卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

オークネットが砧花き買収−ネットオークション企業が中央市場卸に

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市場は変わらなければならないと誰もが言う。問題はどう変わればいいかである。

2020年6月21日、改正市場法が施行された。改正市場法は既に一年前に成立しており、いわばこの一年は助走期間とも言うべき一年であった。

改正市場法は取引の自由化や市場再編・統合など、実践的には既に取り組まれてきた現実の後追いでもあるが、改正市場法時代における焦点の一つ、卸の統合・再編にまた新しいケースが誕生した。

ネットオークション市場として20年の実績を持つ株式会社オークネット(藤崎慎一郎・社長)が7月1日付けで東京都中央卸売市場世田谷市場の花き部卸「東京砧花き園芸市場株式会社」(資本金1億円 村田市子・社長)の全株を取得し子会社となった。

砧花き、オークネットのメリット

先日、東京都中央卸売市場世田谷市場の花き部卸「砧花き園芸」の村田市子社長に取材し、オークネットへの株式譲渡について聞いた。

印象的だったのが「コロナで経営が悪化したことによる譲渡」ではなく、三月期も利益を出し健全経営を維持している中での「将来を見据えた統合」を選択したこと。

そして、その考え方の結果として既存の市場業者との統合ではなく、市場外でネットオークションという新しい機能を持ち「切花事業」を行っているオークネットを選択したことである。

相手より自分の方が、少しだけプラスが大きいと感じる統合がベスト

確かに、鉢物専門の市場卸を将来的に伸ばしたい「砧花き」と、自らが持っていない中央市場卸としての機能と「鉢物」という新たな商材・販売ノウハウを、スタッフ共々得ることができた「オークネット」はどちらのメリットが大きいのだろうか。

統合が実現するのは双方のメリットが一致するからである。オークネットは1985年に中古車のオークション事業を開始し、その技術を活用して1997年に切花事業に参入、今ではオークネット全体の売り上げは200億円、このうち子会社「オークネットアグリビジネス」が扱う切花事業は60数億円を売り上げる。

鉢物専門で43億円を売り上げる「砧花き」をオークネットが買収したことで、単純な合算で100億円を上回り、一気に花き市場業界でトップクラスの規模となる。

通常、市場内業者の統合は1+1=2にならないが、オークネットの場合は切花と鉢物で競合商材にはならず、両社の売上合計は最低限のスタート値となる。

オークネットにとってはこれだけでも大きなメリットである。さらに花市場として「砧花き」は、全国屈指の優良産地・高級園芸店を顧客に持っていること、東京都中央卸売市場の卸売会社となること、規制緩和が保証される改正市場法と同時に新たなスタートを切ることなど、そのメリットは計り知れないだろう。

「砧花き」はどのように変わるか

村田社長は退任するが世田谷市場の体制は今まで通りである。

村田社長は、2001年の開業以来、父親の故・村田俊次初代社長を補佐してきた。
村田俊次氏は、協会幹部として「日本花き園芸産業史・20世紀」を発案し刊行会代表幹事として尽力するなど業界を代表する顔であった。

それだけに、世田谷市場で取材した村田市子社長は、健全経営を維持したまま父親から託された「砧花き」を新しい時代の企業にバトンタッチすることができて「いい相手を選択できました」と語る、「コロナの影響で経営不振となって譲渡した」という一部の風評を吹き飛ばす晴々とした顔である。

社員の雇用が守られノウハウが活きる

「砧花き」のメリットは、何よりも社員50名、パート30名の雇用を守ることができることである。社名も「砧花き」のままで世田谷市場をそのまま活用する。

切花と鉢物の集荷・販売ノウハウは全く別であり、オークネットは世田谷市場のノウハウを活かすことが重要だけに人員削減は考えられない。むしろ取引拡大に向け従業員の拡大が必要になる可能性は高い。

またオークネットは、数社の協力運送会社を使い切花の全国配送をしているが、鉢物がグループとなることで売り上げの拡大だけでなく配送コストの低減等の効率化も十分可能となる。物流と情報システムの統合は今後の課題として取り組まれる。

改正市場法時代の統合:三つの選択肢

改正市場法後に注目されるのが市場と卸の再編・統合である。
市場内と市場外の取引規制が基本的に撤廃されたことで、統合再編のあり方が大きく変わるだろう。

統合再編のあり方については次の三つの選択肢がある。

  1.  市場内の統合・単数化
  2. 他市場卸との統合
  3. 市場外企業との統合

市場数は多すぎる。これは誰もが指摘することだが、今の段階では「市場統合」ではなく「市場内卸の統合」が多い。特に青果は産地の指定価格問題等で規模の拡大による健全経営を目指す。名古屋セントライ、札幌みらい、R&Cと大型卸の統合が相次いでいる。

他市場卸との連携では、栃木県南地方市場が長く不在だった水産卸に宇都宮中央市場の卸を、コストをかけない形で誘致するなどのケースが出ているが、あまり多くはない。

改正市場法の施行とともに「市場数が多すぎる」ことによる淘汰は進むことは確実であり、他市場卸との統合も様々なシステムが生まれるだろう。

青果・水産市場にも波及

そして今、最も注目されているのが市場外企業との統合である。「砧花き」も三つの選択肢がある中で、あえて三つ目の市場外企業との統合を選択した。

村田社長は「市場内業者が統合しても多くはうまくいかないケースが多い。改正市場法が施行されるとインターネットに強い企業が市場機能を活かして伸ばしてくれるだろうと思いオークネットにお願いした」と語る。

青果業界においては米穀卸の「神明」が400億円を扱う東果大阪を買収、水産でも5000億円を扱う中堅スーパー「ロピア」が横浜丸魚と共同出資で新しい市場卸売会社を設立するなどの動きが出ている。

これらはいずれも改正市場法による規制緩和の流れを先取りしたビジネスモデルであり、今後、こうしたケースはさらに増えるだろう。