卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

生き残りをかける地方卸売市場−改正市場法の下で何を目指すか

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2020年6月に施行される改正卸売市場法によって地方卸売市場は最も大きな影響を受けるだろう。
青果、水産物を中心とする生鮮食品流通は、千を超す卸売市場によって網羅されている。その卸売市場は64中央市場と1060地方市場に分かれており、市場数では全体のわずか6%にすぎない中央市場が取扱高では地方市場の3.2兆円を上回る4兆円を取り扱っている。


1.地方市場は隙間産業

規模的には圧倒的な優位に立つ中央市場に対し、これだけの地方市場がなぜ機能し残っているのか、その最大の要因が、次のような中央市場の卸売会社に対する卸売市場法の規制である。

  1. 法で定められた開設区域以外の販売禁止
  2. 仲卸と売買参加者以外に対する販売禁止
  3. 商物分離取引の禁止

こうした中央市場に対する規制によって地方市場は、いわゆる「隙間産業」ともいうべき分野で、千に及ぶ地方市場が生き残ってきたのである。こうした中央市場に対する規制によって地方市場は、いわゆる「隙間産業」ともいうべき分野で、千に及ぶ地方市場が生き残ってきたのである。

そうした中央市場に対する規制が改正卸売市場法によって原則廃止される。中央市場と地方市場が同じ土俵に乗る市場主義経済による自由競争の世界に踏み込むのである。 地方市場の生き残る途はあるのか、あるとすると、どんな方策が考えられるのだろうか。

2.地方市場の優位性

地方市場の優位性はいくつかある。

① 差益業者のノウハウ

中央市場卸は、委託集荷と法定手数料による競売が原則であり、価格評価と分荷は仲卸という機能分担が前提としてあった。卸は自分で売値を設定することが原則禁止されていたのである。

それでも数百億円以上の卸が多い中央市場は、低い手数料でも残る利益は大きかったが、同じ卸でも、数十億円の卸が多い地方市場は営業利益自体を確保することが困難であった。中央市場と同じことをやっていては食べていけない地方市場は独自のノウハウで利益を確保せざるを得なかったのである。

そして自治体財政に支えられてきた中央市場は、地方自治体の財政危機とともに市場の独立採算が強調されるようになり、規制緩和と財政支援の減少がセットになった。「保護と規制」を柱とする公共的な市場政策の終焉でもあった。 

これに対し地方市場は仲卸制度がない市場が多く、評価、分荷機能も卸が担う。必然的に加工、パッケージなど、近年の量販店の求める機能を早くから果たして来た。行政支援が薄い地方市場は、手数料業者ではなく経営を維持できる利益確保を目指すノウハウ・差益業者への途は必然であった。

この差益業者としてのノウハウは、規制廃止と経営の自己責任を求める改正市場法の下で、規模的に劣る地方市場のもつ大きな優位性の一つである。

以下は項目だけを列挙する。

② 卸の経営戦略に基づく市場用地・施設の多角的活用(太陽光・量販店施設の誘致等)
③ 使用料を払い続けても資産にならない公設市場と違い、資産として経営に貢献できる
④ 産地に位置する地方市場が多く、生産者の代理人としての機能が発揮できる
⑤ 卸の経営方針がそのまま市場の経営戦略となる

3.「公設だから有利」は神話になった

今回の改正市場法は、中央市場と地方市場、公設市場と民営市場、卸と仲卸、市場内と市場外など、従来の垣根、法区分が実質廃止される。
仮に全市場が同じフィールドで、同じルールで競合するなら勝敗は明白だろう。体重別クラス制にするしか地方市場の勝ち目はない。
しかし改正市場法はそのルールを原則廃止した。体力勝負から知恵・経営ノウハウの勝負になるのである。

一番強いのは体力も知恵もある市場である。地方市場でいえば、キョクイチ、弘果、石巻青果、R&Cホールディング、東京多摩青果、熊本大同青果、マルイチ産商、などである。
中央市場と地方市場の垣根がなくなれば、むしろ中央市場卸よりも優位な展開ができるだろう。

問題は、経営ノウハウはあるが中央市場よりも体力のない民営地方市場と、中央市場ほどの体力も民営市場ほどの経営ノウハウもない公設地方市場である。
ここ数年、公設市場から民営市場に転換した地方市場は苦戦しているケースが多いが、石巻市場や長岡市場、藤沢市場など公設から民営市場となって成功した事例が増えている。上記した大型民営市場だけでなく「公設だから有利」は神話になった。

さらに多くの地方市場に共通する特徴が産地に直結していることである。
改正市場法は様々な狙いがあるが、その一つが生鮮流通を食品流通の一部と位置付けることによる生産から消費までのサプライチェーンの確立である。このサプライチェーンの目指す利益の源泉は青果物、水産物の原料確保である。

こうした面で最も優位性を持っているのが産地市場的性格を持っている地方市場であり、その優位性を最も発揮しているのが個々の生産者に直結し生産者の販売代行業者としての性格が強い丸勘山形青果や、リンゴの単一卸に特化し、日本一のリンゴ流通の卸となった弘果、小田原魚市場などがある。

そして、改正市場法によって可能となった商物分離取引によって、大都市市場卸と連携し、地方市場の施設を地域の量販店の配送拠点として共用で活用する動きが出てきている。この機能は産地に位置する地方市場にとっては改正市場法の趣旨を生かした最大のメリットになる可能性がある。

量販店にとっては全国的な系統青果物は必要だが地元の地場産も欲しい。そのニーズに応えるため、中央市場の商品と地元地方市場の商品を地方市場内に集め、ピッキングし配送するシステムである。すでに試験的な動きが出ているが、地方市場は転送経費などのリスクを負わず、自社単独では対応できない量販店へも販売でき、加工・パッケージ、配送などの業務を請け負うことで新たなビジネス、利益、雇用確保が創出する。中央市場卸にとっても量販店のニーズにきめ細かい対応ができ配送コストも軽減できるなど大きなメリットが期待できる。

全体として千を超す卸売市場は、生産者からの集荷、価格形成、分荷、決済等の機能によって第一次産業を支える社会的資産としての役割を今も果たしている。
中央市場、地方市場ともに、改正市場法後の新たな食品流通に対応したサプライチェーン・マネジメント・システムをめぐる新たなステージに向かうことになるだろう。

「AFCフォーラム(2019年7月号)より一部転載」