卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

地方市場のあり方とR&C戦略‐堀雄一氏の話を聞いて

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初冬の富士は美しい(湘南深沢)

2021年11月26日、オンラインで開かれた藤島廣二氏が主宰する「市場流通ビジョンを考える会」を聞いた。
「ポスト・コロナの卸売市場を考える」を統一テーマに小暮宣文氏の講演と磯村信夫氏、堀雄一氏、松尾昌彦氏による鼎談で、午後1時から4時までの長丁場を感じさせない面白い内容だった。

それぞれに興味深かったが、中でも堀氏の話は非常に興味深く聞いた。
地方市場のあり方についての考え方と令和4年4月に統合される長野県連合青果と長印の年商1300億円規模となるR&Cホールディングスの経営方針を率直に、詳しく述べたことに驚くとともに共感した。

自分の勉強のためにも、以下、心覚えに堀氏の発言部分を要約する。
不正確な部分もあるかもしれないが、感想代わりなのでご容赦いただきたい。

市場流通の強みは需給調整と集荷機能

市場を通らないで流通している輸入品が多く。それが市場経由率低下を招いた要因だと思う。
市場流通の強みは第一に需給調整機能を果たしていること。食品の量と価格の変動を調整することは卸売市場にしか出来ない機能である。

第二は全国から多様な生産物を集め、どんな品でも拒否しない集荷機能である。
今後、市場外流通が増え、産地で売れ残った分のみが市場に出荷されるようなことにならないよう青果物流通の主力を担っていかなければならない。
国内青果物の市場経由率が50%を切るような事態になると卸の経営は厳しくなるだろう。

この二点が市場流通の重要な課題であり、代金回収や価格形成機能は、一時期ほどの重要性はなくなっている。

改正市場法とコロナによる卸と仲卸の変化

改正市場法とコロナによって卸と仲卸の環境も変化している。
最近、スーパー3社から卸との直接取引を求められた。
大田市場のように卸と仲卸が価格形成機能を持つ市場も必要だが、一律経営では特に地方市場は生き残ることが難しい時代になった。
物流中心の市場や仲卸が独自に産地開発に取り組む市場など、独自性が改正市場法のポイントになるだろう。

ウェブ対応による効率化と労働環境の改善

青果流通はコロナ禍でも減っていないことは先ほど説明されたが、取引面で大きく変わったのがウェブでの会議が増えたことだ。そのことでコストが落ち経営面でのプラスになった。
コロナの間、産地に行けなくてギクシャクするのではないかと思ったが全く心配なかった。必要な出張かどうかの判断もできるようになったこともプラスだ。
一方で人材確保は依然として難しく、今、グループで労働環境の改善を進めている。

早出は管理職で対応

今後の市場は流通センター型市場、商社型市場が増えてくるだろうが、当社が本社を置く上田市場は基本的に産地市場で小売買参人への販売は1割程度になっている。
産地からの集荷と量販店との受発注・配送は主に夕方からの業務なので、全員が朝早くから出社する必要はない。むしろ夕方からの業務が主力になっているのが実態だ。
系統の荷物は委託が多いが、実質は半委託で、量販店からの予約を受けて出荷先と価格面で事前に話し、その上で当日に販売している。完全なセリ販売ではなくなっている。
このため、上田市場では早朝出勤を減らしている。地物はセリだが、担当者が1〜2人いるだけで、後は管理職が手伝っている。

地方市場の強化策はローコストの仕組みづくり

地方市場の強化策はローコスト流通の仕組みづくりが課題。そのためのハード面とソフト面、両面からの改革が必要になる。
ハード面については、多くの人に来てもらう販売型市場か、物流中心の広域流通型市場か、どの方向に変えていくかだが、問題はソフトをきちんとしないとハードは機能しないことだ。

多様化する機能を市場にどう取り込めるかが課題なのだが、そのためには自由度を高めた営業のあり方にどう変えていくことができるかがポイントだと思う従来の市場のあり方からどう離れることができるか、営業環境は全く違ってきている。北海道から九州までそれぞれ違った環境にあった市場づくりをする。「金太郎飴」市場からどう変えることができるかが課題だ。

市場配置の問題

先ほど卸売市場の配置についての話があったが、今、主要な市場で複数の卸が営業している市場はほとんどなくなってきている。
量販店の台頭で広域化市場が必要になっているが、集荷力と情報力、企画力を持つ市場に集中している。開設区域の人口が多いか少ないかで市場数を論議する必要はない。

グループ市場間のネットワークは考えていない

今、R&Cはグループ市場として長野、東京、千葉、群馬に展開していて年間売上は1300億円になるが、このグループ各市場のネットワークは考えていない。
横持ち運賃を負担して採算をとるためには、運賃分より高く売らなければならない。そんなことは無理だ。
R&Cは、グループ経営によって赤字経営の卸を助けることよりも、独自に経営が成り立つ市場を目指す。それが見えない市場は閉じる。R&Cはそうした選択と集中による経営方針で取り組んでいる。本社に寄りかかる経営を行うことは危険である。
グループによる共同仕入れも可能だが、より強い市場同士が取り組む共同仕入れでなければメリットはない。

連合・統合からR&Cに 基本はローコストオペレーション

連合青果は45年前に設立された。
直接に集荷することが難しくなってきたため、社名が示すように長野県下各地に点在していた民営市場が連合することで集荷を拡大してきた。そして小売から量販へと流通が変わるとともに、各地に展開していた市場の効率化と連携による拡大を図ってきた。

この流れは改正市場法とともに変わる。
長野県連合青果と長印は令和4年4月に統合することで準備を進めているが、基本はローコストオペレーションであり、拡大から再編・集中が課題となる。
全ての市場が残るためのローコストオペレーションではなく、効率的なところが生き残るローコストオペレーションである。
これがR&Cとしての考え方であり地方卸売市場として生き残るためのキーワードになるだろう。