卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

成田新市場の不安、4回目の入札でようやく建設業者決定−1年半の遅れに懸念の声

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新市場イメージ図、上部が空港だが直接は行けない(成田市資料)

輸出入中心の市場を目指す成田新市場が、ようやく開場の目処がついた。

当初はオリンピックまでに間に合わせるという計画であったが、本体棟の入札が3回続けて不調となり、6月の4回目の入札でようやく落札され、令和3年(2022年)3月末の完成に向けて着工した。

しかし、本体棟の入場業者は決定したものの、成田空港利用者との交流施設や関連棟はまだ具体化されておらず、オリンピック開催のビジネスチャンスを逃す事態になった。
高度物流施設に入場する大手企業や仲卸からは「当初予定より1年半の遅れで商機を逃した。営業戦略はゼロから練り直すことになるだろう」との声も出ている。

落札された本体棟入札結果は次の通り

建築工事 57.4億 新日本・国井JV 鉄骨3階建
  敷地 9万2746m2、延べ床2万8502m2
電気設備工事 関電工、小嶺、平野JV 18億9千万円
機械設備工事 朝日・三和JV 27億9千万円
工事期間 令和元年6月〜令和3年3月31日
新市場開場 令和3年夏

なぜ開場が遅れるのか

当初計画からの大きな遅れはなぜ起きたのだろうか。
オリンピックに間に合わせるという大義名分があり、政府の輸出振興に向け実質は国策市場であり市場業界の反対も少なかったこと、移転用地も県有地で確保されていたこと、国、県、市の積極的な支援があり有力民間企業の進出希望も多かったこと等々、どこから見ても遅れる理由はなかったはずである。

なぜ遅れたのか、いろいろな理由はあるが主な要因は次の点である。

1.オリンピック前開場のスケジュールありきで進めたが、オリンピック関連工事に伴う人手不足、総工事費の高騰が直撃、更に入札方法も複雑なJV方式を取ったため入札が3度に渡り不調に終わった。

2.スケジュール優先の都合上、用地買収が容易な県有地への移転をきめたが、面積が少ない上に、用地が三角形で細長く、市場を開発する上では制約が多く、非常に中途半端な状態になってしまった。

3.国家戦略特区の認定を受け成田空港を活用した輸出機能を全面に出した施設を作るという国策が先行し、公設市場の移転論議よりも市場業界抜きの市場つくりが先行したこと。

4.総工費の高騰で当初計画の134億円が150億円以上になることは確実となり、国策市場ではあるが国の助成は10数%程度。国庫補助の増額要請がなされているが財政的裏付けが遅れたことも遅れの大きな要因の一つとなっている。

5.行政による施設計画が先行し、業者収容など具体的な課題は大手コンサルに丸投げして調整を委ねたこと。
当初は公設市場のみの移転を計画し、関連事業者の移転については、仲卸業者からの要望を受け後から計画に追加させるなど、市の計画には当初から無理があった。
面積や水の問題から大手加工業者は移転対象外となっている。
また冷蔵庫業者も現在地での営業を選択し、新市場の冷蔵庫運営事業者は新規に公募する必要に迫られるなどの混乱も生じた。

6.空港との交流施設が一つの目玉施設であったが、セキュリティの関係で空港と動線が繋がらず、歩いても行けず、バスを用意するしかないが空港に降り立った外国人観光客が最初に成田新市場に行く魅力が見えてこないこと。面積が小さい事も事業者が二の足を踏む原因となり、市場としても観光施設としても不十分なことで交流施設の民間ディベロッパー選定が遅れている。

7.成田市総合流通センターで営業している関連事業者は交流施設とは別の関連施設となっていて従来の公設・民営の相乗効果が不十分である。

 

こうした状況によって、行政が主導する成田新市場は、実際の市場業者との移転の話し合いが後手後手になって、移転反対の動きはそれほどでもないにも関わらず合意までに時間がかかるという負のスパイラルともいうべき状況が続いた。

何よりオリンピック開催を事業の最大のチャンスと捉えていた入場業者、特に高機能物流施設に入場予定の輸出実績のある9社が計画よりも2年半遅れの商機を逸した段階で、民間企業として2年半後の営業戦略を再構築できるかどうか、成田新市場は今後も大きな試練に向かうことになるだろう。