卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

24年問題と市場流通その3〜北海道における物流と市場卸の変化、マルスイHD武藤社長に聞く

(全水卸24年03月号より転載)

「24年問題と市場流通」第3回は北海道の卸売市場の変化である。
コロナ禍や世界的紛争による物流の停滞によって、グローバル経済の限界と食料自給率の向上が新たな課題となっている。
北海道の重要性は今後増すことはあっても減ることはないだろう。相次ぐ震災、海洋資源の減少の中で、そうした社会的責務に北海道の卸売市場はどのように応えていくのだろうか。

全水卸副会長であり札幌市中央卸売市場「丸水札幌中央水産」の武藤修会長(マルスイホールディングス社長)に聞いた。

「丸水札幌中央水産」の武藤修会長

1.物流24年問題の対応〜物流効率化は場内荷降ろし改善から

― まず、札幌市場における物流問題について伺います。物流24年問題の解決に向けどのような取り組みが行われているのでしょうか。

武藤= 正直に言いますと24年問題に対する危機意識は薄いように感じています。
危機意識が薄い理由の一つは、札幌は道内どこからでも、どこへでも8時間以内に配送できることです。

しかし人口減、高齢化などのドライバー不足により市場物流も深刻です。

札幌市場は平成19年に市場再整備を完了していますが、物流の効率化は第2次経営展望(2021〜2030)において活性化の目標としてあげています。
国の物流の政策パッケージにも出されていますが、札幌市場における当面の課題は市場内の荷降ろし作業の改善です。

取引開始前の荷降ろしを徹底させるために、例えばパレットの規格統一、国が進めている11型パレットで統一し、すでに青果は進行中ですが水産の方はまだそこに至っておらず、かつ、台車への積み降ろしは行わないためにフォークリフトなどの拡充や、トラックバース予約システムなどIT化も物流効率化のツールとして活用したいと思っています。

2.漁獲魚種の変化と道内市場流通〜魚はいても人は減る

―札幌市場は立地的にも経済的にも北海道の中心です。北海道全域の生鮮流通についてはどうでしょうか。

武藤=北海道の人口500万人のうち、札幌市は200万人と4割を占めています。札幌が中心であることは明らかですが、2050年には北海道の人口は100万人減るだろうと予測されています。
それだけ過疎化が進むことになります。

確かに水産資源の面では、三つの海に囲まれている北海道の重要性は増すでしょう。しかし流通の担い手も減ります。卸売市場も減っています。
流通圏としては道央、道南、道東、道北、それにオホーツクに分けることができますが、人口減とともに市場数も減っています。

現在、北海道には中央市場が札幌1市場、地方市場は約70の水産市場があります。
うち産地市場が40と過半を占めています。
道央が26市場と多く、道北は広いのですが13市場です。
生産者の高齢化も進んでいますし、運送会社も減っています。
過疎地域にある荷主では水揚げした魚を翌日配送にせざるを得ないという事態も起きてきます。

水揚げ魚種の激変への対応

― 私が住む地域のデパートでは、北海道展が変わらず圧倒的な人気です。

九州が故郷ですので個人的には残念な気もするのですが、そうした北海道の魚も最近、水揚げされる魚種が激変しています。

武藤= 報道されているように秋鮭やサンマ、イカの不漁が続きイワシやブリの大漁が続いています。
函館の港に500トンを超すイワシが漂着したと聞いて驚きました。今まで聞いたことがありません。

水産資源の変動は読めません。気候変動による海水温の上昇や海流の変化によるものでしょうが、今まで北海道民にはほとんど馴染みのないブリやフグが今や日本一の漁獲量になっています。
ブリは1万トンを超しサンマ、イカを上回っています。脂の乗った上物が揚がっていて関東や中部で人気です。
フグも2010年は84トンで全国19位でしたが2020年には927トンになり、2位の石川県の2倍以上になっています。

こうした水産資源の変化はもはや一過性のものではないと思います。
我々、水産物の流通を担う立場で言えば、北海道民にブリやフグをもっと食べて頂くように取り組むことが必要になっています。
ブリはすでにさまざまなメニューが開発されはじめましたが、知られていないのがフグです。
水産物でもトップクラスの価値を持つ魚ですが調理が難しいこともあって、今まで九州や山口方面に出していましたが、これを道民に親しんでいただくこともわれわれ市場にかかわる業者の対応の一つだと思います。

幸い、北海道調理師会もフグの調理師免許取得のための講習会を行っています。10年近く、毎年水揚げは増えていますし今後も安定して供給できる商材ですので、こうした消費促進も将来的な経済・地域活性化に貢献できる取り組みだと思っています。

