卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

公設市場の整備費を検証する1〜民設市場と公設市場におけるコスト感覚の違い

(全国青果卸売市場協会会報「全青協」2024年9月号より転載)

当誌(全青協)6月号において、公設市場における機能強化と施設整備費について問題提起をしました。

農水省の資料ですと、全国65の中央卸売市場の5割弱にあたる30市場が40年以上、大規模整備を行なっていませんし、このうち10市場は50年以上経過しています。
中央市場ですらこの状況ですから、開設自治体の財務基盤が弱い公設地方卸売市場はさらに厳しい状況であることは当然でしょう。

施設整備が遅れている原因は、資材の高騰等いろいろ言われています。
主要な理由は、①開設自治体の施設整備費負担が厳しいこと、②整備事業費は市場業者の使用料で償還することが原則ですから、市場業者がコストに見合う使用料を負担することが厳しいことの2点だろうと思います。

その解決策として出された方策は、使用料を抑えるための償還期間の延長や、段階的に使用料を上げる激変緩和でしたが、これでは間に合わず、指定管理者による自治体職員の削減を導入しましたが、これも切り札とならず、現在はPPP/PFIです。

PPP/PFIについては、今までも多く論じてきましたので触れません。

今回は、民設市場と公設市場の整備事業費はなぜ大きな違いがあるのか、民設市場に学ぶ「低コスト機能強化施設」をテーマに何回かに分けて連載していきたいと思います。

まず総論です。

1.全青協とPJSが注目のイベント

10月11月は業界のイベントも多くなる季節ですが、個人的に注目しているのが10月17日のパーソナル情報システム(PJS)主催の生鮮フォーラムと、10月30日の「全青教秋の全国大会」です。

全青協の全国大会では富良野青果の井山社長、丸勘青果の佐藤会長、R&Cの堀社長、熊本大同青果の月田会長、それに戎井卸売市場室長の5人のパネルディスカッションが行われます。

このメンバーは、一人一人でも公式に話を聞く機会はあまりありませんが、井山、佐藤、堀、月田の4氏が一堂に会し、戎井室長を含めた5人が揃うパネルディスカッションは珍しいというより初めてでしょう。

どのような話となるのか、時間がいくらあっても足りなさそうなメンバーですが、コーディネーターが流通研究所の折笠氏ですから面白いパネルになることだけは間違いないでしょう。

全青協大会でのイベントであり公開ではありませんが、会報「全青協」で詳しく紹介されるでしょうし、私も別の形で紹介したいと思っています。

また、PJSの生鮮フォーラムは戎井・卸売市場室長がコーディネーターとなり、松本課長補佐、石巻青果の近江専務、富山中央青果の安井取締役4氏による施設整備をテーマにしたパネルディスカッションが行われます。

農水省の卸売市場室長と課長補佐が地方市場の施設整備をテーマにしたパネルディスカッションに参加し、室長が司会・進行を務める企画は、おそらく市場業界でも初めてのことだろうと思います。テーマを別にした北九州青果と横浜丸中青果の市場間連携のパネルディスカッションと同じく市場流通にとって参考となる企画だろうと思います。

この二つのイベントが象徴するように、地方市場は今、さまざまな面で活発な動きが出てきています。

もちろん中央市場も同じであり、中央市場、地方市場の垣根が実質上なくなりつつある中で、数的な優位性にある地方市場の卸売会社から多くの先進的なケースが生まれることは必然でもあるだろうと思います。

特に今回、全青協、PJSにパネリストとして参加する卸の多くは民設市場の卸です。
そして共通する特徴が、機能強化のための施設整備を積極的に行い、改正卸売市場法による国の補助金制度も積極的に活用し始めていることです。

マルカンは全て自己資金で160億円を売り上げる市場施設を整備していますが、これは従来の青果市場流通とは距離を置いた存在であったためで、マルカンを今回の全青協の大会にパネリストとして招いた全青協も、要請に応えて参加したマルカンも立派だと思います。英断であり、青果市場流通の変化を象徴するものではないかと思っています。

2.民設市場と公設市場の施設整備の考え方の違い

特に注目したいのが上にあげた民設市場の施設整備です。
施設整備と言いましたが実際は「機能強化施設」です。富山中央青果の取り組みも仲卸と事業協同組合を組織し、それを母体に配送センターを整備しており、「民設公営」による市場整備とともに、公設市場における民営化(民間活力)として注目されています。

