卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

東京青果の神田青果グループ化の意義‐首都圏青果市場の激変加速①

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狭隘化解消が大きな課題となっている大田市場卸売場

令和2年度売上2200億円と圧倒的なシェアを持つ東京青果は6月21日、東京神田青果をグループ化すると次のように発表した。

「2021年6月 18 日付で、東京青果株式会社(代表取締役社長:川田一光)は東京神田青果市場株式会社(代表取締役社長:山屋美智子)の主要株主と株式譲渡契約(以下「本契約」)を締結し、2021年度上期中を目処にグループ化することとなりました…」 

東京神田青果の売上は180億円、小さくはないが同一市場内の卸であり、東京青果が統合ではなくかなりの資金を投資してグループ化するケースは珍しい。
東京青果は売上、利益ともに全国市場トップの地位をキープしており、ハード面では大田市場の狭隘化解消が今後の発展の鍵となっていた。
しかし、売上規模で言えば、東京青果の1割にも充たない同一市場内の卸を、大きな財政投資によって統合を図る意義は、単に市場内の狭隘化解消だけではない。

グループ化の狙いについて、東京青果は大田市場のハブ機能強化をあげているが、この背景には、改正市場法を契機に、近年、首都圏のマーケット進出を図る動きへの対応とも連動していることも当然だろう。
改正市場法時代を迎えて首都圏マーケットをめぐる市場流通の競合が激しくなるだろう。その動きとして第一に神明グループの進出がある。

神明グループの展開方向

2020年12月、神明が東京中央青果(シティ青果の親会社)の30%株式を取得して神明グループの青果事業部門が一気に1300億円規模に拡大したことは、おそらく市場流通の長い歴史でも特筆すべきケースだろう。
それは、改正卸売市場法によって、市場流通がどのように変わるのかという問いに対する象徴的な答えでもあった。
これまで東京市場は、東京青果が一人勝ちと言われるほど売上、シェアともに拡大してきた。

それに東京西部地域に揺るがぬ経営基盤を持つ東京多摩青果がある。
東京多摩青果は、三鷹市役所に隣接する旧本社跡地をはじめ、国立市場、東久留米市場の市場用地6万㎡の不動産を有し、800億円を売り上げる規模、財務ともに超優良企業である。
さらに築地市場で水産部とともに高級食材の宝庫として業務用でトップの地位を維持してきた東京シティ青果が際立ち、これに新宿副都心に位置する淀橋市場、北足立市場が安定的に拠点市場として機能してきた。

東京市場は長年、こうした拠点市場を中心とした安定的な商圏であったが、そこに米穀卸のトップである神明が参入したのである。
神明は米の流通が自由化になって以降、急速に伸びた企業であり、統制時代から自由化へと変化した米と同じ道を歩みつつある青果流通に参入したのはある意味、必然かもしれない。異業種の市場流通参入が相次いでいるが、神明は「異業種」とも言えない食品産業の参入であり、改正卸売市場法の変化を体現している役割とも言えるだろう。

当初、青果業界には神明がどこまで本気で青果市場流通に取り組むのか疑問視する見方もあった。
しかし、青果市場部門は神戸に本社を置く神明ホールディングスの下で東果大阪、成田市場青果、東京シティ青果があり、そのシティ青果は柏市場に千葉支社をもち、それに輸出に特化した成田新市場を将来の布石としている。

さらに水産食品加工販売の「神戸まるかん」、水産輸入の「ゴダック」、回転すしの「元気寿司」や「雪国まいたけ」があり、食品関連の総合企業を構築しているだけに、神明の「本気度」を疑う余地はないだろう。

神明グループの今後は、東京シティ青果が豊洲を拠点に成田、柏の千葉地域と輸出機能をどのように強化できるかが鍵となるだろう。
特に令和4年1月に開場を予定している成田新市場は、1万4千㎡の市場用地のうち、青果と水産の公設地方市場部分は15%である。残りは市場本体施設の中央に位置する高機能物流棟のほか、訪日観光客対応の集客棟(従来の賑わいゾーン)や輸出ビジネス支援拠点(成田フードバレー)、輸出専用商品の生産・開発を行う大型ハウス・ほ場(日本版グリーンポート)等が計画されている。

今まで全国各地の大手市場業者が「東京営業所」など市場外から首都圏をターゲットにしてきたが、神明の卸参入によって首都圏市場流通の再編は加速していくだろう。