卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

市場施設における卸売場・仲卸売場の変化‐「販売する場」と「物流動線」をセット

(「全青協」2023(令和5)年6月号より)

物流の重要性が高まるとともに、市場施設における卸売場、仲卸売場が大きく変化しつつある。

取引面での規制緩和によって、卸と仲卸の機能は重なる部分が増えている。とりわけ、物流部門は搬入から搬出までの施設内の動線が重要になっており、従来の卸売場、仲卸売場の概念が変わった。

そうした施設面での売場の考え方の変化を、成田新市場、姫路新市場の場合を取り上げ検証する。

(写真1)成田新市場青果卸売場と仲卸店舗。左側が搬入口、白線内が仲卸売場。店舗奥は搬出口

成田新市場における売場

令和4年1月に開場した成田新市場は、卸売場の一画に白線を引いた部分を「仲卸売場」とし、壁のある部分をハウス、その先の搬出口に面した面は白線を引いた「ヤード(作業場)」となっている。(写真1)

従来の店舗部分は20平方㍍もないほどであり、売場と作業場は倍以上ある。
搬入口―卸―仲卸―作業場―搬出口が直線コースで繋がっている。
卸売場に白線を引いたエリアを「仲卸売場」とするのは、すでに札幌中央市場にあるが、成田市場は仲卸店舗の前の卸売場に白線を引いたエリアが「売り場」であり店舗と卸売場が一体化している。

こうした配置とすることで多くのメリットが生まれた。
・成田市場は全量相対であり、卸売場から仲卸売場に運ぶ必要はなく、卸売場に搬入した荷物はそのまま仲卸のエリアに置くことができる。コストと時間の効率化は大きい。
・独立した仲卸店舗を作らないことで建設コストが抑えられ、使用料に反映できる。(成田市場の使用料は5年間の激変緩和である。初年度はコロナ支援もあって現行の半額からスタートし、5年後に現行の1.2倍程度になる。

(写真2)姫路中央市場仲卸売場 上部に店名のみある

姫路市場における売場

令和5年3月に開場した姫路新市場の仲卸も成田と同じコンセプトだが、仲卸数が20社と多いこともあって卸売場と直接接していないが、規模を拡大、効率化し、仲卸店舗、仲卸売場、ピッキング場、搬出口が一体化している。
仲卸店舗は白線でエリアを決めているだけである。

(写真2)のように見ただけでは仲卸店舗か卸売場かよくわからないという状況である。保管・ピッキング場は仲卸の希望によって決められている。

仲卸売場からピッキング、配送へとスムーズな流れになっていて、機能的には優れているのだが、姫路市場は仲卸主体市場であり卸の売上に匹敵する大手仲卸が何社もあり、仲卸20社が必要なスペースの確保は難しい。
こうした大手仲卸が必要とする機能施設を市場内に整備することが新市場発展の要であったのだが、それが実現できなかったという大きな課題が残っている。

卸売場整備の4割補助廃止〜多角活用が可能に

卸売場と仲卸売場の機能強化はかなり前から指摘されていたにも関わらず、なぜ改善の歩みが遅かったのだろうか。
改善が遅れた要因の一つは卸売場の多角的な活用が制限されていたからであり、もう一点は仲卸独自の物流機能が法的に重視されていなかったからである。

旧市場法による卸売場は、集荷した野菜果実を全量並べ、その場で仲卸と買参人に販売し、所有権が移転した仲卸と買参人がそれぞれの責任で運び出し、取引が終わった卸売場には残荷しか置かれていない、それが「卸売場のあるべき姿」であった。
卸売場は市場の中心機能であるから、補助率も高くするが、その代わり、「卸し売り」以外に使うと用途変更になり、補助金の不正使用となるので残っている補助金は返還しなければならなかった。

