卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

桐生市場用地一部返還−12年間の無償貸付期間終了

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桐生市場は業界の努力で配送施設等が整備されている

2009年に民営化した群馬県の「桐生地方卸売市場」(みどり市笠懸町阿左美)は、民営化後10年間無償貸借を行い、さらに2021年3月まで2年間延長してきたが、4月からは有償とすることを議会決定した。これにより、市場用地86,194 m² の年間使用料負担数千万円が発生する。

桐生市場はJR岩宿駅に接し、国道50号に面している恵まれた立地条件を生かし、青果「桐生青果」と水産「海商水産」の二社が営業している。

市場用地の無償貸付は、公設から民営化するにあたっての条件であったが、この10年間は生鮮流通の低迷やコロナ禍が一年以上続いたことで経営状況は悪化している。

そうした中で、年間数千万円に上る使用料を負担することは困難なため、業界は現在の約8万6千m²のうち、国道50号沿い、約2万m²を市に返還し、返還部分にある仲卸、関連店舗は移動することを決めた。

公設市場の民営化の走り

2000年初めの頃、市場流通の低迷と自治体の財政危機によって、公設市場の民営化が各地で取り組まれた。

公設から民営化の第一号となった長岡青果市場のように公設市場の土地・施設を有償で買い取り民営化したケースもあるが、伊勢崎市場や桐生市場の場合は、無償貸付が伊勢崎15年、桐生10年と長く、民営化にあたって施設の補修を行い、施設、用地はともに行政資産であるため固定資産税も発生せず、業界の負担は自らが使う施設の管理費用のみであった。

なぜこうした民営化方式が生まれたのだろうか。

その最大の要因は、民間企業による「商取引の場」である市場流通に行政が関与する必要は薄くなったという考え方であり、それに地方自治体の財政危機もあって全国的に公設から民営化や指定管理者導入が相次いだのである。

しかし、卸売市場の土地、施設を買い取る力は業界にはなく、多数の業者が営業する施設だけに市場外企業が市場ごと買収するメリットも少ない。

結局、民営化するためには無償譲渡あるいは無償貸付しかないのだが、一見、この恵まれた条件での民営化も、市場活性化という観点からは必ずしもプラスとはならなかった。

その理由として、老朽化施設だが公共施設であるため施設の改変が難しく、取引に必要な機能強化をどうするか、市場の施設整備に対する責任を業界全体が負うことは難しい等の事情がある。
さらに行政も、期間終了時に全てを返還するか新たな有償契約を締結できればいいが、そうした条件では民営化するメリットが業界には薄く、「まず民営化」の結論ありきでスタートしたマイナス面が露呈したということもできるだろう。

桐生、伊勢崎の方式は、一時期、最も優れた市場形態だという意見もあり、その後もいくつかの市場で無償賃貸方式が導入されたが、市場活性化の目的としては成功していない。