卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

改正市場法と地方市場‐公設地方市場の減少と再編

(農林リサーチ2022年8月号より転載)

1.地方市場の減少

       市 場 数 の 変 化

 

R4年1月

R2年6月

H 24年(2012)

中央市場数

65

64

64

地方市場合計

907

1014

1169

(うち公設市場)

143

147

153

(うち準公設市場)

31

31

31

(うち民設市場)

733

836

985

(農水省市場室発表より筆者作成)

令和4年1月現在の卸売市場数と、改正市場法による認定前の令和2年6月の市場数、および10年前の平成24年の市場数である。
2020年の改正市場法によって認定された卸売市場数は、中央市場数は65市場で変わらず(仙台の青果・水産と花き市場が別になったことによるプラス1)、地方市場は100を超す減少となった。

中央市場数は91市場(昭和60年頃)まで増えたが、その後、再編によって26市場減ったが、ここ10年間は変わっていない。中央市場再編は一応峠を超し(東京11中央市場を除く)機能強化と施設整備へと移りつつある。
これに対し地方市場は、10年前の平成24年と比較すると252市場が減少している。
この252の減少のうち改正市場法が施行された令和2年6月から令和3年12月までの一年半の期間に103市場が減少している。改正市場法施行前の8年半と、改正市場法施行後の1年半の減少幅が同じなのである。改正市場法が大きく影響していることは明らかだろう。

もっとも、この地方市場の減少はすでに卸売市場の実態がない市場も含まれている。
昭和46年の旧卸売市場法制定時に一律の基準を設け、当時、数千あった民営市場をなるべく多く行政の網を被せた「地方卸売市場:として管理しようという行政目的もあった数字である。
今回の地方市場の減少は、全てが1年半の間に経営不振で認定を申請しなかったということではない。民営市場の市場再編はこれからが本格的にすすむことになるだろう。

2.公設地方市場から民営化あるいは廃場となった地方市場

地方市場減少の中で目立たないが、注目すべきは公設地方市場の再編である。

平成14年(2002年)4月に新潟県長岡公設地方市場が民営化されて以来、多くの公設地方市場の再編が起きている。
この10年間でも苫小牧花き市場、鳴門、市川、富良野、足利等10を越す公設地方市場が民営化、あるいはいきなり廃場になっている。

民営化した要因は様々である。
最も多いケースは市場業者の経営悪化である(富士市、日立市、小樽市等)。
公設地方市場の場合、開設時の卸は開設区域内の複数の民営市場を統合して公設市場卸として入場するケースが多い。広域流通を対象としておらず、入場後の経営戦略で商圏を拡大できる卸は圧倒的に中央市場卸が有利である。
結果的に地域商圏内の小売買参主体の卸は、広域流通型市場卸の侵食に直面することになる。

そこから大手卸とグループ化して市場機能を維持するか(北見、市川、藤沢)、あるいは新たに入場する卸がない場合、公設市場開設者を民営化し、卸売会社が開設会社を兼ねる公設以前の民営市場となるケースも多い(館林、舞鶴、十和田)。

こうしたケースには民営化第一号である長岡や富良野のように、卸売会社が積極的に民営化を進めて販売戦略と施設の機能強化を卸として進めたいという民営化も出ている。
また、民営化せずそのまま廃場となった公設地方市場も近年増えている。

かつて公設市場が廃場となるケースは、松戸北部市場のようにグループ企業の経営戦略上の再編という意味合いがあったが、令和に入り、加古川、小樽、室蘭(青果)、西宮、士別と相次いでいる。

「公設市場の廃場」は民営化をしても経営に責任を持つ企業が出なかったということなのだが、特徴的なことは市街地にある立地条件の良い公設市場は卸の経営破綻を契機に市場を廃止し、市場跡地を再開発しようという自治体も出始めている(今治、加古川、室蘭)。

3. 群馬・栃木に見る地方市場の再編

レンゴー青果が入場し施設整備が進んでいる高崎市場

群馬・栃木で開設された公設・準公設地方市場の再編

3セク

群馬高崎

卸青果1、水産1、花き1 1979(H54)開設

公設

群馬伊勢崎

平成16年民営化 卸 青果1、水産1

公設

群馬桐生

平成21年民営化 卸 青果1、水産1

3セク

群馬館林

平成21年民営化 卸 青果1

公設

栃木県南

平成29年民営化 卸  青果1、水産1、花き1

公設

栃木足利

平成30年民営化 卸 青果1、水産1

 

こうした公設地方市場の再編を典型的に示しているケースとして群馬、栃木の再編を紹介する。
群馬県は4市場、栃木県は2市場の公設・準公設市場が整備されたが、現在は高崎市場を除き全てが民営化されている。