例えば、卸2社が統合し1社となった市場の卸売場は広すぎるが他に使おうとしても許されない。「加工や配送は市場の重要な機能だ」と言い続けてきた国の立場も具合が悪い。改正法は新機能が整備の必要要件だが、旧法は禁止要件という矛盾にもなる。
卸売場の多角的な活用を可能にするためにも機能別の補助率は廃止せざるを得なかったのである。

仲卸機能と仲卸売場の役割

補助率の違いが廃止されたことで、卸売場の活用方法は広がった。卸にとっては大きな追い風である。
仲卸はどうだろうか。
仲卸もまた、直荷の規制が原則緩和された。

旧法による「仲卸」の位置付けは、卸売場で卸から買った品物を仲卸店舗に並べて、そこで仕入れに来る買い出し人や買参人に販売する。仲卸業務としてはそこで完結するのである。だから基本的には車の必要性は少ないし、事務所も不要である。

東京神田市場や築地市場の仲卸は、青果、水産ともに場内に事務所を持つ仲卸は少なかった。売場に帳場があり、そこで売渡伝票を書き、代金をもらうだけである。
詳しく述べる必要はないだろうが、その「仲卸像」が一変した。

仲卸機能の発展と多様化

青果の場合、専門小売店の多くは買参人として卸から直接買う比率が高く、仲卸の多くは店頭販売よりも配送による販売比率が高くなっている。

こうした特性から仲卸は早くから加工・ピッキング・配送機能を独自に整備してきた。
特に量販店を扱う仲卸は売上も大きいだけに卸売場から仲卸店舗に全量を運ぶことはできない。入らないし店頭に全量を並べる意味もないからである。
結局、場外に自前の配送センターを作るか、あるいは卸売場に買ったものをそのまま置き、必要に応じてそこから運ぶことが常態化したのである。

仲卸機能と仲卸売場の齟齬

旧成田市場のような「卸・仲卸市場」は、地方市場では珍しくないケースである。
また量販店を扱う大型仲卸が、既存の「仲卸店舗」で必要な機能を充たすことは無理である。実際の仲卸が果たしている機能と、市場施設の仲卸店舗が合わなくなっているのである。

その解決策としての取り組みも行われている。
札幌中央市場は仲卸店舗の広さに比べて売上の大きさが大きいことで知られている。
場外に配送センターを持っている仲卸も多いが卸売場にそのまま置いている仲卸も多かった。

この状態を開設者のイニシアティブで改善し、卸売場の一画を「仲卸売場」として希望者に貸した。卸売場の用途変更になる恐れもあったが、結果的には仲卸は時間的にもコスト面でもプラスになり、卸売場で商談できるというプラスも生まれた。

仲卸店舗と売上のアンバランスは東京大田市場が典型であろう。
バブル最盛期に開設された市場は、卸売場と同じフロアに屋根付きの2階建て仲卸店舗を並べるという市場機能とは無縁のデザイン優先の施設となった。「屋上屋」ではなく「屋内屋」である。

今、大田市場の卸売場は24時間、荷物が置かれている。場内に東京青果が仲卸用配送センターを建設し、東京都も配送・加工施設を建設しているが、それでも足りず、トラックバース予約システム等に取り組んでいる。

仲卸機能にふさわしい仲卸施設の実現を

さらに豊洲市場においても搬出口に近い仲卸店舗はビニールの透明カーテンで囲っただけの「仲卸店舗」が認められた。

こうした、旧市場法時代の施設の問題点解決は、いわば「付け焼刃」ともいうべき対応を行わざるを得なかったのだが、再整備を契機に改正市場法の趣旨を生かした卸売場、仲卸売場が整備され始めた。

それが福岡新青果市場、飯塚公設地方市場、成田新市場、さらに令和5年3月に開場した姫路新市場、京都市場塩干棟等である。

こうした流れは今後、中央市場、地方市場ともに加速するだろう。

今後の卸売市場の整備・活性化にとって、仲卸機能にふさわしい仲卸施設の整備が市場内でどのように行われるかが決定的に重要な課題となるだろう。