卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

金沢市中央卸売市場再整備−公設維持・現在地建替え・花き市場編入が前提

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コロナ禍の中で、改正卸売市場法を待って動き出した卸売市場再整備が全国に広がっている。
卸売市場再整備にあたってのハード面の最大の課題は、PFI(民間資金の導入)である。
民間企業からの企画・提案を待って再整備を行うプロポーザル方式は既に一般的に導入されているが、新たに市場施設をダウンサイジングすることで余剰地を生み出し、その活用・運営権を民間に委託するPPP・サウンディング方式が注目されている。

千葉市公設地方卸売市場の取り組みに続き、金沢市中央卸売市場を紹介する。

基本構想策定を流通研に委託

1966(昭和41)年に開設した金沢市中央卸売市場は、2019年7月に「卸売市場の今後のあり方検討会」(座長/水野一郎金沢工業大学教授)」を設立し4回にわたって金沢市場の再整備について論議し2020年2月12日に山野之義・金沢市長に対し答申を行った。
金沢市はこの答申を受けて基本構想策定業務について一般競争入札を行い、流通研究所(神奈川県厚木市)に委託した。

公設の維持、現在地で建替え、花き市場編入が柱

検討会の報告書は、①公設の維持、②現在地で建替え、③花き市場編入を再整備の柱として提言している。
山野市長もこの提言に沿って再整備を進めたいとしており、今後、この三点を前提に、現在地で営業を継続しながら再整備を行う際の場内動線の確保など軸に、事業費の概算、市場会計・使用料の目安なども検討する。

着工 令和7年度〜約5年

令和元年度の調査事業を経たその後のスケジュールは以下の通り。

  • 基本構想(令和2年度〜令和3年3月)ローリング、概算事業費、市場会計、再整備手法
  • 基本計画・埋蔵物調査(令和3年度)
  • PFI導入可能性調査(令和4年度)
  • 基本設計(令和5年度)
  • 実施設計(令和6年度)
  • 着工  (令和7年度)工期5〜6年程度
  • 完成  (令和12年度)

取扱高目標と施設の概算規模

 

H30年度

10年後推定値

目標値

青果

85,440㌧

80,190㌧

10万㌧

水産

46,797㌧

42,954㌧

5万㌧

花き

2,479万本

1,876万本

2,500万本

取扱数量の10年後の推定値と目標値である。

目標値は現在の取扱高よりも高く設定することが多かったが、近年は5年後、10年後の取扱目標を現状よりも低く設定する卸売市場が多くなった。
特に再整備後にあたっては、施設使用料の上げ幅を低くするためもあって事業費を抑えるための施設計画となっている。

また金沢市場は市場用地が8万6116㎡で、他の中央市場よりも狭く、その上、市内二口町にある公設花き地方卸売市場(敷地面積9,195㎡)を移転し中央市場内に編入するため、余剰地を生み出すことができるか厳しいが、施設面での計画では花き部を2,447㎡として、全体の施設面積33,900㎡を7〜8割程度にダウンサイジングすることになっている。

ただし、この計画に関連売り場は含まれておらず、関連を含む賑わいゾーンについては本体の施設計画を待って決定することになっている。
しかし全国有数の観光市場である近江町市場の出店者も買参人として金沢市場で取引している業者も多く、一般開放施設とはしないことも明らかになっていて、「賑わいゾーン」のあり方も今後の検討課題となっている。

PFI導入の可能性が焦点に

基本構想策定後の令和3年度は、基本計画から PFI導入の可能性に移るが、現在、各地の市場再整備で検討されている再整備方式はサウンディング調査事業と呼ばれる方式が多くなっている。
サウンディング自体はPFIとは直接関わらないが、PPP(パブリック・パーソナル・パートナーシップ)の一種である。
卸売市場におけるPFI導入は神戸本場以外ないが、サウンディング方式は、市場用地を縮小「余剰地」を設定し、そこを市場法適用外にもできる民間企業誘致ゾーンとすることで民間企業の参加を促す方式をとっている。

狭い市場用地における施設縮小と余剰地確保が課題

しかし、金沢市場は用地も狭く、現在地での営業しながらのスクラップアンドビルドで再整備を行うことになっており、種地や動線の確保が最大の課題となっている。

現在地で営業しながら建て替える「スクラップアンドビルド」は、大阪本場や名古屋本場の再整備で取られた方式だが、工事期間が長く建設費も割高になることは避けられない。

金沢市場は、施設面では関連売場を含む賑わいゾーンを入れないで現状の7〜8割の規模を計画している。しかし、市場用地が限られているため、川崎北部市場や千葉市場のような規模の「余剰地」の確保は難しいだろう。

令和3年3月に流通研が策定する基本構想を待って、施設の縮小で「スクラップアンドビルド」によるコスト増をどの程度吸収できるか、どのような工事手法を設定することでPFIが導入できるか、等々の課題について検討されていくことになる。

 

(参照)卸売市場の今後のあり方検討会 報告書