卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

24年問題と市場流通その1

豊洲市場水産部搬入口

24年問題がいよいよ現実の課題となる。
2023年6月に出された「緊急に取り組むべき抜本的・総合的な対策」(物流政策パッケージ)に基づくトラックドライバーの労働時間上限規制が、24年4月からスタートする。
市場業界として24年問題にどう対応すべきか、国の政策として出された「物流政策パッケージ」を市場流通において、どのように具体化できるのか、改めて市場流通における24年問題と卸売市場の物流機能強化について検証する。

1.「物流の政策パッケージ」とは何か‐戎井 卸売市場室長講演

農水省大臣官房・食品産業部食品流通課の戎井靖貴・卸売市場室長は、各地市場等において「物流革新に向けた政策パッケージ」についての内容と取り組みについて講演を行なっている。
以下、講演要旨を紹介する。

戎井・卸売市場室長

6月2日に物流革新政策パッケージ取りまとめ

閣僚会議の指示に基づき、2023年6月2日に「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめました。この政策パッケージをもとに産地市場も含め卸売市場流通の物流改善に取り組んでいくことになります。

今日はこの24年問題に取り組む政策パッケージの方針についてお話しします。
ご承知のように、働き方改革関連法案等によってトラックドライバーは、2024年度から時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されます。

5年後には3割以上が運べなくなる

昔は、ドライバーの仕事は大変だけどお金を稼ぐことができるという評価でした。
今は40代から50代が多く若い人は少ない。若い人がやりたがらないのです。
物流効率化に取り組まなかった場合、労働力不足による物流需給がさらに逼迫し、2030年にはコロナ前に比べて34%、約9.4億トンが輸送能力不足になるという予測データも出ています。

食品流通の98%はトラック輸送に頼っている構造ですから、ドライバー不足は運送業者だけの問題ではありません。
生産者も小売も含め、卸売市場流通全体で取り組むべき課題になっています。

ポイントは3つ、商慣行の見直し・物流の効率化・荷主と消費者の行動変容

「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイントは3つ、①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主と消費者の行動変容です。

① 商慣行の見直し〜トラックGメン

荷主、運送・倉庫業者の負担軽減のための荷待ち、荷役時間の削減など、六つの課題をあげています。
1運行時間の平均拘束は12時間26分で、このうち運転時間は6時間43分、荷待ち、荷役時間は3時間4分です。荷待ち、荷役時間を短縮するための規制的な措置を導入します。

また納品期限や物流コスト込みの取引価格の適正化、多重下請の是正、担い手の賃金水準向上のための「標準的な運賃」制度など、法制化も含めた規制的措置を進め、そのための体制強化としてトラックGメン制度の導入も図ります。

② 物流の効率化―即効性のある具体的施策

政策パッケージの中心的な課題となる物流効率化は、バース予約システムやフォークリフト導入など13の課題をあげています。

具体的には、モーダルシフなど物流GXの推進、ドローン配送やAGV(自動搬送ロボット)など物流DXの推進、パレットやコンテナの規格統一を図る物流標準化、物流拠点の整備、高速道路の速度規制の引き上げ、利用しやすい高速料金、特殊車両通行制度の見直し、ダブル連結トラックの導入、貨物集配中の駐車規制の見直し、地域物流における共同配送、軽トラ事業の適正運営、女性や若者の多様な人材育成など13点です。

③ 荷主と消費者の行動変容―改善を評価公表する仕組み

単に広報活動にとどまらず、荷主・物流業者の物流改善を評価・公表する仕組みを創設します。荷主企業の役員クラスに物流管理の責任者を配置することなど、意識改革・行動変容を促す規制的な措置等の導入を図り、再配達率半減に向けた取り組みも行います。

どのように推進するかのガイドライン

こうした課題に向けた発荷主、着荷主、物流事業者それぞれ各市場においての取り組みガイドラインをあげています。
特に市場流通におけるパレット化は、11型パレット導入に向けて全国20の県において検討されており、場内物流改善推進体制を構築し、農水省からもオブザーバーとして参加し推進しています。

また支援策として生鮮食料品等サプライチェーン緊急強化対策事業として8億7千6百万円の予算を計上していますので皆さんの積極的な取り組みをお願いします。

2.物流機能と市場整備‐政策パッケージ課題を合理化計画に

「24年問題」によって、市場機能としての物流が新たな重要性を持つものとなった。
言うまでもなく、市場流通における物流機能の重要性は誰もが知っている。さまざまな取り組みも行われているし、国も市場再整備の柱の一つに物流機能を要件としている。
それでもなお、市場流通全体として24年問題への対応は遅れている。

