卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

市場レポート「長岡中央青果市場」−公設市場の民営化第一号市場

f:id:chorakuan:20190216181453p:plain

長岡市場全景 半分の取得が終了した

f:id:chorakuan:20190216181541p:plain

朝採れ野菜の販売等で長岡野菜のブランド化に取り組んでいる

改正市場法下で大きな課題となるのが民営市場の方向である。

市場法が変わっても、現実の市場流通には大きな変化はないだろうという見方も多い。

しかし、一つはっきりしているのは地方市場の減少だろう。

「卸売市場」の減少が、そのまま市場流通の衰退に結びつくわけではないが、地方市場の動向が大きな課題の一つであることは確かである。

そこで、地方市場の今後を検証する上で、いくつかの取り組みを紹介していく。

これまでもキョクイチや弘果、石巻青果、熊本大同青果など紹介してきたが、「改正法と地方市場」の視点で引き続き全国市場の取り組みを紹介していく。

今号は公設市場から民営市場に転換した全国初の地方卸売市場、長岡中央青果(佐藤直吉社長)を紹介する。

民営市場転換第1号

私が初めて長岡中央青果の名前を知ったのは、平成14年に公設市場から民営市場に転換した第一号市場となったときである。

平成不況もあって市場流通の長期低迷が続く中で、国は市場活性化の方向として中央市場の再編と転換、公設市場に対する民間活力導入を政策的に進めることになった。

その背景は「市場の過当競争」であり、国の政策によって進められた市場再編である。

しかし、長岡市場以降も全国で公設市場の民営化が相次いだが、「市場活性化」の目的が成功した事例はあまりない。

成功事例があまりなかった主な理由は、開設自治体が市場会計の赤字解消を主要な目的として民営化したケースが多かったためであり、市場業界も使用料負担が軽減されるならと言った、いわば「マイナスの縮小」が目的だったからではないだろうか。

そうした中で長岡市は、市場会計は赤字ではなかったが、「行政が卸売市場を管理運営する時代ではない」と判断し、業界も単一卸である長岡中央青果が機能強化を図る施設整備をしたいという経営方針だったことで民営化の具体化が進んだのである。

こうした開設自治体と卸の姿勢が成功した第一の要因である。

民営化は3年間の準備

取材するまで知らなかったのだが長岡市場の民営化は、国の再編方針が出されるより前に取り組まれており、民営化するまでに3年間の準備期間を置いている。

その3年間は行政と卸の話し合いよりも、生産者や買参人等への説明・協力要請と公正取引委員会のクリアなどが主要な課題であった。

民営化の方式

民営化の方式には、横浜南部市場のように卸売市場を廃止して業者の集合体として市場機能を実質的に残す方式もあるが、市場存続を前提とした民営化には

  1. 市場用地・施設を全て民間に売却
  2. 用地・施設は公有のまま民営化
  3. 市場規模を縮小し民営化

の三つの方式がある。

それぞれメリット、デメリットはあるのだが、この比較は別の機会に譲る。

長岡市場は第一の用地・施設を全て卸に売却する方式をとった。

長岡市場の用地は約8千坪、土地建物の価格は約5.8億円で建物は25年償還。

このうち半分の4千坪については15年で昨年、平成30年10月に完了し、残り半分の4000坪は今年から買取することで協議している。

なぜこの方式が実現したか

民営化の成功事例は少ないと述べたが、実は民営化した公設市場の多くは、行政所有の市場用地・施設を公有のまま無償による賃貸借契約を結ぶ民営化が多い。

使用料負担がない公設民営市場である。

この方式だと、固定資産税の負担もなく施設の建て替え責任も負わず、行政資産を無料で使うというメリットがあり、考え方によっては公設公営市場よりも行政負担が大きい究極の公設市場とも言える。

どう見てもこの方式の方が業界にとってはメリットが大きいだろう。

長岡中央青果はどういうメリットがあるのだろうか、

長岡中央青果が市と合意した民営化の方式は、市場用地を二分の一に分け、半分の土地・施設を従来の使用料とほぼ同じに払うことで15年間後に所有権を移転し、それが終わると残り半分を売却する方式である。

つまり今まで通り使用料を払っていれば自分のものになる。この方式だと業界負担も大きくない。

デメリットとしては第一に用地・施設の固定資産税負担があり、第二には施設の補修、建設が全て自己負担となる。

メリットとしては卸の使いやすい施設を行政見積もりよりも3割以上安いコストで建設でき、自社の資産として計上できる。

長岡中央青果はこのメリットを選択し、そして15年の経緯を経て長岡方式の優位性が実証されたのである。

実証された優位性とは何か

1.単一卸

公設市場に求められているのは市場経営能力だが、公共性と効率性を両立させることを開設自治体に望むことは難しい。

そのため、公設のまま民間に市場運営を委ねる指定管理者制度やPFI制度が導入されたが、指定管理者の多くは業界全体が参加する組織を受け皿としているケースが多く、大阪府中方市場のように経営の専門スタッフを配置し委ねることでる成功したケースもあるが、実態としては独自の経営権限を発揮することは難しかった。

そうした面で長岡市場は、取り扱い規模が50億円〜100億円規模(平成30年3月期約83億円)で、青果卸1社であるため、市場の独自性を発揮できるイニシアティブを構築できる可能性が強かった。

2.市場会計の黒字

第二は、民営化した多くの開設自治体と違い、施設の老朽化を除けば市場会計自体は健全経営を維持しており、財政危機を理由に民営化を急ぐ必要がなかったことも業界と合意しやすい環境であった。

3.卸の健全経営

そして最も大きな要因となったのが、長岡中央青果自体の健全経営が確保されていたことである。民営化後も3年後に早朝の立会いを廃止し、それまで持ち込み自由だったゴミ処理も有料化したことで量は半減した。

こうした経営努力もあって長岡中央青果は、平成30年3月期決算で売上総利益(粗利)8%を超え、経常利益、当期利益ともに黒字を維持し8億円を超す利益剰余金を確保している。

4.改正市場法下での経営展望

今年度から市場用地・施設の残り半分の譲渡に取り組むことになるが、この15年間の取り組みを通し、新たな施設整備等の本格的な機能強化に取り組むことになる。

グループ企業に「長岡中央パッケージ(青果物のパッケージ業務)」と「エヌエージー(果物・野菜の通信販売、ギフト等)」を有しており、また平成平成10年には「長岡野菜ブランド協議会」を設立し、小中学校の学校給食やホテル等の食材に利用するとともに、朝採り野菜の販売等を通して長岡野菜の保存と普及に取り組んでいる。

こうした取り組みは、すでに改正市場法の方向性を先取りした取り組みであり、今後の経営展開の追い風となるだろう。

5.資料

① 長岡中央青果の沿革

昭和42年 市内の青果卸問屋を合併し、長岡市東蔵王2丁目で創業

昭和56年 長岡新産業センター設置に伴い、現在地に移転

平成2年  売上高100億円達成ピーク

平成10年 長岡野菜ブランド協議会設立、学校給食など地産地消取組み

平成14年4月 旧長岡市公設市場より民営化

 

② 平成30年3月期決算

売上    82億8500万円

売上総利益 7億5100万円

営業利益  4900万円

経常利益  1億2600万円

当期純利益 8400万円

利益剰余金 8億3100万円