各市場の民営化に至る経緯を簡単に見る。

伊勢崎市場はなぜ破綻したか

昭和57年に市内流通団地に開設された伊勢崎市場は、水産卸2社、青果卸1でスタートした。
しかし取扱高は低迷、青果卸として長野県連合青果を誘致し伸びたがが伊勢崎市は市場運営からの撤退を決めた。
2億円をかけて施設の補修を行った上で15年間の無償賃貸借という破格の条件で平成16年に民営化した。

定期借地権でもなく固定資産税はゼロのまま公有施設を15年間無料で使い続ける民営化は、当時、市場業界の大きな話題となった。
「究極の公設公営であり理想形」と評価する考え方もあったが大きな問題を抱えていた。

土地・施設は公有であるため、業界は新たな施設や機能強化の整備ができない。
このため、量販店対応が主であるレンゴー青果伊勢崎支社は量販店の要請に応えた機能強化ができず、外食・業務用の配送主体であった群馬丸魚も場内に物流施設を作ることが難しいため、隣地に温度管理された配送センターを整備せざるを得なかった。

伊勢崎市場は民営市場として活性化する道は難しく、かといって流通団地として需要が高まっている地域の市場用地6万3千平方メートルを買い取って民営化することも難しい。
結局、15年間の無料賃貸借期間が終了しても解決せず3年間の延長となり、さすがに議会からもこのままの状態を続けることに批判が出てきた。
連合青果は早くから移転先を探していたが、玉村インターを中心に北関東の拠点となる物流団地に位置する高崎市場の「ぐんま県央青果」との統合が決まり、伊勢崎市の方針が決まる前に市場撤退を決めた。

群馬丸魚も場外の配送センター主体の営業である。高崎市場にもグループ企業が出店しており、卸「群馬県水」の大株主でもある。
こうした経緯を経て、伊勢崎市場は今年6月に1年後の市場廃止を決定した。

桐生市場は規模縮小・有償化に

桐生公設地方市場は、伊勢崎市場民営化の5年後、平成21年に伊勢崎市場と同じコンセプトで民営化した。
無料賃貸借期間は10年間であったため、期間終了が伊勢崎と同じ時期になり、同じように無料賃貸借の見直しが桐生市から出された。

指定管理者から民営市場の開設会社となった「桐生地方卸売市場(株)」と協議を続け、令和4年4月から次の内容で決着した。

  1. 市場用地8万6千㎡のうち国道50号線沿いの約2万㎡を市に返却する。
  2. 残りの用地、施設については開設会社が支払う(約3千万円の見込み)。

桐生は高崎、前橋、伊勢崎地区とは離れているため、統合や業務提携も難しく、群馬丸魚、マルイチ産商の3社で行っている共同配送などで営業を継続する。

館林・足利・栃木県南

館林市場は昭和62年に市、JA館林、卸「館林中央市場(株)」による第3セクター市場として開設、平成20年に民営化、卸である館林中央市場が開設会社となり、前橋市場の大手仲卸「丸合青果」を誘致し青果、水産、食品等の総合卸として営業している。

足利市場は、足利市が市場業者を母体とする土地所有会社から賃貸し公設市場として開設された公設地方市場である。
再整備を契機に平成30年に民営化、地域スーパーを誘致し、市場機能と共存する形で営業している。

また栃木県南市場は、自治体の事務組合による公設市場として発足し、指定管理を経て平成29年、市場関連事業者であった大手商社「荒井商事」を開設会社として民営化、以下、5年にわたって健全経営を維持している。
実態としては青果、花き卸が撤退するなど厳しい状況が続いているが、荒井商事が経営責任を負って青果、花き卸の営業を行い、地元自治体と連携しつつ地方市場を維持している民営市場である。

高崎市場を核とする流通再編

こうした各市場の状況と高崎の持つ立地場の優位性によって、伊勢崎と高崎、前橋の三市場による連携を進めることで高崎市場の拠点化が進んでいる。

とりわけ、令和4年4月から長野県連合青果伊勢崎支社とぐんま県央青果が統合、「ぐんま県央青果」として一本化された。
R&Cホールディングスグループとしてスタートし、すでに年間取扱115億円規模と群馬県下のトップシェアを占めている。
また水産卸「群馬県水」は前橋魚市場協同組合と相互買参人制度の協定を締結、二市場のどちらで仕入れても決済は一本化する協定を結んでいる。埼玉県魚市場とも取引面での連携を強めるなどの活性化に取り組んでいる。

花き部の「群馬県中央園芸(株)」も県下の拠点市場として機能しており、レンゴー青果が入場したことで市場施設全体の強化に取り組んでいる。
統合前の県央青果の保冷庫施設を使い、花き加工を行っていた「ウエスト」は、施設が手狭となったこともあり、使用していた保冷庫を県央青果に返還し、新たに500㎡の加工場を建設、6月から稼働している。

県央青果は返還された保冷庫をはじめ、今後も青果卸売場の低温化や配送・加工機能の強化など施設整備が計画されている。
R&Cを柱とした高崎市場の取り組みは、水産部の強化を含め北関東全体の市場流通再編に大きく影響してくることになるだろう。