物流の効率化は今までもあったが、主要な担い手は物流業者であった。というより、物流業者に対する流通業界からの無理な負担要請によって対応されてきたケースが多い。
発表された物流政策パッケージにも運送業者・ドライバー負担の軽減を図る政策が多いことは、こうした事情を裏付けるものでもあるだろう。

政策パッケージの推進力となるか拠点市場

「物流政策パッケージ」は、国の政策としては珍しいほど具体的な政策が並んでいる。
あえて言えば、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容ともに課題が並列的に多く並び、業界として何から取り組むべきかの選択が難しいのではないだろうか。

国は即効的な効果を狙う当面の政策課題として、バース予約システムや自動化等をあげているが、これらの必要性があり、取り組む力があるのは市場流通のごく限られた市場に限られる。

パレット問題は、今、全国の基幹市場を中心に「場内物流改善推進委員会」等によって協議されており、拠点市場が変われば全国の市場流通も変わるだろう。
しかし、昔と違い、改正市場法は市場ごとの取引方法が原則である。拠点市場のシステムが全国市場に一気に広がることは難しいだろう。

確かに木型パレットからプラパレットへの転換や「11型パレット」の統一は市場流通の大きな転換点になるだろう。

しかし今ひとつ、業界の取り組みに全体としての熱意が少なく感じるのは、多くの市場にとって喫緊の課題ではないという問題意識の差ではないだろうか。

ある青果市場の幹部は「今、木製パレはどこの市場にも多くある。使い勝手が悪いわけではない。プラパレに切り替える必要性はわかるが、木製パレを捨てて切り替えることは財政的にも難しい。市場流通全体をプラパレに統一するのであれば、市場ごとの合意形成よりもプラパレ導入に対する財政支援を考えてほしい」と言う。

確かに24年問題は国の政策として対応している課題であり、当面はすぐに全国の市場が一斉に切り替える緊急性は弱い。
全てをレンタルパレットで対応することはコストアップにつながることにもなるだろう。
木製パレットは無料である。壊れて使えなくなるまで使う方が、メリットは大きいと考えることは当然ではないだろうか。

注目されるRFIDによるDX改革

国は今、パレチジェーション(パレット流通の改革)を中心的に取り組んでいる。
水産市場より青果市場が先行しているが、これらは商品特性による違いが大きい。
一概に水産業界は青果業界よりも取り組みが遅れていると言うことはできないだろう。

物流の効率化は水産市場流通にとっても大きな課題である。
そうした水産市場流通にとって、中央魚類グループの(株)水産流通(長本克義 社長)が実証試験を行なっているRFIDによるDX改革は、決済機能の改革まで含め、食品流通において大きな転機となるツールとして期待されるのではないだろうか。

市場再整備は「物流機能」中心

いま、多くの卸売市場において再整備の検討が行われている。この施設整備において「老朽化による建て替え」は国の補助対象にならない。
改正市場法は、市場施設整備の補助要件として①物流、②温度管理、③情報、④輸出の4つの機能強化を挙げている。

この4つの機能のどれか一つでも入っていないと施設整備の補助は受けられないが、この機能強化を図る合理化計画を策定し、農水省の認可を受けることができれば民営市場でも補助対象となる。

福岡新青果市場を先行事例として、姫路中央市場、京都中央市場水産棟、新筑豊青果市場等は、この改正市場法の要件を取り入れた再整備であり、卸売場、仲卸売場そのものが配送機能の配送作業ラインとなる「物流機能施設」となっている。

大阪府中央市場は市場用地を縮小、余剰地として物流施設を整備する計画だが、結果的に市場と相乗効果が期待できたとしても、市場施設でなければ市場機能強化にはならず、補助対象とはならない。

コロナ禍において、市場流通の果たす社会的資産・インフラとしての役割が再評価されているが、そうした時代の流れと改正市場法は相乗効果とも言うべき追い風となっている。

政策パッケージの課題がすぐに市場流通全体の解決にはならないだろうが、市場流通における「物流機能」は間違いなく「政策パッケージ」に出された方針が主力になるだろう。

各市場は国の政策をそのまま全て取り入れる必要はないが、流れを理解しつつ、今やれること、目指す課題を明確にすることが、各市場の重要な経営戦略となるのではないだろうか。

その2に続く)