卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

民営化2期連続増収増益−卸3社体制となった栃木県南市場

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民営化二期目を終えた栃木県南卸売市場の開設会社「荒井商事」が二期連続の増収増益を実現した。

改正市場法下で市場経営の困難さは増すだろうと思われている中で、公設から民営化の受け皿となった開設会社が二期連続の増収増益となったことは特筆に値するだろう。

卸売会社が開設会社となる民営化ではなく、開設会社独自の経営努力で改善、開設者の職員を増員し、施設使用の拡大と使用料の増収を実現した上での増収増益である。

 

さらに平成21年以来、10年以上にわたって卸が不在だった水産部に宇都宮中央市場の卸「(株)宮市(小林保彦社長)」を「宮市小山出張所」として迎えた。昨年11月に栃木県の認可も受け、6月の改正市場法施行に向け青果、水産、花き、の卸3社体制でスタートする。

開設会社の増収増益を実現〜施設の有効利用、業者誘致

開設者である荒井商事は、本社を置く神奈川県平塚で食品市場、青果市場等を経営し、今はオートオークションを中心に年商1千億円を売り上げる。

しかし、県南市場開設会社としての収支は独自の経営努力の成果である。

 

この一年の収支は、空きスペースの有効利用や加工場、冷蔵庫使用の拡大などを計り市場業者からの施設使用料収入を増加させたことによる増収増益を実現した。

公設から民営化あるいは指定管理者に管理運営を委託した市場の多くは、公設時代の行政職員を縮小し、その分の収支改善で経営改善するという、いわば「リストラ経営改善」が多い。開設会社独自の経営努力で健全経営を実現したケースとしては大阪府中央卸売市場があるが、県南市場の規模は大阪よりはるかに小さい。

 

県南市場は青果、水産、花き3部門とも卸が撤退した経緯がある、いわば満身創痍ともいうべき地方市場で開設会社の黒字経営を実現したケースは珍しく、民間の開設会社として卸売市場の健全経営を維持できるケースとして評価されるだろう。

 

荒井商事のこの一年間の取り組みを簡単に列挙する。

  1. 10年以上不在だった水産卸に「(株)宮市」を誘致
  2. 関連事業者(株)菜匠の使用面積拡大 さらに水産冷蔵庫No.5を倉庫として活用
  3. 関連事業者(株)ヤブシタ事務所の事務所利用拡大
  4. 小山市と災害時応援協定締結
  5. 買受人・買出人対象に「ご愛顧感謝抽選会」実施 買受人257人、買出人524人の計781人にDM送付、223人が参加
  6. 平日一般開放 月2回の第2、第4土曜日「元気朝市に加えて朝9時〜12時、2019年10月より実施。

開設者が卸経営〜青果、花き卸は荒井商事、水産卸は宮市

栃木県南市場のユニークな特性のもう一つが、卸が開設会社になったのではなく開設会社が撤退卸の経営を引き受けたという点である。これも全国で例のない初のケースである。

平成5年9月に栃木県下3市2町で開設された栃木県南卸売市場は、水産卸が2度にわたって廃業し、平成21年以降は卸不在のままで仲卸が独自に集荷し営業を続けてきた。

平成29年10月には花き卸「フロリード」が撤退、同時に公設市場から民営化し、指定管理者であった荒井商事が民営市場の開設会社となった。

令和元年8月には「とちぎ県南青果」も撤退するなど満身創痍ともいうべき状況であった。

 

こうした状況で開設会社の健全経営を実現できたのは、荒井商事が卸の経営経験があること、本社の経営体が大きいことなどが大きな要因ではあるが、何より開設会社として市場の管理運営に責任を持つ体制を確立していることである。

荒井商事は、卸が撤退した花き部と青果部の職員をそのまま雇用し、営業を中断せず継続することで買参人、買受人に対する卸売市場の責任を果たしている。

 

10年ぶりの水産卸実現も、今年6月の改正市場法施行によって、卸不在のままでは現在8社が営業している水産仲卸が「仲卸」としての資格を失うという危機意識で仲卸全社と開設者によって宮市に要請し実現したものである。

宇都宮中央市場は栃木県下で唯一の中央市場であり、改正市場法後の地方市場と中央市場の新たな連携、地方市場のあり方として注目されるケースとなるだろう。