卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

サステナブル経営と民間経営手法−東京都が中央卸売市場経営指針(案)を発表

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今年も桜を見ることができた(21年3月1日)

「東京都中央卸売市場経営指針(案)」が発表された。
主要な内容は20年先、2040年代の卸売市場の姿と、サステナブル経営の二点であり、具体的な課題として7点をあげている。(参照 東京都中央卸売市場経営指針

【2040年代の具体的な姿の例】

  • 自然災害等の事態においても「止まらない」卸売市場 ・卸売市場などの施設が着実に整備され、求められる市場機能を発揮
  • ICTなど先端技術を用いて、物流や商流における新たなサービスを提供・品揃えや加工需要等への対応を通じて、消費生活の変化に即した機能を発揮
  • 「世界の台所」としての役割を発揮・環境負荷の低減や地域との共生など市場運営を通じて、持続可能な社会の実現に寄与など

【今後の取組の方向性】

  1. 生鮮品等流通の基幹的なインフラとしての機能の強靭化
  2. 市場取引の活性化に向けた取組の強化
  3. 中央卸売市場におけるネットワークの形成
  4. 市場施設の計画的な維持更新
  5. サステナブル経営の推進
  6. 市場運営における民間経営手法の効果的な活用
  7. 強固で弾力的な財務基盤の確保

経営指針に基づく具体化は令和3年度に経営計画を策定することになっているが、以上の指針だけでも大まかな方向性は示されている。

基本はサステナブル経営、つまり20年先でも維持できる卸売市場のあり方であり、そのためのツール、手法の中心が「民間経営手法の活用」である。

公設公営で経営されている東京都11の中央市場をどのように運営すれば「サステナブル」を実現できるのか、これは一年、二年で解決できる問題ではない。20年先を見越した論議は妥当な提起だろうと思う。
いくつかの問題点を検証する。

「民間経営手法」とは何か

「民間手法」とは何を意味するのか。
今までもPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)は全ての公共施設の整備に際して優先的に検討されなければならない手法であったし、もちろん豊洲市場建設でもPFI手法が検討されたが導入に至らなかった。神戸本場がごく一部でPFIを導入したケースが唯一の取り組みであった。
こうしたPFIや指定管理者制度による「民間経営手法」では「サステナブル」な市場経営は難しくなっている。

また一部の地方市場で導入されたように、公設市場の用地・施設を全て無償で補修し長期に無償賃貸する方式も、「民営化」という結果だけを求める無理な方式で行政のメリットはあまりないことも明らかになったことから、あまり出なくなった。

こうした状況下で近年、新たな「民間経営手法」が検討され始めている。

①一つは基本構想から実施設計、完成後の施設管理運営までを通して民間企業の提案を聞き大きな企業連合体を受け皿にすることでPFI事業者の経営採算を容易にする手法である。
ただこの方式も市場業者を監督し施設管理・管理を行う開設者機能がスムーズに発揮できるのか市場業界とうまく一体化した市場経営ができるのか課題は多い。

②二つ目は、改正市場法が施設整備に際して公的支援の要件として出した機能(物流・情報・温度管理・輸出・関連機能)優先の施設を民間企業のコスト負担で整備する方式である。
市場用地を縮小し卸売市場施設をコンパクト化することで生まれる「余剰地」を、市場機能として必要な冷蔵庫や物流施設を民間負担で整備する方式で、この典型が今建設中の成田新市場である。
たぶん、この方式が今後の公設市場の主要な「民間経営手法の導入」のツールとなるだろう。

③もちろん、東京の11中央卸売市場がこうした手法を導入するのは難しい。
とりわけ大田市場と豊洲市場は絶対的なハードの容量が不足している。
東京都は改正市場法による業務規程によって、業態ごとの認定ではなく「施設の認定」となった。横浜市は本場と南部市場の二つの中央市場のうち、南部市場を廃場とし本場の物流の補完機能や賑わいゾーンとして整備することで市場機能の強化を図っている。

「首都圏から各地へ波及」の転換、「各地から首都圏への進出」

これまで全国の卸売市場を「マス」として捉えた運営基準である卸売市場法が改正され、約1千か所の卸売市場が認定され改正市場法新時代のスタートを切った。
新時代の課題は「ミニ築地・ミニ大田」からの脱却である。

そうした時代における第一の課題が「施設(ハード)は行政責任、取引・機能(ソフト)は業界責任」の転換ではないだろうか。
その絶好のタイミングが開設後半世紀を経過した老朽化施設の再整備である。

市場の施設整備は、これまで全面的な行政責任で施設を作り、そこでの取引も行政が厳密に規制管理し運営することが基本であったが、改正市場法でこの考え方が変わっている。

しかし、実際の施設整備は、今も行政主体でコンサル等に発注し、基本構想、基本計画、基本設計、実施設計の段階を踏んで着工に入る。

その過程で業界要望も聞くが、あくまで施設整備の主体は行政である。近年、こうした再整備の考え方も変わりつつあり、金沢や浜松など、基本構想段階からコンサルが事務局となり、行政・業界・コンサルが検討を行なっている。

コンサルの案を業界が検討するのではなく業界の案をコンサルが具体化するのである。
当然と言えば当然すぎることである。

東京都が令和3年度に論議する、11中央市場のサステナブル経営、民間経営手法の活用がどう具体化されるか注目されるが、今までは東京の動きが全国に波及するパターンが基本であった。
しかし改正市場法時代の市場流通は、全国各地の独自な取り組みによって拓かれた市場の「サステナブル経営」が東京・首都圏に波及する展開となるのではないだろうか。