卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

卸売会社の生きる道‐八戸中央青果のチャレンジ

八戸中央市場前の道路を挟んで「八食センター」がある

横町芳隆 社長

(農林リサーチ22年10月号より転載)

改正卸売市場法時代に入り卸売市場・卸売業者はどのように変化しつつあるか。

八戸市中央卸売市場は青果部のみの中央卸売市場として半世紀近い歴史を持ち、改正市場法の方向を先取りした独自の経営戦略を持ち活性化に取り組んでいる。

八戸市中央卸売市場の卸「八戸中央青果(株)」を訪ね、横町芳隆社長に改正市場法時代における卸売会社の経営戦略を聞いた。

1.規模の拡大か機能の強化か〜中規模卸の選択

東京青果を筆頭に1000億円を超すグループと500〜1000億円の大型卸の占める割合が高くなっている中で、注目されるのが200〜300億円規模を形成している中規模卸の経営のあり方である。

中規模クラスの卸売会社が「卸し売りによる手数料業者」をどのようにして脱却するか、規模と機能の二兎を如何にして追うか、その成功事例が八戸中央青果である。

八戸中央青果と横町社長は市場業界でもよく知られている存在であり、ホームページを見てもユニークな社風は際立っている。

改正市場法時代における卸のあり方について、ぜひお話を伺いたいと思っていたが、開口一番、「話すほどのことはないし特別なこともやっていません」である。
仕方がない、とりあえず八戸中央青果の特徴的な取り組みを列挙し、八戸中央青果の取り組みの何が特別なのか、個人的な感想を述べる。

2.八戸中央青果の取り組みと特徴

① 改正市場法よりはるか前から30億円かけ機能強化施設を整備

第一の特徴は中央市場の卸としては異例とも言えるほど多くのグループ企業を設立し機能強化を図っていることである。

昭和52年開場の3年後に第一冷蔵庫棟を建設、青果卸が本格的な冷蔵庫を建設するケースは珍しい時期であった。
冷蔵庫は卸売市場の必要施設ではなかったため、卸が建設しても行政に寄付し使用料をゼロにするか、あるいは卸の資産勘定に入れるためには市場外に自己資金で建設するかの二択しかなかった。

結果的に、八戸中央青果は自己資金による建設を選択し、その後も予冷配送センター、第2号冷蔵庫、売場内保冷庫、予冷配送センター(後に集約し青果センターとし真空予冷設備導入)パッキング棟、等々、相次いで建設している。

② 総額で30億円にのぼる設備投資は大部分が自己資金である

「そんなにお金があったのですか?」「ありませんよ、銀行から借りました」
そんなやりとりの後、なぜ自己資金で整備したのか、中央市場の施設は開設者責任ではないのか、予冷配送センターは平成2年に整備されているが、温度管理や配送機能を長期にわたって整備してきた狙いは何か、その費用対効果はどうだったかを伺った。

「公設市場ですから八戸市が国の支援を受けて整備することが基本です。要請すれば八戸市も進めてくれたと思います。しかし、遅い。5年以上、ヘタをすると10年かかる。
この市場は周辺に優良産地が多く、生産者と青果物業者が協力し、青森で最初の青果市場として誕生した八戸農産市場が母体です。」

「地域農業の振興と青果物の安定供給が企業理念ですから農産品の品質維持と配送は最初から卸としての主要な業務でした。必要な施設でも10年経つと変わる。
今、必要な機能は借金をしても整備すべきだと思い取り組んできました。10年以上かけて少しずつ整備してようやく現在はリンゴやニンニクなど主要農産物を一日300トン予冷できるまでになりました。」

「費用対効果はどうだったのかという課題は視点が違います。あくまで生産者、買参人へのサービスです。
屋根の軒下を延ばした時も、買参人から批判が出ましたがサービスの一環だと説得しましたし、真空予冷施設も導入することで、出荷業者や生産者を回りましたが、品質については九州まで運んでもクレームは出ていません。」

「売上増につながったかどうかは分かりませんが、強いて言えばコロナ禍でもそれほど落ちないでいる要因にはなっていると思います。」

③ 業務の集中と分散〜グループ7社の機能

八戸中央青果の何よりの特徴が早くから機能別に子会社を設立しグループとして求められる業務をおこなっていることである。
「情熱市場」を社風に取り組み、平成20年には「株式会社情熱市場グループ」まで設立している。
運送会社も開場と同時に設立し、加工、カット野菜、カットフルーツ、パッケージ、輸出入も独自の組織があり、新たに花き事業も承継、仲卸もグループ化するなど改正市場法の施行によって多角的なグループ企業の展開がさらに進んでいる。

       グループ7社

昭和62年

八戸市場運輸(株)

物流

平成20年

八戸農産加工(株)

加工・パッケージ

平成20年

(株)情熱市場グループ

輸出入

平成24年

(株)ベジフルエイト

カット野菜

平成27年

(株)フレッシュエイト

カットフルーツ

令和2年

(株)あおもり花工房

花き生産事業

令和4年

第一青果(株)

