卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

富山市場方式はなぜ国の補助対象にならないか

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富山市場方式とは、富山市公設地方卸売市場の再整備に当たって、富山市が出した「市場敷地全体に事業用借地権を設定し、事業者が市場施設と民間収益施設を一体的に整備した上で引き続き所有し、市場施設を市が賃借し運営を行う」方式である。(以下、事業の概要は4月20日付けで説明)

民間が整備した施設を行政が借りて公設市場とする「民設公営」方式で、今までにない整備手法である。

既存公設市場の再整備に直面している開設自治体にとっては再整備コストの軽減に役立つ方式である。
問題になるのは、この富山市場方式はPPP(パブリック・パーソナル・パートナーシップ)の一つではあるがPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)ではなく、国の市場整備支援の対象にならないということである。

富山方式はなぜPFIにならないか富山方式はなぜPFIにならないか

富山方式はなぜ国の補助対象にならないのだろうか。
公共施設の整備はまずPFI導入の検討が原則となっている。

PFI方式には次のような様々な方式がある。

  1. BTO (建設・移管・運営) PFI事業者が建設(Build)し、行政に所有権を移転し(Transfer)し運営する(Operate )
  2. BOT (建設・運営・移管) PFI事業者が建設(Build)運営(Operate )し、投資回収後行政に所有権移転(Transfer)
  3. BOO (建設・保有・運営) PFI事業者が建設(Build)し、そのまま所有(Own)し運営する(Operate )
  4. BLO (建設・リース・運営) PFI事業者が建設(Build)し、施設は行政が買取りし、PFI事業者にリース(Lease)
  5. BLT (建設・リース・移管) PFI事業者が建設(Build)し、公共側に一定期間リース(Lease)し、事業コストを回収した後に行政に所有権移管(Transfer)
  6. DBO(設計・建設・運営) 基本設計から建設、完成後の運営までPFI事業者が責任を持つ。資金は行政が責任を持つ。

PFI方式で最も多いケースは1.と2.だが、リース方式(4.5.)や、最近出ているサウンディング方式による6.などがある。
富山市場の場合は3.のBOO方式が近いが、いずれのケースにも該当せず、行政が民間所有施設に支払うリース料に対する補助制度はない。

従来の市場施設整備に対する国の補助は平均すると三分の一であり、国の支援分がなくなると、もともと富山市の財政負担を軽減するための方式が結果的には軽減にならない可能性が強くなる。
富山市が民間企業に支払う金額は総額で124億円であり、これが市場業界の使用料負担の基準になると、業界負担はかなり厳しいことになるだろう。

市場業者の使用料については具体的には次のような問題点がある。

市場業者の使用料はどうなるのか

民間企業に対する公設市場部分の賃借料は124億円になっているので、イコールではないが事業費としてはこれに近い数字となるだろう。
そうなると、施設整備に対する国庫補助金が三分の一補助とすると約40億円となる。この40億円が補助金となるかどうかは、市場業者が支払う施設使用料に大きな影響を与えることになるだろう。

ちなみに、最近出ているサウンディング方式による再整備は基本設計から建設、完成後の運営までPFI事業者が責任を持つDBO(設計・建設・運営)方式だが、資金は行政が責任を持つことが前提であり、これはPFI方式の一つであり富山方式とは違う。

市場業者の使用料負担

市場施設の使用料は業界が富山市に支払うことになるが、この施設使用料は決まっていない。富山市場の使用料は売上高割使用料千分の3と施設使用料の二本立てで、現在、卸3社に対して経営支援として個別に減免を行なっている。

こうした使用料は、公設市場であるから当然に議会による承認が必要となる。
もともと「民設公営」のリース方式を採用した目的は、市の財政負担を軽減しつつ公設市場を維持することである。
市の市場会計負担を大幅に増やすことは想定されていないが、市場業界も現行使用料が何倍にも上がることは耐えられないだろう、その折り合いがつくのだろうか。

例えば、今後想定されるケースとして、市場業界は売上減などによる経営採算から施設の一部返還が認められるのだろうか、関連店舗や事務所棟で施設が空いた場合も市場業者の使用料は変わらないのだろうか。
変わらない場合は富山市の財政から支払うことになるのだろうか。また空いた施設のテナント補充は、市場業界も民間企業も責任はないから、これも富山市がテナント補充の責任を負うことになるだろうが、この使用料負担も全て富山市が負い続けることができるのだろうか。

行政にとっても業界にとっても、かなりリスクが高い整備方式となる可能性があるだろう。

再整備にかかる行政の初期投資が軽くなるという点では行政のメリットは大きくPPPの一つの選択肢として検討される可能性はあるだろう。
しかし、全国で初めてのケースだけに当然だとも言えるが、さまざまな課題が発生する可能性は高い。公設市場の再整備方式としてどこまで広がるかは不明である。