3.道内集荷ネットワークの構築に向けて

― 次に道内の集荷ネットワークについて伺います。

札幌を中心とした道内の集荷ネットワーク構築は、今後さらに重要な課題になってくるでしょう。
いろいろな方策があるでしょうが、どのように構築されるのでしょうか。
マルスイホールディングスには従業員170人を抱える(株)エス・ケー・ラインという運送会社がありますね。エス(札幌)、ケー(協力)、ライン(流通)というスマートな社名で、昭和29年設立の古い会社ですが、こうした運送会社の体制も整備されているのでしょうか。

武藤=エス・ケー・ラインは、もともと市場内配送をやっていた会社を引き受け社名変更した会社です。
3月で70周年になる古い歴史を持っていますが市場機能としての物流を全て担うことは難しい。市内の配送が主で本州、道内各地とは協力運送会社と提携していますが運送会社は減っています。

現在は市場内物流の効率化に取り組んでいる段階ですから、北海道全域の物流ネットワークの構築はこれからの課題になります。

水産流通のRFIDにも期待

― 物流関係では中央魚類グループの(株)水産流通(長本克義社長)がつくった札幌市北区新川の「北海道ペスカ札幌センター」があります。
水産流通は東京豊海をはじめ全国に12か所の配送センターを短期間につくっています。また近年は物流の効率化に向けてRFIDの開発も進められてプリント化まで成功しています。

武藤=水産流通の長本さんとは古くからの付き合いですし、ペスカについても協力して活用しています。

RFIDの話も聞いていました。
昨年度でしたか農水省の実証試験をやられて、高温、冷凍、水中での性能実験をいずれも問題なくクリアできたようです。

RFIDが水産市場において普及しない最大の理由が水に弱いということでした。
水中でも使え、周囲の温度に影響されないならば、検品、出荷等の作業効率はバーコードとは比較にならないほど改善されます。大いに期待しています。
問題は価格ですが、プリント化されたということですので、下がればぜひ使いたいと思っています。

カネシメさんとの共同配送も

― 青果部はすでに2社が統合し札幌みらい中央青果が誕生しています。ホクレンという生産者団体が卸に入っていますので道内産地から独自の集荷体制を構築しています。
札幌市場としての物流を考えるなら、水産部においてもカネシメ高橋水産との協力を考えても良いのではないでしょうか。カネシメ高橋水産も100周年を迎える節目の年になります。そうしたお話はないのでしょうか。

武藤= マルスイとしては協力会社の開拓やエス・ケー・ラインの拡大などが課題ですが、将来的には人口減が進む道内物流をマルスイ単独でカバーすることは難しくなるでしょうし、お隣のカネシメさんと別々にやっている必要もないと思います。
まだカネシメさんと話し合っているわけではありませんが、将来的にはそうした話し合いも必要になってくると思っています。

4.札幌市場卸売会社の今後のあり方〜カネシメ、道漁連との連携・協働

― さらに言えば、北海道には青果のホクレンと同じく北海道漁業協同組合連合会(道漁連)があり、道内に74の漁協、1万5千人の生産者がいます。漁業法の改正等によって漁協も今、独自の販売開拓に力を入れています。
水産業の生産から消費に至る流通ルートが多く分かれていることはプラスの面も多いと思いますが活性化という面では提携・効率化も必要になってくるのではないでしょうか。

武藤= 北海道の人口が2050年に100万人減少するということは、漁港の過疎化もさらに進むということですから、多くの漁協にとっても深刻になってきます。
私は細川允史先生がおっしゃっている広域市場連携を目指すことも考えるべきではないかと個人的には思っています。

漁協も今、さまざまな形で販売に力を入れていますし、漁協の統合など組織整備に取り組んでいます。
我々、市場業者も協力しつつ販売開拓に力を入れていますが小さな漁協も多く、先ほども言いましたが24年問題による運送問題で、水揚げした魚を出荷することすら難しくなっています。市場卸も入荷体制の整備だけでなく集荷をどうするか、道漁連と協力した協業体制が必要になってくるだろうと思います。

先ほど質問されましたが、カネシメさんとマルスイ、それに道漁連さんやキョクイチさんも目指す方向は同じなのではないか、それなら3社もしくは4社が、札幌中央市場という行政が用意してくれたハードを活用して社会的インフラ機能を整備することが、水産業発展に向けた業界の社会的責務ではないかと思っています。

5.手数料業者からの転換〜卸売手数料6.5%時代への対応

― 少し話がそれますが、物流の24年問題と密接な関係にあるのが卸売委託手数料です。大正12年の中央市場法は、それまでの商習慣であった大問屋の口銭(手数料)10%を上限として法定の手数料制度としています。

その法定手数料制度がいろいろな経緯を経て改正され、現在は自由化され届出制になっています。

岡山中央市場が今年、卸2社がそれぞれ手数料を5.5%から6.5%へと上げています。現在、多くの水産市場は委託よりも買い付け主体の集荷になっていますが、物流の24年問題を契機に市場側にも負担が増えることになるだろうと思います。

