐賀青果市場はこれらのケースとも違う。

昭和25年に創立された前身の佐賀青果市場は農協出資によるものであったが昭和45年に現在地に移転開業した佐賀青果市場は、市場用地をJAが取得し、民営市場4社を統合し設立された卸売会社に借地として提供した。
さらに、卸売会社「(株)佐賀青果市場」にも資本を提供、その卸売会社の経営に役員を参画させているが直接的な経営ではなく卸売会社独自の経営を行っている。
出資比率で言えば農協市場であるが「JAが民営市場を集め市場を開設した消費地市場」という極めて特色のある卸売市場として誕生している。
いわば行政の役割を農協が果たした変形公設市場ともいうべき民営市場である。

第三者販売等の規制は初めからない

こうした経緯もあって、佐賀青果市場は開設当初から第三者販売等の規制はなかった。仲卸と買参人の明確な棲み分けがなく、仲卸は「市場に施設を持っている買参人」とも言うべき立場である。
この農協系と消費地市場卸という佐賀青果市場の立ち位置が、開場後の伸びに貢献している。

具体的には次のような取り組みである。

  1. 第一は、仲卸と買参人の垣根が最初からなかったため、当初、150人いた買参人が減少している中で、仲卸と卸が協力して市場の販売先開拓に取り組んだ。
  2. 販売先の拡大に向け、農協と連携しつつ平成元年に、量販店・スーパー向け対応を行う「佐賀フレッシュセンター」を設立、平成2年にはアグリファームを設立、早くから卸売会社として産地、買受人対応の機能を拡充させてきた。
  3. 第三は周辺の優良産地の青果物を「佐賀ブランド」として取り組んだことである。
  4. 第四は、そうしたハブ機能を持つ市場を目指したことから、物流改革にも早くから取り組んだことで24問題への対応がスムーズに進み、農水省の実証実験にも参加していること等である。
存在感強まる100〜200億地方市場

令和4年度決算は全国的に数量減、単価高、売上増となった卸が多い。
佐賀県下市場でも同じ傾向であるが、その中で佐賀青果はシェアを拡大している。

全国的にもR&Cながの青果や多摩青果、熊本大同青果、弘果弘前中央青果など、中央市場の大型卸に匹敵する地方市場卸が伸びている一方、数十億規模の地方市場の低迷が目立つなど格差が拡大している。

そうした中で注目されるのが100〜200億円クラスの卸売会社の健全経営である。
丸勘山形青果市場、石巻青果、ぐんま県央青果、浦和中央青果、倉敷青果、ファーマインド新筑豊青果、それに佐賀青果など、いずれも売上優先ではなく、加工や配送など独自の機能を拡充し販売に付加価値をつけることで売上拡大と利益確保を目指し、コロナ禍においても健全経営を維持している。

2.江原社長に聞く〜佐賀青果が伸びた要因

(株)佐賀青果市場 江原正 社長

―どこの市場も小売買参人は減っていますが、佐賀青果はそうした中で売上を伸ばし健全経営を維持しています。内部留保も多く財務的にも安定しています。どのような取り組みがなされているのでしょうか。

江原=佐賀青果市場は昭和45年に民営市場4社が統合し現在地に移転、開設した市場です。最初から仲卸、買参といった明確な区別はありませんでした。
市場内には仲卸機能を果たしている問屋が7社ありますが買参人でもあります。買参人はピーク時で150人ほどいましたが今は半減しています。
佐賀県下の青果市場はいま8市場あります。全体の取扱高は160億円ですから佐賀青果は約7割を占めています。

人口は減っても食料供給の機能は必要

市場は立地的に恵まれた場所にありますが、佐賀県の人口は80万人で県庁所在地である佐賀市が24万人です。人口は減っていますし買参人も減っています。
しかし、人口は減っても食べる人はいますし、生産する人もいます。生産される青果物を消費者に供給しなければならない。その役割に佐賀青果が必要とされる存在となりたい。そのために何をすべきかを考え取り組んできました。
売上が伸びない、儲からない理由はいくらでもありますし、その理由は確かに正しいのですが、しかし正しいけれど、その理由が分かっただけではあまり役に立ちません。問題はその先です。

生産者の立場に立ちハブ機能持つ市場を

小売商が減れば、スーパー、量販店を開拓するし、スーパーが衰退すれば業務用にシフトする。その時々に必要な役割を果たすことで必要とされる市場を作っていくことを目指しています。
市場も買参も減りましたが、その中で、必要とされるものは何か。基本は産地・生産者の立場に立ち、ハブ機能を果たす市場を目指すことが目標です。

