種苗法の何が問題なのか
新型コロナウイルスの対応に追われている今国会に、日本の食料安全保障に大きな影響を及ぼす種苗法の改訂案が上程されている。
この改訂案はイチゴ等の優良品種の海外流出を防ぐことが法目的とされているが、同時に品種の育成者権を守るために、登録品種は国内農家が今まで行っていた栽培野菜等の来年に使う自家増殖(採種)が禁止される。違反すると「10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金」を課せられる。
今まで「主要農作物種子法」(以下・種子法)によって、各都道府県農業試験所が行なってきた新品種開発はお米の優良品種やブランド化に大きな役割を果たしてきたが、2018年に「民業圧迫」「時代の役割を終えた」として廃止された。
種子法が廃止されたことで品種の育成権は行政から民間優先となる。
日本食の原点とも言うべき豆腐・納豆などの原料、大豆の国内自給率は6%であり、パン・パスタの原料である小麦は16%である(平成30年度概算)
多くを輸入に頼っているが、近年は国産の需要が高まっていることで積極的な栽培拡大に取り組まれており、すでに海外からもタネが流入している。国内で開発された固定種に外来種が交雑された場合はどうなるか。
種苗法改定案は数百万円から数千万円かかるので実質は海外を含めた大手種苗メーカー以外は参入が困難になるだろう。
また、育種登録時には特性表を作り、その特性と一致すれば侵害された裁判資料として使えるようにもなる。
国内農家が独自に育種登録する力はない。そうなると、農家が自家増殖した作物が特性表と一致する部分があれば違法となる可能性が出てくる。裁判になる可能性もあり、実際、海外では種苗をめぐる訴訟も起きているが、改定種苗法は「育成者権者」の権利を守ることが主目的なので結局、国内農家は許諾料を払うか毎年、育種権者(企業)から種苗を買わなければならなくなるだろう。国内農家にとっては大変な打撃である。
グローバリズムによるサプライチェーンの危うさ
新型コロナウイルスによるサプライチェーンの影響はマスクの供給逼迫など国民生活全般にわたるものとなった。
安倍首相は新型コロナ対策の一つとして「1国への依存度が高い製品で付加価値が高いものはわが国への生産拠点の回帰を図る」と生産拠点の国内回帰の方針を述べたが、実際には生産拠点の国内回帰の取り組みは弱く、4百億円以上をかけた国民一人あたりマスク2枚支給は全て輸入商社を通じた海外生産品の調達となった。
マスク不足は国内消費の8割を中国での生産に依存しているから起きた緊急事態なのだが、その緊急事態解決のための政策が、実績のない商社まで使った無理な外国生産品の輸入という矛盾が生じている。
緊急事態だからやむを得ないとも言えるが、実際には物流の遅れや品質の問題でスピード感はない。
結果論でしかないが、これだけの時間とコストをかけて今なおマスクの配布すら終了できていない状況で、5月連休中にはすでにマスクは値下がりし潤沢に出回り始めている。中国が輸出解禁になったからである。
マスクだけでなく、日常生活品も同じ状況になるだろう。そうなれば、再び、次の感染症ウイルスの非常事態まで、グローバリズムに乗ったサプライチェーンが構築されるのだろうか。
同じ過ちを繰り返すべきではない。国内の繊維メーカーの協力を仰ぎ、国の予算でマスクを生産し、必要性の高い順に配布する方式で「生産拠点の国内回帰」の第一弾とした方が、国民生活へも社会経済の活性化へも遥かに貢献度が高くなっただろう。
今回のマスク問題は、グローバリズムの課題、緊急事態下でのサプライチェーンを海外生産に依存するシステムのリスクを証明することになったとも言えるだろう。
グローバリズムと食料自給率のアップ
今回のコロナウイルスで外国からの物流が寸断され、世界的な小麦の輸出規制も始まっている。
食料自給率のアップは今後の国民の食を守る最重要課題なのだが種苗法改定案は、グローバリズムによる農業の市場主義経済導入を目的とした政策である。施行されると日本の食料安全保障に大きな影響を与えることになるだろう。
また今も遺伝子組み換え植物は増えており、今後の品質面も懸念が出てくるだろう。
国会で議決される可能性は高いだろうが、コロナに紛れて十分な問題点の論議なしに国会議決することがあってはならない。慎重な論議をするべきである。その立場を明確にすることが国内農業と流通に関わる全ての人たちの責務ではないだろうか。
新型コロナウイルスが収束すれば、再びグローバリズムの流れは復活するだろう。
しかし従来のグローバリズム、「中国は世界の工場」といった考え方は通用しなくなるだろう。リスク分散を図りながらのグローバリズムと同時に食料自給率37%の日本の食料安全保障政策を再構築されなければならない。