すでに広島でもそうした手数料を上げる動きがありますし、九州では宮崎が地方市場に転換した際に手数料を7%としています。制約がなかった地方市場では、すでに8%という市場もありますし、9.5%が法定であった花き市場では15.0%にするケースも出ています。

札幌市場でもそうした動きはないのでしょうか。

武藤= 岡山市場や広島市場でそうした動きがあることは聞いていました。

札幌市場も同じような状況で委託と買付の比率は2−8と買い付けが多くなっています。マルスイとしても昨年から検討し、現在の手数料率5.5%を6.5%に上げる事に決め、荷主さんたちにも説明をしているところです。

まだ開設者への届出はしておりませんので(2月9日現在)正式ではありませんが、この会報(全水卸)が出るのは3月号ですよね。それでしたらマルスイとして卸売手数料を6.5%にすることを決めたと書いても構いません。

― ありがとうございました。

取材を終えて

取材に伺ったのは2月9日で、その前日に行った。飛行機は満席で平日なのにさすが札幌は人気だと思ったら雪まつりだった。
知らなかったがやることもないので大通公園まで歩いて行った。

昔、大通公園で自衛隊の隊員が大型トラックから雪を下ろして巨大な雪像をつくっているのを見て大変だなと思ったが、それより道路を歩く市民がほとんど関心を示さず通り過ぎていたことが驚きだった。
今は変わったようで可愛い雪像が並んでいた。

北海道における札幌の一極集中は随分前から言われていたが、道内人口の40%を札幌が占めていることは知らなかった。
1月下旬に函館市場関係者の、関東の市場視察に同行したが、途中、函館市の方に電話が入り、函館の港にイワシが数百トン漂着し市の職員が総出で出かけたという連絡があった。

新鮮なイワシなら美味いなと呑気なことを考えたが、漂着したイワシは積み重なると臭気がすごく、海水と砂混じりなので焼却もできず肥料にもできないそうだ。
改正市場法によって、全国の卸売会社は商社機能の強化に力を入れているが、札幌市場の卸2社は早くから鮭鱒魚卵を主体にした加工原料確保のための輸入物に力を入れており、ピーク時には2社で2千億円規模となった。

現在は輸入物の激減によって売り上げは半減している。しかし売上の半減は利益の半減ではない。マルスイ、カネシメともに北海道を主体にした国内水産物の供給拠点にシフトし、経営の安定化を実現している。

そしてコロナ禍や紛争によって世界的な物流の停滞を招き、各国ともあらためて自国の食料自給率向上に力を入れはじめた。
日本ではいうまでもなく水産物の供給拠点は北海道であり、この流れは変わらないだろう。

SWOT分析風に言えば、札幌市場をめぐる社会的環境は明らかに「T」(スレッド・向かい風)ではなく「O」(オポチュニテー・追い風)である。
主体的環境もマルスイ、カネシメの500億円規模の卸2社が並立している。
マルハ系、ニッスイ系というゆるい括りもマイナスではなくプラスだろう。W(ウイークネス・弱み)ではなく、S(ストレングス・勢い)であることは明らかである。

マルスイは2022年1月1日付けで、竹田剛 代表取締役社長、武藤修 取締役会長兼マルスイホールディングス(株)社長の新体制となった。
社外取締役には北海道大学から東京海洋大学を経て北海学園大学の水産政策、地域経済発展の教授となった濱田武士氏が入っている。卸売市場の社会的貢献を目指すに相応しい陣容である。

卸売委託手数料の動きについてはまた稿を新たにして検証する。

マルスイホールディングス(株)グループ

 

事業内容

年商

従業員数

丸水札幌中央水産(株)

卸売事業者

513億円

134名

マルスイ冷蔵(株)

冷蔵倉庫部

冷蔵倉庫業

6億円

21名

マルスイ冷蔵(株)

エース食品部

水産加工業

4億円

35名

マルスイフーズ(株)

水産物加工販売

4億円

21名

札幌丸水(株)

不動産賃貸

1億円

7名

(株)丸本本間水産

水産物加工販売

7億円

34名

(株)丸本本間水産マルゲン事業部

水産物加工販売

7億円

49名

(株)ヤマサ真田水産

水産物加工販売

11億円

27名

㈱パシフィックワールド

水産物輸入

5億円

6名

恵光水産(株)

食品販売

4億円

20名

(株)一印旭川魚卸売市場

地方卸売市場

60億円

61名

(株)エス・ケー・ライン

運送業・倉庫業

13億円

176名

㈱魚はん

小売業

36億円

96名

㈱やまた水産

仲卸業

21憶円

30名

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