卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

買参新規参入ルール・奨励金改革が焦点に‐新規参入実態調査と参入障壁対応

全国的に整備が進んでいる(3月15日に開業した姫路市中央卸売市場)

(農林リサーチ23年4月号より)

各地の市場再整備が進んでいる。
令和4年度は1月に入り、冨山、姫路、京都で相次ぎ新施設が完成・開業しているほか、金沢、奈良、大阪、東京など、各地で再整備に向けた基本計画等の論議がすすんでいる。

そうした再整備の動きが広がっている中で農水省は2月、全国の市場開設自治体に向け、令和5年3月末までを期限にした「中央及び地方卸売市場における売買参加者の新規参入ルールに関するアンケート」を実施した。

新規参入ルールのアンケートの結果によっては、卸売市場業界は令和5年度に、新規参入障壁への対応という新たな課題に直面することになるだろう。

新規参入ルールと商慣行見直し

このアンケートは、令和4年12月に出された内閣府の規制改革推進会議による「規制改革推進に関する中間答申」によるものである。
令和4年度中に全国の卸売市場開設者に対する実態調査を行い、令和5年度中に実態に基づく新規参入ルールの障壁について解決することを求めている。

規制改革は自公政権の中核的政策であり、さまざまな分野に及んでいる。
昨年12月の中間答申は4つの重点課題を設定しており、その中の「地方の活性化を図る規制改革」として「卸売市場の活性化に向けた新規参入の促進等」「既存業者の負担軽減のため、実務的なルールや商慣行の見直し」があげられている。

この対象には産地市場、消費地市場を含め、改正市場法によって認定を受けたすべての市場を対象としており、令和5年度は実態調査に基づく「必要な措置」に取り組む。

「買参新規参入ルール」の何が「規制」なのか

市場活性化に向けた新規参入促進の課題としてあげられているのが買参人新規参入ルールである。

旧卸売市場法は「卸は集荷、仲卸は評価と分荷」が原則であった。
そして卸売会社は、販売できる相手方が制限されていて「市場に店舗を持つ仲卸と開設者に申請し登録された買参人」と規制されていた。例外的に販売して良い場合として具体的なケースが「第三者販売」として規定されていた。

もちろん、買参人となるには、開設者に申請書を届け出て許可されなければならず、許可の条件として実績や経営内容、役員の資格などさまざまな要件がある。
その上で改めて卸売会社と決済条件や保証金、与信枠などを含めた取引契約を締結しなければならない。取引の安全と公正さを担保するための規定である。

開設自治体は、買参人申請書の内容について全てを独自調査することは限界があり、多くの卸売市場は、買参組合や仲卸組合等の推薦を受けること、あるいは組合の意見を聞いた上で判断することになっている。
また代払い制度がある市場では代払い組合に入ることが買参人として登録する条件になっている場合も多い。

そうしたことは、実態調査を行うまでもなく明らかである。問題は数字的に明らかにすることによって、次の「規制改革」の課題を明らかにすることである。
いわば買参人という資格は、特別に認められたものであった。「許可制度による資格」であるから、卸と買参人の間で行う「民・民の取引」であるにも関わらず開設者が許可するのである。

「組合の同意や推薦」条件は「障壁」となる可能性も

買参人の登録は開設者の許可であるが、改正市場法によって原則は許可から「認定・届出」になっている。
既に現状は、卸と買参人希望者の間で話し合われ、卸が組合等の調整を行った上で開設者に申請するケースが多く、開設者の審査によって許可されないケースは少なくなっている。
大きなトラブルは起きていないようだが、何を「規制改革」するのだろうか。

中間答申は「新規参入時に、既存事業者の推薦や同意を求めることが、合理的な理由なく、新規参入を阻止することとなる場合は、取引拒絶等として不公正な取引方法に該当し独占禁止法上問題となるおそれがある」ことを周知するよう求めるとともに、「実態調査の結果を踏まえて、開設者に対し、新規参入の促進や既存事業者の負担軽減のために、 実務的なルールや商慣行等の見直しに向けた検討や取組を促すなど、必要な措置を講ずる。」こととしている。
調査は令和4年度中に行い、令和5年度中に「必要な措置」を取ることと、細かく踏み込んだ指示がなされている。

「共通ルールさへ守れば規制するもしないも自由」が改正市場法の趣旨のはずであり、実際、大型市場でも業務規程は従来のままというケースもある。

だが、今回の規制改革推進会議の中間答申によって農水省も「新規参入促進」の障壁となっている規定については是正を求めなければならない。
規定していなくとも実質的にそうした運用がなされている場合は「開設者の責任」で必要な措置をとるようにしなければならない。アンケート結果では問題ありませんでした、では済まないだろう。

奨励金の見直しも課題に

また中間答申は「既存事業者の負担軽減のために、 実務的なルールや商慣行等の見直し」とも出されていて、今も裁判が続いている「受託品事故損」問題や出荷奨励金、完納奨励金等についても見直しを求めている。

市場業界における重要性から言えば、買参人登録制度よりも、こちらの方がはるかに重要な意味を持つだろう。

令和2年の改正卸売市場法施行によって市場流通は大きく変わっている。とりわけ運送企業や飲食業、IT企業等の異業種から市場への参入が増え、規制緩和の流れは拡大している。
こうした大きな流れは今後も続き、令和7年に予定されている改正市場法の見直しによって規制緩和のための法規制の調整が行われるのではないかとも思われていた。

しかし、規制改革推進会議の方針によって、改正市場法の見直しを待つことなくさらに大きな変化に直面することになりそうだ。

新規参入についてのトラブルはない、と思っている卸売市場も、改めて規則や運用について見直した方が良いと思う。