卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

業務規程・申請書をめぐる課題-その2

開設者の懸念

改正市場法が19条となったことに象徴されているように、卸売市場の管理運営に対する行政関与は明らかに減っている。
行政関与が減っていることは明らかだが、問題は行政関与の減少と公共性の減少は必ずしもイコールではないことである。
改正市場法の国会質疑で問題となったのがこの点である。

全ての卸売市場開設者に対して、共通ルールを定めて運営するように義務つけていることが公共性の担保になりうるのかという問題である。

6月に参議院で承認された際に採択された付帯決議は、国による公共性の維持や市場関係者の十分な意見聴取による共通ルールの策定など公正取引への国の指導監督の強化を求めている。

こうした付帯決議が採択されたことは、公正取引や公共性の維持に懸念があるという反映であり、その懸念に対応するのは、国ではなく、開設自治体と、卸売市場開設の申請を受ける各都道府県の責任になる。

県や自治体にそうした知識やノウハウをもった組織があるのか、すでに現場の職員からは不安の声も上がっている。
現場からの不安の声は、今まで国が直接指導・監督していた中央市場の卸売業者に対する権限が開設自治体と都道府県に委ねられるからである。

さらに国の関与が減ることによる、卸売市場に対する自治体の財政支援がどこまで可能なのかという市場会計の問題に波及するからである。

大幅に減少する地方卸売市場

零細規模を含めた全市場が、共通ルールや、市場の安定的な運営を担保する「開設会社としての財務力」を添付した申請書を提出しなければならず、そうした作業に大きな時間と労力、コストをさくことになるだろう。

実体とは別に、国が求めるこうした実務的な資料を用意して市場ごとの業務規程を策定し申請できるのか、申請するメリットがそこまであるのか、という意見も出ており、現在、「地方卸売市場」の名称を使うメリットが少ない市場は申請しないのではないかという見方も強くなっている。

今回の改正市場法に基づく申請方法によって、国がこれまで取り組んできた市場再編よりも、地方卸売市場の数は大幅に減ることになるのではないだろうか。

行政が数千の地方市場をつくったこと自体が誤りであるという意見もあるが、行政が卸売市場をつくったのではなく、既存の民営市場を法的に中央市場と地方市場、その他市場の三種類に分類し「卸売市場」として許可しただけである。
地方卸売市場の名称はなくとも卸売機能を果たす民間施設として残る可能性もあるだろう。

公設市場においても、地方自治体からの一般会計繰出基準30%のままで市場の安定的な運営を保証する財務力の添付資料として申請出来るのかという問題もあるが、これは又、別の検討課題である。

民間施設が卸売市場となるメリット・デメリット

民間大手の卸売市場申請はほとんどないだろう。
改正市場法の論議のなかで、規制廃止により大手の民間企業が市場に参入し、既存市場業者が壊滅的打撃を受けるのではないかという意見があったが、どうやら、そうした懸念はなくなった。

卸売市場の名称を得るメリットよりも、共通ルールによって取引条件や取引結果の公開等の制約を受けるデメリットの方が大きいからである。

ただしこれは、卸売市場の開設者になるメリットがないというだけであって、広大な敷地、施設を規制なく使用できる「卸売業者」に対するメリットは大きくなるだろう。

また、すでに産地等で集荷や配送を行っている民間施設が、卸売市場の名称を得ることによって、産地・生産者の信頼を得るというメリットは大きくなる。施設整備についても一定の行政支援を受けることが出来ることもメリットの一つである。

特定の量販店等のためであれば認定を受けることが出来ないが、販売先を拡大していこうとすると大きなメリットが生まれるだろう。
改正法は差別的取り扱いの禁止が入っているので、特定量販店の要望を100%入れる必要はなくなる。

例えば、販売先について競合店とは取引するなと要請されても、法規定だから違法になるという言い訳が効く。
また、ピッキングや加工などの機能も入れることになると、生産者の集荷の幅が広がることにもなる。

さらに、商物分離が認められるので、新しい業務提携や、市場間転送だけではなく、市場内の施設を貸し、消費地市場の卸のリスクで集荷し、集荷手数料で利益をあげるという方式や、消費地市場卸の販売先のピッキングや配送を受託して、その施設使用料や人件費等のコストを負担してもらうことで集荷力を高めるという可能性も出てくる。

こうした様々なメリットはあるのだが、問題は申請書に義務つけられる取引の主要品目の取引条件、決済サイトの事前公開や価格等の公開が義務つけられることである。

もちろん、取引先によって条件が違うことは普通なので、決済サイトや価格が違うこと自体は「差別的取引の禁止」に違反することにはならないのだが、市場としての取引条件を一つにせず、幾つかのパターンに分けて、年間取引が1億円以上と以下に分けてサイトを決めるなどの対応が必要になる。

また市場を安定的に経営できる「開設者」(卸ではない)の財務力が要件になるので、形式的に開設会社をつくればいいということにはならない。

申請主体の開設者は、卸の総務部の隣に「開設事業部」のプレートを下げるだけでもいいのだが、ここが、共通ルールや取引内容公開、財務内容が審査対象になるので、卸の赤字決算が続けば、そのまま開設者としての財務力が問題となる。

開設者組織が別であれば、審査対象はあくまで開設者組織だけなので、卸の出資を過半数にして経営に責任を持つ開設会社をつくって対応したほうが市場管理・運営がスムーズになるというメリットも考えられる。

次回は申請書、業務規程の具体的な作成について検討する。