卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

改正市場法と市場施設整備のあり方−サウンディング型市場と物流効率化が焦点に(下)

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改正市場法と市場施設整備のあり方−サウンディング型市場と物流効率化が焦点に(上)の続き

3.「サウンディング型市場」とは何か

最近、卸売市場の再整備に「サウンディング型市場調査」の手法が使われ始めている。
これは国交省が平成30年に出した「地方公共団体のサウンディング型市場調査の手引き」によって各地の公共施設に導入されているものである。

卸売市場では福山市地方卸売市場、広島市中央卸売市場、岐阜市中央 卸売市場、川崎市中央卸売市場・北部市場など多いが、この他にも姫路や福島、木更津は賑わいゾーンや冷 蔵庫棟など一部のみを対象にしたサンウンディング調査となる。今後さらに増えてくるだろう。

「サウンディング型市場調査」とは何か。
国交省の手引きによると、「サウンディングは、事業発案段階 や事業化段階において、事業内容や事業スキーム等に関して、直接の対話により民間事業者の意見や新たな提案の把握等を行うことで、対象事業の検討を進展させるための情報収集を目的とした手法である。

また、対象事業の検討の段階で広く対外的に情報提供することにより、当該事業への民間事業者の参入意欲の向上を期待するものである。」としているが分かりにくい。
具体的にはどういう内容なのか、川崎北部市場で出された「サウンディング型市場調査」の概要で検証する。

川崎北部市場のサウンディング型市場調査

川崎市が出した「川崎市中央卸売市場北部市場におけるサウンディング型市場調査の実施要領」は「民間 事業者の皆様に提案を求める内容」として以下の3点を提示している。

  1. (ローリング工事計画を含めた)最も効率的・効果的な「整備パターン」及び「民間活用の手法」並びに「施 設配置」
  2. 「整備後の維持管理・運営」の業務範囲
  3. (市場をコンパクト化した場合)発生した余剰地の活用方法

PFIや指定管理者制度の課題解決へのアイディア

サウンディングの最大の特徴は、行政が再整備の方式を決める前に民間企業からアイディアを提供してもらい、選定した業者と施設配置や工事手法、完成後の運営まで決める方式で、PFI の進化系である。
川崎北部市場で出された第一の提案内容が整備方式と施設配置である。
基本構想や基本設計は公募されることが普通だが、整備方式を公募するケースはなかった。
整備方式としての PFI には次のような方式がある。

BTO方式、BOO方式、BOT方式、RO方式の違いを表した図

(出典)Q11 PFIの事業方式と事業類型 : 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室) - 内閣府

いずれも行政が主体となって方針を決め PFI 事業者を公募する方式だが、この方式が、企画段階から民 間のアイディアを入れ方針を決めていく方式に変わりつつある。
PFI というより PPP(パブリック パーソナル パートナーシップ)方式であり、整備方式で言えば DBO(Design・Build・Operate) 方式となるだろう。

もっとも本来の DBO 方式は、PFI 事業者に設計 (Design)、建設 (Build)、運営 (Operate) を一括して委ね、 資金の調達と所有は行政が行うことが基本だが、サウンディング方式ではそうした整備パターンについても民間企業からの提案を求めている。

開設者は指定管理者か定期借地権方式

川崎北部市場で提起されている内容の二つ目が「整備後の維持管理・運営」の業務範囲である。
公共施設の運営について、国はまず指定管理者を検討するように求めているが、指定管理者は基本的に行政業務を受託して公設市場の開設者機能を代行するものだが、近年は公設市場の用地を定期借地権方式で民 間企業を誘致するケースが増えている。
再整備にあたって、将来的にも民間による市場の運営・管理を行うとすると、この定期借地権方式による民営化が考えられるだろう。
横浜本場の補完機能と位置つけられた横浜南部市場が該当する。

