卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

人はフードで生きるに非ず、システムで生きる

長崎出身のせいか私は路面電車が好きです。
路面電車はいつ見ても、どの街で見ても好ましい姿をしています。

長崎は坂の町ですので歩くのが大変で、若い頃、もう少し延ばして欲しいと思っていましたが、最近知ったのですが少し勾配がきついと動けないそうです。
おーそうなのか、平地しか動けないのか、私もそうだよご同輩!と一層好きになりました。

人は効率性だけで生きるにあらず、とは怠け者の弁解かもしれませんが、徹底した効率化は行きつくところ非効率にならざるを得ません。

路面電車は非効率だから姿を消していたのですが、車社会が成長し一人一台の車が道路をふさぐと社会的には極めて非効率な移動手段となります。一人100円程度で、ゆっくり走る路面電車が利用できるようなら、その方が社会的効率性は優れています。

生鮮流通は現在、農業、卸売市場の分野での効率化が最大の課題となっていますが、その狙いは生鮮品の流通を食品流通の一部としてサプライチェーンを構築し卸売市場を活性化しようということです。
国民生活の安定供給という公共性があっても、生鮮食料品だけの特別のサプライチェーンマネジメント(SCM)が必要なのか、非効率なのではないかと問われているのです。

この問題意識をある高名な研究者は次のように端的に述べています。
「フードシステムにおいて前工程に当たる「川上」の農業は、作ったものの後工程の需要や生産状況におかまいなしに、どんどん「川中・川下」に送り出しているのではないか。そこに少なからぬムダが発生してはいないか。

また、小売や外食において、その資材調達面では厳しい「ジャストインタイム」が要請されてムダが省かれているとしても、対消費に対しては多くの食材廃棄が発生していてムダを積み重ねているのではないか。フードシステム学は、これらのムダの徹底した排除に挑戦するものでなくてはならない」

前工程、後工程という言葉で分かるように生鮮農産物の流通を食品加工場のシステムとみることで流通の効率性実現を目指すことをフードシステム学の目的としています。
農産物を川下の必要に応じて(ジャストインタイム)生産すべきだという考え方は荒唐無稽に思えるかもしれません。

しかし、この考え方は契約栽培等の考え方や、現在論議されている農協と卸売市場改革にも通じる考え方になっています。

確かに食料を自ら生産する人や、生産者から直接購入して生きている人は少数です。
我々の食料は全国的に網羅された食料品の供給システムによって確保されています。

そうした意味で我々は食料(フード)によって生きているのではなくSCMによって生きていると言うほうが正しいかもしれません。

しかし、それらの「システム」は農業や漁業の生産者なしには意味をなしません。

こうした効率論が主力になってくると、一方ではまた、第一次産業、生産者の役割も重要性を増してくることは必然です。