卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

公設市場機能と民間機能の共存−成田新市場21年度開業にメド(上)

「全青協」21年02月号より上・下に分けて転載する

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成田市公設地方卸売市場 経営展望【概要版】11ページ、図表 4-2 新生成田市場の「施設配置」と「7 つの拠点(機能)」より)

改正市場法後の卸売市場は「機能優先の卸売市場とは何か」の課題に直面している。
改正市場法によって、中央市場と地方市場の垣根は基本的に無くなった。
施設整備に対する国の支援も中央市場と地方市場の差は基本的になくなり「合理化計画」の要件をクリアし、農水大臣の認定を受けると中央市場並みの4割支援の対象となる。

しかし、中央市場と地方市場の垣根がなくなったことで、地方市場が行政支援を受けるためには機能優先の施設整備が求められるようになった。
今まで何回か検証してきた市場施設整備についてまとめるとともに、公設卸売市場エリアは市場用地全体の2割に満たない成田新市場を取り上げ「機能優先の市場整備」について検証する。

1.機能優先の卸売市場とは何か

市場施設の再整備は、「施設を整備し、そこに機能を付加する」のではなく「機能を拡充するための施設」であることが求められる。

改正市場法が求める再整備の基本は、1流通の効率化(物流)、2品質管理(HACCP)、3情報(IOT)、4輸出、5関連機能(関連事業者棟ではない)の5つの機能だが、輸出とデジタル化がこの5つのベースとなる機能と位置付けられ、令和3年度予算でも事業化され取り組まれている。

輸出機能の位置付け

とりわけ輸出の課題は、国の経済政策の柱とあって優先的に位置付けられている。「輸出」の強化は「輸出のための施設」ではなく「輸出にもつながる機能を備えた施設」として、国内生産力・加工流通の強化と一体となることで初めて実効性を持つことができる。

市場流通は従来、国内での安定供給を目的とした輸入が主であったが、コロナ禍でのグローバル時代は、国内産業の育成・発展を図ることで国内外への販売力を強化することが課題となっている。

第一次産業に直結した市場流通を活用し活性化させることが、輸出拡大に向けた大きなツールとなることは明らかであり、市場業界もまたこう問題意識に立った市場施設機能の検討が求められている。

施設整備における行政責任と民間責任

国の施設整備方針は、老朽化による建て替えではなく機能優先の施設整備である。
従来は施設も業務も自治体が責任を持つことが卸売市場の原則であった。市場施設整備に対する国の支援は、卸売場や駐車場など施設ごとの補助基準となっていて、その施設にどのような機能を付加するかは施設完成後の課題であった。

しかし、機能優先の施設が国の方針となった以上、施設再整備のあり方もまた変わらなければならない。最も大きな課題は、単にコスト負担などのデメリットだけでなく、市場活性化の新たな可能性を広げる再整備である。その可能性もまた期待できるようになった。

第一は国の支援対象が中央市場だけでなく民営地方市場にも拡大されたことである。
第二は、機能優先となったことから市場業界が主体的に関わることができるようになったことである。

従来、必ずと言っていいほどあった、行政がコンサル企業に発注し策定した計画が出された後に業界が要望を出し手直しをするというパターンが変わりつつある。
すでに取り組まれている広島や金沢、浜松などは、基本構想の段階から行政とコンサル企業だけでなく業界が入って論議を行なっている。方針が決まるまでの時間はかかるが、全体の工期や経費、機能など後悔の少ない市場つくりとなるだろう。

2.施設整備における行政責任と業界責任

公設市場における施設整備は従来からPFI導入の検討を義務つけられていたが、実際には
他の公共施設に比べるとPFI導入はほとんど実現しなかった。

近年は金沢や川崎北部の中央市場だけでなく木更津や福山など地方市場においてもサウンディング型市場調査事業が採用され、民間企業の提案によって整備を進めていくPFI事業が導入しやすい環境づくりが進められている。

さらにPFI事業を推進するためのツールとなるのが「余剰地」の設定である。
旧市場法の規定による売上げと施設規模の基準による「市場面積」を出すことで、現有面積との差を「余剰地」とし、この部分を市場法適用外の民間企業誘致ゾーンとして計画している。実質は余剰地でなく「市場法適用外の付帯事業を行うことができる場」である。

この方式によって「余剰地」部分は民間コストで機能整備がなされることになる。いわば改正市場法を活用した新たなPFIの一種ともいえる考え方である。

民間企業の関心も高くなっているが、問題も出てきている。それが施設整備の期間の長さである。
中央市場の多くは規模が大きく業種も多様であるため、再整備にかかる期間は10年以上を設定しているケースも出ている。

10年以上かけて完成する「機能優先の市場施設」が完成時の社会的ニーズに対応できるのか、市場業界からも大きな懸念が出されている。
機能優先の施設整備を行い大型需要者の誘致を行おうとしても、果たして大手の企業が10年以上後に完成する施設を待つだろうか。

行政と業界の感覚のズレはどこから生まれるか

行政と業界の、こうした感覚のズレはどこから生まれるのだろうか。
PFI導入が前提とはいえ、あくまで市場の施設整備は行政主体でコンサル等に発注し、基本構想、基本計画、基本設計、実施設計の段階を踏んで着工に入る。

この考え方の前提は市場全体の全面建て替えであり、営業しながら再整備を行う「スクラップ&ビルド」方式とするか、仮設を用意し更地にして建て替えるかの二者択一になっている。

しかし、改正市場法が求めるものは10年以上かけて立派な施設を建設する「施設整備」ではなく「機能整備」である。
現在の市場業界の体力から考えると、全面建て替えによって使用料負担が増えることは耐えられないだろう。業界は当然、全面建て替えとなっても使用料はせいぜい1.5倍程度に抑えることを要望するだろう。

これに対し、「余剰地」の活用で利益を生み出し、その利益で市場施設の整備コストを軽減させる考え方は極めて不確定な要素が大きい。行政負担が結果的に増える可能性が高いのではないだろうか。

この課題をクリアするには、従来の行政と市場外企業による委託ではなく、基本構想段階から行政と業界、コンサルが協議を進めて計画を立てるべきである。
そして全面建て替えを前提とした工程表ではなく、業界が今、最も必要としている機能を導入した施設から優先的に、部分的に整備することが改正市場法の想定する「機能優先の施設整備」ではないだろうか。

改めて言うまでもなく、多くの民営地方市場はこうした考え方で機能強化を進めている。
問題はハード面のコスト負担だが、この面で改正市場法は中央市場だけでなく民営地方市場の再整備にも機能整備を条件に国の財政支援対象となる可能性が出てきている。(「下」に続く