民設市場の富良野、マルカン山形、R&C、熊本大同は独自の施設整備を精力的に進めておいますが、いずれも20〜30億円の施設整備事業費であり、取扱規模を考えても中央市場とは文字通り桁違いです。

公設市場はなぜ施設整備に巨額の整備費が必要なのでしょうか。

3.公設市場の再整備

豊洲の事業費6,500億円は論外としても、中央市場の施設整備事業費の多くが100億円以上です。
姫路市場は中央市場として中規模ですが、移転完成までに10年近くかかり事業費は163億円かけています。
京都市場水産棟のように躯体は残したままの再整備でも170億円かかっています。
基本計画段階の中央市場でも、広島市場が約500億円の事業費を予定しており、仙台市場も500億円にはなるだろうと言われています。

他にも施設整備に数百億円をかける計画の中央市場は珍しくありませんし、いずれも10年はかかる計画です。川崎北部市場のように14年の整備計画も出ています。事前の環境アセス等だけでも最低4年かかる計画で、14年後までのコストを計算した事業費はどのゼネコンも見通せず、契約が遅れています。本当にこれほどの投資と期間が必要なのでしょうか。

改正市場法は合理化計画を策定し農水大臣の認定を受けることで補助を受けることができることになっていますので、10年の過程を踏む必要はなくなっています。

市場整備の最大の財源となる「強い農業づくり総合支援交付金」も、物流の効率化が交付金審査の採点基準で100/160点となっていて民間も申請できるよう改正されています。

行政側の都合もあります。

行政発注は建築基準が決められており、規定が民間よりも厳しくなっています。
自治体の都合で変えることや価格の交渉をすることはできません。入札が原則です。市場審議会での検討も必要です。
サウンディング調査やプロポーザルの事前公募を行い、基本構想、基本計画、基本設計、実施設計に各2年をかけ、それでようやく着工です。10年単位です。

前項であげた民設市場の整備は、こうした段取りはどこもとっていません。
開設自治体が行なっている従来通りの再整備手法がスピード感を遅らせ、事業費を膨らませ、それが使用料の過剰負担となっているのではないでしょうか。

市場再整備は、合理化計画が認定されると開設者でなくとも補助金は出ます。それが改正市場法の施設面における最も大きな特徴です。

なぜ市場業者は、自由化された取引に見合う施設を企画・決定することができないのでしょうか。
ノウハウがないからでしょうか、事業費の負担ができないからでしょうか。

ノウハウがないのは開設自治体も同じですから事業費の問題が最も大きい問題だろうと思います。
しかし行政発注工事は、民間よりも最低3割は高いのです。もちろん不正ではなく、公共施設の建築基準は民間と違うからですが、3割高い見積もりで作った施設にいくら使用料を払いつづけても資産にはならず、卸売市場と同じ生鮮食品販売施設であるスーパー・量販店と比較すると違いは3割どころではありません。

国の助成金は、富山市場のように開設自治体でなくとも受けることができます。
国や自治体の助成金を受けて行政見積もりで建設し、使用料が高いと文句が出ると激変緩和や償還期間を延長することで使用料の低減を図る。そうした旧来の市場整備の手法を転換させる必要があるのではないでしょうか。

SPC(特別目的会社)やPPP/PFIは開設者だけのツールではありません。
余剰地を無理につくり事業費負担を軽くするより、市場本体の機能施設を安く建設する方がよほど効率的です。

市場業者が中心となり金融機関や運送業者等も入った事業体やSPCが行政の委託を受けた事業主体になって見積もり、発注し、その保証・支援を自治体等が行うシステムは不可能ではないだろうと思います。

改正市場法は取引面などソフトの部分が規制緩和されました。それなら規制緩和された機能を発揮しやすい施設もまた業界主導で整備するべきではないでしょうか。

改正市場法の見直しも近くなっていますが、見直しを行う必要性が最も高い課題は公設市場の開設者のあり方ではないでしょうか。

次回は開設者の役割について民設市場の具体的な取り組みを紹介します。

 

旅の食日記

福井県小浜で9月に食べたカニ。
シーズンには早く大きくはないが美味しく食べた。
自宅では、ご飯1杯を持て余すが、1合炊きのカニ飯を全部食べた。