仲卸

7社の従業員は合計160人であり八戸中央青果を上回る。売上も利益もまだまだ本体には追いついていないが、改正市場法がめざす方向を全て自力で切り拓き整備してきた。

今後の卸売会社健全経営には、年商500億円以上が必要という声も多いが、年商300億円〜200億円クラスの中規模卸でもこれだけのSCM(サプライチェーンマネジメント)が構築できるのである。

今後の八戸中央市場と八戸中央青果の発展には、これら7社のグループ企業の取り組みが成否の鍵となるだろう。

④ 5つの社内委員会と7つのクラブ活動

これもまたユニークな社風を象徴しているだろう。
名前だけを挙げると、親睦委員会、美化衛生委員会、文化教養委員会、健康推進委員会、風紀向上委員の、五つの社内委員会と野球部、ゴルフ部、陸上部、ワンダーフォーゲル部、フットサル部、ヨガ部、ソフトバレー部、ボウリング部がある。まるで高校のクラブ活動のようだが、社内でこれだけのサークルがありコロナ禍の中でも活動している卸はおそらく少ないだろう。

東京や大阪ならば必要はないかもしれないが、八戸において企業がこうした取り組みを行うことは、人材の定着、社内の福利厚生だけでなく交流も含めた地域への支援、活性化に貢献できるSDGsの取り組みとなっているのだろうと思う。

3.八戸中央青果に学ぶ

一般的には中央市場は規模、地方市場は小回りの利く機動性と機能が特徴であったが、改正卸売市場法を契機に、この垣根もなくなりつつある。

札幌や仙台、名古屋など次々に再編を強化し規模の拡大を柱としつつ加工、物流、Eコマース等の機能強化と規模の拡大を進めている。日本経済と同じく市場流通においても「格差」が進んでいる。

そうした中で、本州最北端の地、青森県は県庁所在地の青森市と八戸市、二つの中央市場とリンゴに特化した中央市場規模の弘前地方市場があり、三つの市場は共に広域拠点市場としての役割を果たしている。

八戸市中央卸売市場は八戸市を中心とする3市9町と岩手県北を商圏とし、優良産地に接した産地市場的性格を持つ中央市場であるが、大型消費地中央市場に比べると決して有利な条件とは言えない。

その「有利な条件とは言えない」条件を有利に活用したのが生産者に密着したサービス機能としての品質管理と配送機能の充実である。

そして3年に及ぶコロナ禍とグローバル経済の限界による国内第一次産業の重要性が高まることによって、八戸中央市場の持つ強みと弱み、いわゆるSWOT分析風に言えば主体的、社会的環境ともに大きな追い風となる優位性が全面に出始めている。

首都圏との取引や24年問題となる物流も栃木県南市場との連携など新たなサプライチェーン構築も着々と進めつつある。

再整備をどう有利な条件にするか

一般的には「好況時は分散、不況時は集中」が経営の原則と言われているが、八戸中央青果は不況時にもグループによる機能の棲み分けを進めている。
機能面での施設整備も一段落したが、7年後には50周年を迎える施設の老朽化・再整備という大きな課題に直面する。

施設の老朽化はマイナスだが、八戸中央市場は、改正卸売市場法を追い風にして再整備の課題をも有利な条件に変えるのではないか、八戸中央青果の取り組みは、そうした期待を抱かせるに十分である。

青森の風土に生きる企業

取材した感想は、八戸中央青果はまだ伸びるだろうということである。
そう感じた根拠は何より「地域農業の振興と地域住民への青果物の安定供給」という創業の理念が今も経営の柱となっているからである。
それを象徴している一つが「あおもり花工房」である。
「あおもり花工房」は、六ヶ所村の雇用と産業を守るために令和2年6月、六ケ所村の誘致企業として認定、資本金5千万円で設立された。従業員は36名である。
横町社長は「青森に根ざした企業となることを願って社名に(あおもり)を付けた」と話している。

三つの企業理念は最初に「私たちは、花と緑の力を信じ」という言葉がある。グリーンは生命の色であり良い言葉だと思う。公設市場の卸として効率性を追求しつつ公共性を忘れない、こうした企業こそが掛け声だけの「SDGs」市場ではないサスティナブル市場として継続発展してほしいと願う。

八戸市中央市場の前には、全国的に知られている観光市場「八食センター」があり、さらに協同組合八戸総合卸売センターも整備され、「第一物流センター」12,637平方メートルなど約6万平方メートルが既に完成し、さらに拡げつつある。

八戸市にとどまらず東北の拠点物流施設機能が集中している地域であり青森県の主要産業である青果、水産の生鮮食品流通の拠点としても機能していくだろう。

横町社長は63歳、45歳で専務となって以来、オーナー社長ではないが実質的には八戸中央青果の骨格を作り上げた存在である。

今後、横町社長は八戸中央青果だけでなく、青果部(卸1社、仲卸6社、関連7社)、花き部(卸1社、仲卸4社)さらに売買参加者210人、買出380人を含めた市場全体の将来に責任を持つ役割を担うことになるだろう。