卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

私の好きな美術館−その6箱根と熱海 MOA美術館(静岡県熱海市)、箱根美術館など

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岡田茂吉イズムの結晶、箱根美術館(ホームページより)

箱根と熱海は全国的に最もよく知られている温泉地の一つである。

箱根は山、熱海は海でどちらも魅力的な土地柄なのだが、文化的な面では違う、箱根は魅力的な美術館が多いが、熱海はMOA美術館以外に見るべき美術館はない。
それでいて「箱根・熱海」で検索するとMOA美術館がトップだと思う。

金色夜叉の貫一はD V男?

熱海は一時、観光客が激減し、駅前の大型ホテルが廃業しチェーンが張られていた。倒壊すると大変だと思った記憶があるが、これは大型ホテルがどこもホテル内に飲食や娯楽施設を競いあってつくり、宿泊客をホテル内から出さないようにしたため昔からの温泉街の雰囲気がなくなったことが大きな要因だった。その反省から温泉街全体の取り組みがようやく成功し近年活気づいた。コロナ被害もなんとか乗り越えてくれるだろうと思う。

熱海の海岸沿いにある金色夜叉の「寛一・お宮」像の前を歩いていて、すれ違った若い女性二人が像をチラッと見て「D V男ね」の会話が聞こえて仰天したことがある。「来年の今月今夜のこの月を」で有名な貫一も尾崎紅葉もD V男と非難されるとは思わなかっただろう。若い女性の感性の豊かさに感心した。
確かに貫一がお宮を足蹴にする像だから、いまなら貫一は「暴行罪」ではないだろうか。

熱海では文化的な施設というと、観光バスで行けるのはMOA美術館しかないだろうと思う。一度は行ってみたい施設であり、規模・内容は一度で観るのが無理なほど充実している。

「宗教と芸術」のシンボルとなったMOA美術館と箱根美術館

「MOA美術館」とは「Mokichi Okada Association」、つまり世界救世教の教祖である岡田茂吉の頭文字である。

熱海の海岸に建てられた広大な施設には国宝の尾形光琳、野々村仁清はじめ東洋美術中心に3500点の収蔵品がある。海岸の高低差を活かした立体的な施設で内部には200メートルに及ぶエスカレーターなどあり、とにかく広く回るのが大変である。

ホームページによると、岡田は「優れた美術品には、人々の魂を浄化し、心に安らぎを与え、幸福に誘(いざな)う力があると考えていた。美術品は決して独占すべきものではなく、一人でも多くの人に見せ、娯しませ、人間の品性を向上させる事こそ、文化の発展に大いに寄与するとの信念を持ち、戦後、東洋美術の蒐集につとめ、海外への流出を防ぎ、1952年(昭和27年)、財団法人東明美術保存会(現在は公益財団法人岡田茂吉美術文化財団)を設立し、神奈川県箱根町強羅に箱根美術館を開館した」とある。

戦後の混乱期に美術品の海外流出を防いだ岡田の功績は大きい。尾形光琳の国宝「紅白梅図」は絵画としてだけでなくデザインとしても超特級のセンスだが、この国宝は戦時中に持ち込まれ購入したもので、戦禍を逃れたのは岡田のおかげである。

岡田哲学を具現化した箱根美術館

岡田は宗教家よりも哲学者と言う方がふさわしいかもしれないが、宗教家としても卓越した指導力を発揮した。その岡田哲学を感じるのは、私は熱海よりも箱根強羅にある「箱根美術館」である。

全く予備知識なしに入ったのだが、陶磁器を中心に東洋美術の粋が収集されていて、庭も美しく建物も優雅で宗教施設の内部に紛れ込んだような静かな空間だった。ここが世界救世教の聖地「神仙郷」約10万平方メートルの敷地内と知って納得した。

強羅には昔、東京都中央市場健保組合(今は解散している)が所有する保養施設があって強羅温泉が好きで何回か泊まっている。

朝、散歩に出ると作務衣を着た若者が庭先を掃き清めている宗教施設らしい場所があるが、特に目立つ看板もない、観光客は強羅からケーブルカーに乗って大涌谷の方に行くので途中駅には会社の保養施設くらいしかない地域で人もいない、まさに「神仙郷」である。

箱根は美術館巡りもいい

箱根には数多くの美術館がある。熱海と対照的なのは海と山の違いかもしれない。
その数多い箱根の美術館でもっとも歴史があり圧倒的な存在感を持っているのが箱根美術館だが、その他に私が好きな美術館は「ポーラ美術館」と「星の王子さまミュージアム箱根サン=テグジュペリ」である。

「ポーラ美術館」は化粧品メーカーのイメージ(私はよく分からないが)にふさわしく、モダンな建物が仙石原の森とよく調和している。下世話な感想だが、企業のイメージアップにかなり貢献度があるだろうと思う。

壁がガラス張りなのか外光がふんだんに入り、美術館には珍しいほどの明るい美術館である。コレクションも豊富でいつもユニークな企画展をやっていてレストランもいい。
「星の王子さまミュージアム箱根サン=テグジュペリ」は、入る時はあまり気乗りしなかったのだが、館内はサン=テグジュペリの足跡と想いを体験できる企画になっていて面白く巡った。

飛行機好きで最後は飛行機に乗ったまま行方不明になったサン=テグジュペリの作品「星の王子さま」のテーマミュージアムである。

単なる展示ではなくテーマごとに鑑賞でき、建物も雰囲気がある。「星の王子さま」をテーマにしたミュージアムは世界でも一つらしい。フランスになぜないのだろうと思う。