市場用地の半分が「余剰地」に

川崎北部市場だけでなく、サウンディング型調査事業を行う公設市場の最大の特徴が「余剰地の活用」である。
これまで再整備を行った卸売市場は市場用地を縮小し「余剰地」を民間企業に売却するか、あるいは直売所やグルメゾーン、宿泊施設等を建設することで地域振興に貢献し、整備事業費や市場業者の使用料負担を軽減する方式をとった市場が多い。
いわば「コンパクト市場化」なのだが、サウンディング型市場の場合は違う。 最初から市場用地を削減し、残る用地に卸売市場を整備しようという考え方である。

例えば川崎北部市場は全体用地 165,174 ㎡から 市場に必要な面積を 86,000 ㎡と設定し、82,587 ㎡を「余剰地」としている。
同じく福山市場は 5 万 5051m²の市場用地のうち約 2 万 2000㎡ を「余剰地」としている。
いずれもサウンディング調査の提案を受ける前の条件であり、市場用地の約 40%〜 50%が「余剰地」として設定されているのである。

現在の取扱高を旧卸売市場法で規定されていた基準で計算すれば、おそらく市場面積は半分以下になるだろう。
しかし、旧市場法の施設基準には保管・配送や加工機能は想定されておらず、あくまで「全量上場・ 商物一致」のみなので、取扱数量が減少すれば、その減少分が施設や用地の「余剰」となるのである。
さらに今後、商物分離取引が増えると、必要な市場施設・用地はさらに縮小されるかもしれない。

しかしサウンディング型市場は「縮小均衡型」ではなく、市場機能部分を補完する機能、横浜南部市場で取り組まれた「賑わいゾーン」や「物流ゾーン」等を卸売市場と隣接して法的には「市場外」として支える計画である。
市場機能として確保する部分と、民間企業が差益業者として利益を目指すことができる「市場外機能」部分の共存であり、その割合を川崎の場合は50%にしたということである。

4.「余剰地」の活用−「食品流通合理化検討会」による物流効率化

卸売市場を食品流通のサプライチェーン基地として活用する考え方は早くからあり、平成17年には農林 水産省、経済産業省、国土交通省の三省共管によって卸売市場を特定流通業務施設にできる「業務の総合化 及び効率化の促進に関す流通る法律」が制定された。

この法律は、卸売市場全体を食品の物流基地とする構想であり実際には進まなかったが、サウンディング型市場は「市場機能」と「市場外機能」の共存という形で実現する方策を打ち出している。

2020年4月には同じ三省共管によって行われていた「食品流通合理化検討会」の中間取りまとめが公表され た。主要なテーマは青果、水産の第一次産業のサプライチェーン効率化である。
第1章が「物流の現状と政府全体の動き」でドライバー不足の現状と「ホワイト物流」の推進について述べ、 第2章「食品流通の現状」でも同じくトラック輸送が食品流通の97%を占めていて、物流経費がいかに負担になっているかを詳細に説明している。

そして第3章「食品流通の合理化に向けた取組について ( 検討会の設置 )」において、課題は「トラックドライバーをはじめとする食品流通に係る人手不足が深刻化する中で、国民生活や経済活動に 必要不可欠な 物流を安定確保するには、サプライチェーン全体での流通合理化に取り組む必要。」であるとしている。

改正卸売市場法は生鮮市場を「食品流通の一部」として食品流通サプライチェーン合理化の方向を打ち出した。
農水省も来年度は組織再編され、食料産業局は解体されることになりそうだ。
これまで食料産業局が担ってきた輸出促進は大臣官房の国際部と統合され「輸出・国際局」となり、代わって大臣官房に「新事業・食品産業部」が設置される案が出された。

この組織再編によって「食品流通合理化検討会」のような経産省、国交省との連携で食品産業の流通合理化に取り組むケースが増えることが予想される。
その主要な課題の一つが水産物流通の物流効率化であり、民間企業による「余剰地」の活用などは取り組みの大きな柱となるだろう。