販路開拓に第三者販売は必要

第三者販売は改正法で緩和されましたが、佐賀青果は、初めから販売先の開拓に力を入れてきました。仲卸、買参からの反対もありません。
平成元年に量販店・スーパー向け対応を行う佐賀フレッシュセンターを設立し、平成2年にはアグリファームも設立、早くから卸売会社として産地、買受人対応の機能を拡充させてきました。

販売先を広げなければ、一つの産地からA級B級を含めて荷を受けることは出来ませんし、受けることができないと産地からの信用・信頼は築けません。
もちろん、市場の売り先を広げることが目的ですから、仲卸の顧客を取るようなことはなんのメリットもありません。

売り先を広げないと必要なものも集荷できなくなることは仲卸さんも承知の上ですから、お互いに協力することで商売も広がります。
この合意が最初からあったことが、佐賀青果が比較的順調に伸びることが出来た大きな要因だと思います。

協力産地との深い連携

産地との連携は、幅広いお付き合いではなく、協力できる産地と深い結びつきを築いていく方針です。

もちろんお付き合いできる産地は多い方が良いのですが、我々の力も限られていますし、最初から産地は多くしないで深く結びつき、産地の立場に立って販売先を拡大することで信頼関係を築いて行きたいと思っています。

いまの最大の課題は物流

良い産地がある限り流通は必要ですが、問題は物流です。24年問題もいよいよ迫ってきました。北九州さんがモーダルシフトに取り組んでいますが、そうした取り組みも重要だと思います。

北海道はホクレンを中心にパレットの物流改革を行なっていますが、佐賀青果も参加し物流改革に取り組んでいます。プラパレの活用などパレット改革やクランプフォークリフトの導入、情報化に取り組んでいます。

情報と産地の結びつきが決定的に重要

ご存知のように、福岡には博多、北九州、久留米と三つの中央市場や新筑豊青果など有力市場があるほか、熊本、長崎があります。
周囲に有力市場がある中でなぜ伸びることが出来たのかというご質問がありましたが、私たちはそうした市場と競争している意識はありません。

周辺には優良産地がまだまだ広がっています。
佐賀県の農業生産額は野菜が343億円、果実が197億円ですから、佐賀青果が扱っている量はごく一部に過ぎません。佐賀県内8市場がそれぞれ売り先を拡大することで生き残る以外に道はありません。

佐賀県の農産物はタマネギ、レンコン、アスパラガス、柑橘類、イチゴ、ブドウなど多彩です。特に主力のタマネギは加工用等で伸びており、キャベツやレタスもタマネギとセットで伸びています。その販売先の一つに県外の市場もあります。実際、他市場の卸や仲卸との取引も増えています。

佐賀青果は、佐賀ブランドの商材を全国に向けて拡大できるよう取り組んでいます。よろしくお願いいたします。

3.取材を終えて〜佐賀青果に学ぶ

佐賀青果市場は農協系の市場だが、そうした市場には珍しく(と言っては語弊があるが)、農協系の消費地卸であることがプラスになっている。
市場法では、水産市場は消費地市場と産地市場に法的に分かれているが青果市場にはそうした法的区分はない。

本来ならば、生産者と最も結びつきが強いJA出資がマイナスになるわけがない。
しかし、生産者団体から小売買参人へ、販売というより分荷という側面が強く、卸売会社としての機能が弱いというよりも卸売会社とはそういう業務を行う会社であるという意識が強かったのではないだろうか。

佐賀青果市場を取材して、改めて感じたことは、卸売会社として年間100億円の商材を扱って、経営が成り立たないということはあり得ないのではないかということである。市場流通において完全な委託・手数料による経営はすでに過去のものになっている。
大型中央市場の卸売会社と同じシステムで経営する限り規模の拡大を目指す以外にない。
事実、民営市場として規模の拡大を目指したR&Cながの青果やキョクイチ、熊本大同青果等は、民営市場のノウハウを活かした経営ツールによって、中央市場を上回る実績を上げているが、全ての地方市場が目指すべき姿とするのは苦しいのではないだろうか。

むしろ、先にあげた100〜200億台の卸売会社、石巻や丸勘山形、ぐんま県央青果、浦和中央青果、倉敷青果、ファーマインド新筑豊青果などに学ぶべきことが多いと思う。

ぐんま県央青果やファーマインド新筑豊は大手のグループ卸だが、特徴的なことは経営の全責任を当該卸が負っていることである。グループ本体と取引面では相乗機能を活用するが、経営責任は個社単位である。佐賀青果がJA系であってもマイナス面よりプラス面を活用していることと同じである。
また中央市場だが、一時期、経営危機状態となっていた岡山大同青果は、神明グループに入ることによって赤字体質から完全に脱却するまでに改善されている。

グループ企業の場合は本体の方針が大きく影響するが、単体として健全経営ができている卸も含め、必ず学ぶべき点が多いと思う。
佐賀青果市場に初めて伺い、改めてそうした感想を持った。