(左)大谷忠代表取締役社長 / (右)大谷勉取締役会長
水戸市公設地方卸売市場(茨城県水戸市青柳町45)は、2027年度までに市場北側隣接地6万平方メートルを拡張し市場用地22万平方メートルとなる。水産、青果、花を扱い、年間取扱高800億円を超す地方市場のトップとして新たな躍進を目指す。
改正市場法によって中央市場と地方市場の垣根は実質上、無くなっている。
青果市場では長野県の民営市場「R&Cながの青果」を中核企業とするR&Cホールディングスが東京青果に次ぐ2100億円卸となるなど、中央と地方の規模的な違いもなくなりつつある。
水産市場は規模的には中央市場の優位性が続いているが、地方市場は規模と関わりなく独自の市場機能を活かすことで経営安定を維持している中堅卸が増えている。
多くの公設市場が用地縮小によるコンパクト市場となる中で、水戸市場は用地拡張によって物流機能を活かし、産地と消費地を結ぶ広域集散市場の機能を強化する。
全国魚市場連合会(全魚)会長でもある常洋水産の大谷勉会長と今年4月に社長に就任した大谷忠新社長を訪ね、インタビューした。(全水卸25年9月号より)

― 水戸市場は横浜市場と並び地元に立脚した市場として近年、今まで以上に内容が良くなっています。関東の水産市場は多くが厳しい状況ですが、水戸市場は常洋水産と茨城水産の卸2社ともに好調です。
大谷= 2025年3月期決算は売上高388億円、経常利益6億円 税引後当期利益3億円となりました。経営的には単価高に支えられたことや、太陽光発電、倉庫賃貸などの営業外収益が貢献している面もあり好決算となりましたが、水産資源の減少や気候変動など経営環境としては厳しい状況が続いています。
― 多くの公設市場は老朽化し、自治体の財政負担と業界の使用料負担のバランスのとれた再整備の財源に直面しています。水戸市場も老朽化していますが、公設市場としては珍しく業界独自に機能強化施設の整備を進めています。量販店向けの低温配送センターを建設されたのは随分前のことで、公設市場としては先駆的な取り組みとして評判になったことも記憶しています。今回、久しぶりに来ましたが、新しい施設が増えていますね。
大谷勉会長= 水戸市場は昭和47年の開設ですから50年以上過ぎています。開設者と協議し2018年度に策定した水戸市公設地方卸売市場再整備計画に基づきI 期、Ⅱ期に分けて取り組んでいます。
水戸市場の再整備の特徴は、以下の通り、既存の施設の維持は水戸市が行い、機能強化を図る施設は協議の上、業界主体で行うことでスピードアップを図ることが特徴です。特に事業協同組合をつくり建設した冷蔵庫と低温保管積込所が衛生管理の徹底でスーパー、買参人の信頼をいただいたことが大きな力になっています。公的な補助制度も活用して整備しています。
| 施設 | 面積(㎡) | 整備年 | 整備主体 |
| 水産棟 | 12,589.00 | 1971年 1976年 1988年 | 水戸市 |
| 冷蔵庫 | 3,648.93 | 1971年 1973年 | 事業者 |
| 水産低温買荷保管積込所 | 2,760.40 | 2001年 | 水戸市 |
| ①マグロ衛生管理施設 | 235.8 | 2003年 | 事業者 |
| ②マグロ衛生管理施設 | 228 | 2003年 | 事業者 |
| ③マグロ衛生管理施設 | 293.96 | 2003年 | 事業者 |
| 買荷積込所 | 640 | 2016年 | 事業者 |
| 花き棟 | 2,519.92 | 1981年 | 水戸市 |
| 第2買荷保管積込所 | 166.32 | 2005年 | 水戸市 |
| 第2倉庫 | 166.32 | 2005年 | 水戸市 |
― 青果棟の奥に6万平方メートルの拡張が決まりました。いろいろな施設整備が行われていますが、拡張用地についてはどのように活用されるのでしょうか。また業界負担と行政負担による概算事業費はどのようになっているのでしょうか。
大谷= 現在の市場用地は16万平方メートルですが、市は青果部の奥に約6万平方メートルを市場用地として確保しています。再整備のタネ地にもなりますが、どのように活用するかはこれから協議することになっています。拡張用地は青果部の奥ですし、水産部の冷蔵庫や配送センター等は卸売場と一体的に活用できるように整備されていますので、水産部を今の場所から移して整備ということは難しいと思います。概算事業費は22年の更新時の数字ですが、約60億円で内訳は以下のようになっています。
| 区 分 | 概算事業費(単位:百万円) | |
| 施設再整備費 | 工事費 | 4,561 |
| 市が事業主体となるもの | 2,961 | |
| 市場関係者が事業主体となるもの | 1,600 | |
| (うち助成金) | 400 | |
