卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

コロナ禍で取引拡大‐豊明花き「電子取引イロドリ*ミドリ」

名鉄名古屋本線「豊明」駅前にある豊明花き地方市場

(全青協22年11月より転載)

コロナ禍において卸売市場の取扱高は全体として健闘しているが、中でも花き市場のITを活用した活性化は際立った効果を上げている。
花き業界は全体に業績は良いが、もちろん、この好調さはコロナ需要の一過性によるものだけではない。
高い市場経由率に支えられて市場業界で最も早く機械セリを導入、コロナ禍で非接触・非対面の課題が出ると、自宅からもセリに参加できるオンライン取引を始め、全国的に広がっている。市場取引のIT化先進であるだけでなく国全体の重要課題であるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の先進ともなっている。

こうした経緯が、コロナ禍における花き市場の好調さを実現できた要因だろう。
今回は、そうした花き市場業界の取り組みで、今、最も注目されている豊明花きの電子取引プラットフォーム「イロドリ*ミドリ」を紹介する。

花き市場(鉢物)の現状

花き市場109社の21年売上は3474億円。コロナ禍の、いわゆる巣篭もり需要を受けて前年比9%と好調である。
花き市場は切花と鉢物に分かれており、鉢物市場の21年取扱高は936億円で前年比13%増ととりわけ大きく伸びている。
このうち豊明花きは年商130億円を扱う鉢物市場のトップ卸である。同じグループで107億円を扱う第二位のフラワーオークションジャパン(FAJ)と2社で全体の25%を占めている。

リアルタイムの商品画像で取引

花き流通のECプラットフォーム「イロドリ*ミドリ」は、入荷する商品の全てを画像化し、リアルタイムの画像を見ながら競売、相対、予約注文など市場取引の全てをインターネット経由(パソコン・スマホ)で行うことが出来るシステムである。
定期ルート配送、宅配梱包、値付け等の流通加工サービスを提供し、取引額は53.6億円に拡大している。

入荷する商品全ての写真を撮りデータ化しておくことは1996年の豊明花き地方卸売市場開場時からおこなっていたことである。
当時は、単にセリの時に情報として表示するだけであったが、卸売業を「卸し売り」だけでなく、配送を付加価値サービスとするパッケージングサービスとした。
そして、その中に商品データを活用することで提案型営業に変化していったのである。
商品のデータ情報をさまざまな機能に活かすことで新たな商材・マーケット開拓へとつながっていった。

コロナによるトレードフェア中断からオンライン拡大

「イロドリ*ミドリ」のシステムは、すでに2008年に開発していたが、本格的に活用することになったのは、思いがけないコロナ禍に直面してからである。新たな取引スタイルを生み出すことになった。

生産者と買受人が一堂に会する商談の場として「JFIトレードフェア」がコロナによって中断せざるを得なくなった時に、商談会に向けてさまざまな提案を行ってきたノウハウをオンラインでも活かせないかという話になり、その時に「イロドリ*ミドリ」がそのまま新たな販売ツールとして活用の道が開けるようになった。

トレードフェアとオンラインは同じ実績確保

JFIトレードフェアは年4回(2、5、8、10月)開催し、出展者は750人、入場者は2000人以上になっていた。
2022年は何とか実現したいと思っていたが無理な状況となったために「イロドリ*ミドリ」によるオンライン商談会を実施した。
初日はリアル商談会よりも2000万円少なく、懸念したが、詳細な画像はあり翌日でもオンライン受注ができることから結果的には年4回のトレードフェアと変わらない実績をあげることができた。

大きく変わった取引〜注文・相対が全体の8割

こうした経緯の中で豊明花きの取引形態も大きく変化した。
取引はセリと相対、注文があり下げゼリ方式である。
2019年の鉢物市場全体では、競売36%、相対43%、注文21%であるが、豊明花きは、競売26%、相対19%、注文53%となっている。注文・相対が72%を占めているが、現在は注文・相対が8割を占めている。

注文・相対が増えた要因

  1. 注文・相対が増えた要因について、福永社長は以下の三点をあげている。
    量販点、小売店のチェーン化などによる取引方法の多様化
  2. 需給バランスの変化。生産した商品を売るのではなく需要に応じて生産するプロダクトアウトからマーケットインの転換
  3. この結果、委託取引から注文取引が増え、出荷者は需要に基づいた生産計画が可能になり、買受人は販売計画に基づいた仕入れが可能になった

商談会3か月〜1年前に実施

注文・相対が増えた結果、取引先の都合に合わせた商談会を定期的に行うようになった。
通常は3か月前で、母の日向けは1年前に実施、前年の結果を踏まえた提案書による新商品等の提案をおこなっている。
これもまた、日常的な商談が難しくなった今、重要さを増しているし、日常的な面談が可能になったとしてもこうした商談会の重要性は増すだろう。

ビッグデータの活用とBtoC活用

植物のビックデータプロジェクト「Plants DATA(プランツデータ)」の運用を2022年8月から開始している。
Plants DATAは、消費者動向からトレンドをいち早くキャッチして生産や流通に活かすことや、需給バランスを保ち植物のロス等の業界全体の課題解決へ貢献することを目指している。
またデータをもとに新しいトレンドをキャッチし発信する機能を、従来「BtoB」から「BtoC」に活用できないかという検討も始めている。

総合花き卸としての発展

またSDGsの課題として輸送容器のリユースを推進する循環型社会への貢献にも取り組むなど多彩な経営戦略を展開している。
豊明花きは、2012年9月にJFPから切花事業の譲渡を受け、既に総合花き卸となっており、鉢物主体による取引改革の先には新たな展開がさまざまに生まれるだろう。

青果と花は同じ農業分野だが商品特性は違う。取引も歴史的な違いがある。豊明花きの先進的な取り組みが、そのまま青果業界で通用するわけではないことは当然である。
しかし、市場規模では青果、水産市場に比べるとはるかに小さく、豊明花き市場が民営市場であるように、花き市場流通においては卸売市場法改正前から中央市場と地方市場の違いも少ない。

改正市場法時代の中で。青果、水産においても花き市場流通に学ぶ市場が出ることは必然だろうと思う。