卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

豊洲市場と営業権

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「築地市場は閉場しました。豊洲市場をご利用下さい。」と書かれ、正門は閉鎖された

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解体工事に入った青果部(10月18日)

豊洲市場が2018年10月11日にスタートして一週間、引越し作業のための暫定使用期間が過ぎて17日で閉鎖された。
しかし、閉鎖された18日も築地での営業を主張する業者と支援者が100名近く集まり、制止を振り切り入場、豊洲市場から配送した加工水産品を市場内で支援者に販売した。

一部の仲卸は営業権組合を結成し、築地市場での営業を求めて提訴している。
中には豊洲市場で営業している仲卸もいて、このままでは豊洲市場の営業にも影響を与えかねない事態になっている。

彼らの主張は、①市場業者には営業権がある、②営業権を持つ業者が移転に反対すれば移転できない、③築地市場は卸売市場法第14条に基づく「中央市場の廃止の認可」を受けておらず、築地市場は廃場していないので築地市場業者が市場内での販売を禁止するのは営業妨害である。
正確にはもっとあるかもしれないが、正門前で聞いた範囲ではこうした点が主要だと思う。

営業権の異論は無い

築地市場で営業していた卸、仲卸、関連は全社が東京都から場所指定を受けて営業することを許可された業者であり、その地位を自由に売買することはできないが営業権はある。

営業権は法的にも認められており、営業権の売買代金は税法上で損金として計上することが認められている(法人税法基本通達7−1−5)

公共施設の中で営業している市場業者に営業権があることに対しては誰からも異論は出ていない。

問題は、豊洲市場の仲卸が築地でもなぜ営業できるのか、営業許可の取り消しはどういう場合に認められるのかということである。

営業権があっても使用許可の取り消しはある

昭和50年ごろ築地市場の関連事業者が市場内の空いている土地を都から借り営業していたが、駐車場不足になった東京都が場所指定を解除して返還を求めた。
それに対し、関連事業者は、返還する義務はない、仮に返還する場合は借地権と同じ保証をすべきだと訴訟し最高裁まで争われたケースである。

長くなるので省略するが、高裁は場所指定の解除は認めたが、借地権も認め、公定価格の6割、約1億円の補償を命じた。

しかし最高裁は51年、市場内施設の使用許可を受けていても公共性による許可取り消しは合法であり取り消しによる損害賠償は認められない、但し移転や施設費用など特別の損失は補償されるという判決を出した。

公共性という錦の御旗の前には一定の私権の制限はやむを得ないとされている。
正当な理由があれば許可取り消しは認められるのである。

市場用地が狭くなったから返せという理由が正当かどうかはともかく、51年最高裁判決をみれば、営業権があるから営業できるということにはならないのである。
まして、今回は豊洲市場の仲卸も築地での営業権を主張しているのである。
豊洲市場が開場しても、一社でも反対すれば営業権があるから築地市場で営業できるという主張が正しいとすると、反対する業者がいる限り築地市場は解体できないということである。

これを権利として法的に主張する根拠はどこにあるのだろうか。

市場法第14条の意味

私が聞いた範囲では、根拠は卸売市場法第14条だという。

第14条は次の通りである。

(廃止の認可)
第14条 開設者は、中央卸売市場を廃止しようとするときは、農林水産大臣の認可を受けなければならない。
2 農林水産大臣は、中央卸売市場の廃止によって一般消費者及び関係事業者の利益が害される恐れがないと認めるときでなければ、前項の認可をしてはならない

私が理解した範囲内での、この条文の解釈は、「東京都はこの条文による築地市場の廃止の認可を農林水産大臣から受けていない、仲卸や消費者も反対し利益を害している。だから築地市場は14条の認可を受けておらず、廃止されないまま豊洲中央市場は開設されたのだから、豊洲も築地も中央市場として残っており、営業権を持つ業者は豊洲でも築地でも市場内で営業する権利がある、都が築地に入れないことは営業妨害である」という主張だと思う。

この考え方をした方は、たぶん卸売市場のことを知らない方だろうと思う。

開設者は築地市場を移転したのであって、第14条の「開設者(東京都)は、中央卸売市場を廃止しようと」したわけではない。

つまり築地市場は第14条の該当市場ではないから廃止の認可を受ける必要はない。
都も国もうっかりしていたわけではないと思う。
都も国も市場法第14条に違反しているという主張は流石に大胆すぎるだろう。

ついでに第2項も説明すると、「消費者、関係事業者」とは個々の消費者や事業者のことを言っているわけではない。

市場業者や特に小売店がこぞって反対する、あるいは地域の消費者が署名運動をして住民の何割かの反対署名を集めるなどがあれば、地方自治体は財政赤字等を理由に中央市場を廃止することはできないという趣旨である。

東京は11の中央市場がある。この中央市場を全て廃止すると東京都が言った場合に第14条が該当するのである。

中央市場がなくとも地方市場があればいいではないか、だからこの第14条は削除されるのである。

これ以上、築地の解体を遅らす理由はない。オリンピックの準備が遅れるという理由はともかく、税負担が増えるだけで都民の利益にならない、豊洲市場業界にとっても築地場外市場にとっても何らプラスにならない。

千社近い市場業者の中の何社かが主張しても認められる可能性は全く無いし反対する訴訟費用だけでも負担が大きい、何社かが市場内で営業するために23万平米の土地・施設を整備できず都民の税金を使う納得は得られないだろうと思う。