| 実施設計等委託費 | 206 | |
| 拡張用地関係事業費 (用地費・造成費) | 1,033 | |
| 事業調整費 | 200 | |
| 概算総事業費 | 6,000 | |
(財政計画)
| 区 分 | 概算額(単位:百万円) |
| 使用料 | 1,495 |
| 国庫支出金 | 737 |
| 地方債 | 1,981 |
| その他市財源 | 587 |
| その他 | 1,200 |
| 合計 | 6,000 |
― 水戸市場の活性化は何よりも物流機能を柱にした取り組みによってもたらされたものだと思います。常洋水産は水戸市場を拠点に、福島・栃木・埼玉・千葉・東京の一部にまで及ぶ広域配送ネットワークを確立されています。大谷会長は常洋水産のオーナーであり、32年間にわたってトップを続けてこられました。
大谷勉会長= 水戸は東京から100キロで、消費地市場と同時に産地市場的性格も持っています。こうした立地によって、常磐地域の拠点市場であると同時に首都圏の供給拠点としての役割も果たしています。常洋水産は開業以来、漁協と協力した朝どれ、産直を活かした地産地消の取り組みと「いかに首都圏へ短時間で配送できるか」の両面からの課題に取り組んできました。
― 水戸の立地を考えると、そうした経営戦略が出るのはある意味当然だと思うのですが、問題は課題としては分かっていても具体的な取り組みがなかなか進まないことです。
常洋水産は財務力が強い卸であることは知られていますが、社長がワンマンで引っ張ってきたというイメージはあまり感じません。どうして広域集散市場を目指すという経営戦略が出たのでしょうか。
大谷勉会長= もちろん、順調に進んだわけではありませえ。要因はいくつかあります。一つは道路網の整備が進んだことです。常磐自動車道と圏央道が全線開通したことによって東北方面や北関東、新潟方面、さらに成田空港方面など物流が効率化されました。ドライバー不足の問題はありますが24年問題は何とか対応できています。
もう一点は、茨城県はカスミをはじめ量販店、スーパーの進出が早く、川下の流通の変化に対応した温度管理と物流施設を整備しないと取引自体が難しくなることがはっきりしていました。市場全体の施設整備を待っていては間に合いません。そうした卸のスピード感を行政にも理解してもらい、従来施設と機能強化施設の整備を行政と業界が責任分担し整備を進めることができたことも活性化の大きな要因だと思います。
― もう一点、大谷会長は全国の水産地方市場の組織である「全国魚卸売市場連合会」会長もやられています。中央市場の卸は「全国水産卸協会」ですが、市場法も改正され中央市場と地方市場の法的な違いも無くなりつつあります。地方市場と中央市場別々に水産、青果の全国組織である必要もないかと思いますが。
大谷勉会長= 全魚は中川会長(キョクイチ)時代、秋葉原に全青協(青果地方市場卸の全国組織)と同じ事務局を置いていましたが令和5年9月、全青協は熊本大同青果、全魚は常洋水産、それぞれ会長卸が事務局を引き受けることになりました。
旧市場法時代は中央市場と地方市場は制度的に全く違っていましたが、今はそうした法的な違いはなくなりつつあります。しかし、地方市場は地域経済に細かく対応する市場が多く中央市場とは違う課題も多いと思っています。
しかし、国からも物効法や流適法など共通する政策が多く出されています。全水卸の吉田会長も昔からよく知っている方ですので、国への対応など共通する課題については協力できることを一緒にやっていきたいと思っています。
― 常洋水産の今日を築かれた大谷勉社長が今年4月、32年ぶりに大谷忠代表取締役社長にバトンタッチされました。今後の経営方針について新社長にお伺いします。
大谷忠社長= 会長の指導の下でこれまでやってきましたので、基本は変わりません。地元で生まれ育った企業ですから、茨城県水戸市公設地方卸売市場を拠点とし「地元市場×広域物流×環境経営」を経営戦略の基本として取り組んでいきます。
― 現在、物流総合効率化法や食料システム法など物流、働き方改革が国の政策として出されていますが、常洋水産としてどのように対応していくのでしょうか。
大谷忠社長= われわれの強みは物流の内製化です。会長が話されたように低温物流(コールドチェーン)をいち早く導入し、温度管理された物流センターや冷蔵車を活用することでスーパーや量販店の要求にも対応できる体制を整えています。高い鮮度と信頼性と評価を今後も続けることが営業面での最大の課題です。
― 働き方改革についてはいかがでしょうか。
大谷忠社長=当社従業員は356人(男220人、女136人)です。物流の内製化と言いましたが、具体的には低温管理の徹底、365日稼働、夜間配送等によるリードタイム短縮に取り組んでいますので人手はかかります。
― その取り組みにはコストがかかりますが?
大谷忠社長=中長期的な収益安定と自己資本の健全な運用は経営の基盤です。
安定的な収益を上げるために、当社は「水産物、水産加工品の卸売販売、一般加工食品・酒類・菓子類の卸売販売、営業用冷蔵庫経営、太陽光発電事業」の4つの事業に取り組んでいます。通常の営業利益に加えて、太陽光発電、倉庫賃貸、オリジナル芋焼酎、市場食堂など営業外収益も常洋水産としての収益に貢献しています。
―環境投資を事業としている卸売会社は珍しいと思いますが、どのような取り組みを行なっているのでしょうか。
大谷忠社長=平成25年から場内施設、倉庫、冷凍工場、ビル、空き地などの有効利用を目的として太陽光発電設備を設置し、再生可能エネルギーの固定価格買取制度に基づいた売電事業を開始しました。自家消費によって電力コストを25%以上削減できています。平成23年8月に「茨城エコ事業所」として登録され、格付け「AAA」の認定をいただきました。
この他にも照明は全てLEDとし、フォークリフトは全て電動化、社内整備体制も内製化すること等によって収益性は上がっています。今後も地球温暖化に対する長期的な視点を持ち、CO2削減や再エネ投資を重視していきます。環境投資は当社の利益体質を支える事業だと思っています。
― 今後の抱負について一言お願いします。
大谷忠社長=水産物は近年、気候変動等によって水揚げの不安定化が進んでいますし漁業者も減っています。水産物の流通を担う立場として、地元での魚食普及、地産地消の取り組みを強化していきたいと思っています。鮮魚に関しては、朝どれ・産直を活かしながら地元流通と連携し、ラジオでの入荷魚の情報発信や市場食堂の活用による魚食普及に取り組んでいます。茨城県下には多くの優良漁港があり近くには水揚げ日本一の銚子漁協もあります。夕せりへのシフトなど業界の構造的な課題にも直面していますので産地との信頼関係を重視しつつ4つの事業を柱に取り組んでいきたいと思っています。
― ありがとうございました

少子高齢化社会を迎え市場流通は激変している。
生鮮市場流通における法的なカテゴリーは、すでに実態に追い付かなくなっている。市場の種類(中央と地方)、取引ルール、扱い業種(水産・青果)、統計(鮮魚・冷凍・塩干加工品)卸・仲卸・買参の垣根等々、全てのカテゴリーが混在している。産地と消費を結ぶ中間流通も、垂直単線ルートからDX(デジタル・トランスフォーメーション)を軸として輻輳化している。
そうした中で卸売会社も大きな変化が生じた。
その一つは、大型卸が周辺卸を統合し同質の卸をつくることで規模を拡大した「卸の大型化」の流れが変化したことである。ホールディングス制度の導入等によって、資本の統合とグループ各社の経営の独自性を分けた「資本と経営の分離」が進みだした。その動きは、かつてマルハ系、ニッスイ系で全国の市場卸が色分けされた時代とは違い、東京や大阪などの単独卸が全国の市場を傘下にすることはないだろうと思う。
もう一つの特徴は、今回取材した常洋水産が典型だが、立地上の優位性を活かし温度管理された施設と物流を柱とする独自の営業戦略によって伸びた卸である。規模の戦いではなく機能の拡充によって生き残る企業戦略である。
地方市場の卸売会社だからこそ出来たのだろうとは思うが、旧市場法下の公設市場には法的な制約もあったはずの、スーパー向け低温配送センターを開設者も認め整備したことが躍進の土台となった。中央市場でも市場流通が物流中心になることはかなり前から分かっていたが自社の経営戦略の基幹機能として取り組むことは制度的にも難しかったのだろうと思う。
受託取引が大宗であった時代は、営業利益1%は卸売会社の夢であった。受託、相対が並列原則となり、手数料が自由化となったことで、卸の経営健全化指標は規模から機能になった。そうした流れの中で32年間、オーナー社長を務めた大谷会長の話を聞き、中央市場とは違う経営感覚に驚いた。
常洋水産の取り組みを聞き学んだことは次の点である。
新社長は41歳。改正市場法時代に入り、SWOT風に言えば、高齢化や労働力不足、水産資源減少等の社会的脅威をチャンスに切り替え、少子高齢化社会における企業のSDGsを担う新しい市場流通を構築してほしいと思った。