(「全水卸)25年3月号より転載)
令和 6 年は改正市場法の見直しの年である。昨年の流通適正化法、新農業基本法改正に続き、今年 4 月には物流総合効率化法が施行されるなど生鮮食品流通をめぐる法整備が急ピッチで進んでいる。生産・流通・消費を一体的にシステム管理することによって人口減・少子高齢化社会における食品流通を再構築しようとする国の施策の下で、市場流通はどのように対応すべきだろうか。
福岡市中央卸売市場鮮魚市場(通称:長浜鮮魚市場)は、九州最大の都市である福岡市博多の中心市街地、長浜地区にある。消費地市場であると同時に年間 7 万トンの水揚げがある産地市場でもある。
そうした全国的にも珍しい長浜鮮魚市場に昨年 11 月、卸売会社中心の市場業者による魚食普及推進施設「うおざ」がオープンした。全国初のケースである。
生産から消費までを長浜地区に構築し食の拠点を目指す取り組みは、卸売市場流通の新たなステージを拓くチャレンジとなるだろう。
10 年に及ぶ取り組みの中心となった(株)福岡魚市場の川端淳 社長に聞いた。
売上 | 424億9622万円(2023年度実績) |
子会社 | (株)フクショク 九州活魚センター(株) 福岡水産荷役(株) (株)フクカン エフ・オー・ティー(株) |
関連会社 | 福岡冷蔵(株) 福岡水産物取引精算(株) 他 |
―「うおざ」ができたと聞いた時、最初は豊洲と同じような、市場に隣接した商業施設と思いましたが、市場内にある福岡魚市場の土地に福岡魚市場が建設した施設であると聞き、ビックリしました。
お聞きしたいことはたくさんあるのですが、とりあえず「うおざ」についての質問は以下の点です。
川端= 長浜魚市場に集客施設をつくる計画は、もう 20 年ほど前になりますが、市長も入り卸、仲卸、放送局のプロジェクトとして取り組んだこともありました。挫折したままでしたが、10 年ほど前には市民の台所、柳橋連合市場から老朽化や駐車場問題等で長浜鮮魚市場の隣接地に移転したいという要望が出されました。
この時も実現しませんでしたが、魚の魅力を集客の目玉にした新施設を何とかできないかと福岡市から打診があり、市場業界としても検討したのですが、仲卸は取引先との関係で難しく、結局、卸売会社の福岡魚市場が 45%、福岡中央魚市場 40%、精算会社 15%の3社の出資によって「株式会社うおざ」(白木隆一社長)を設立し、うち(福岡魚市場)が持っていた土地にうち(福岡魚市場)が施設をつくりました。昨年 11 月9日にようやくオープン出来ました。
また、卸売会社の直営ということになりますと商業施設は趣旨にあいませんので市民に対する魚食普及に取り組むための施設という位置付けで「魚食普及推進施設」にしています。
― 魚食普及推進施設といっても、開設者が経営しているわけではありませんから、民間企業としての健全経営は求められます。感触はいかがでしたか?
川端= 2024 年 11 月9日にオープンし、12 月末までの 40 日間に 35,000 人の来客がありました。少し心配したのですが、インバウンド観光客はほとんどなく9割は福岡県民でした。年明け後も順調です。
「うおざ」のコンセプトは、市場直結の強みによる魚食普及を通した長浜ブランドの構築と市場活力の維持ですから、市民に受け入れられる自信にはなりました。
しかし、3ヶ月間の集客は良かったのですが、価格設定や運営面の負担が大きく、経営採算からは赤字です。大赤字です。
― 大赤字と言われますが、余裕ありそうですね?
川端= 開業までの体制が予定通りにはいかなかったこともありますので当初から黒字になるとは思っていませんでした。市民に受け入れられるように取り組むことが優先課題でしたから 3 年間はかけて経営面でも軌道に乗せていきたいと思っています。
福岡市も隣の旧冷蔵施設を活用した商業施設を作る計画ですし、鮮魚市場と福岡市が協力し長浜地区の活性化に取り組む体制は出来ていますので、鮮魚市場を中心とした長浜地区の賑わいを市場全体で目指していきたいと思っています。
― ありがとうございました。確かに私も見せていただきましたが、20 メートルあるカウンターに刺身や焼き魚が並ぶビュッフェスタイルと 120 席あるフードホール、コース料理がある会席場「海の国」、それに物販や SASHIMI DOJO(刺身道場)など盛りだくさんで、来る客にとっては魅力的ですが採算は厳しいだろうと思いました。
運営面の協力体制はこれから模索されるのですね。魚食普及推進施設を長浜鮮魚市場の機能の柱の一つにする取り組みは、豊洲市場や横浜南部市場を一歩進めた「中央市場と地域の共存」という市場流通の新しいステージをめざすものだと思います。期待しています。
― 次に福岡魚市場社長としてお聞きします。今期売り上げの概要と入荷魚種の変化については?
川端= 売上はまだ確定数値ではありませんが、トータルで 96.7%と若干落ちる見込みです。
買付は前年並み、委託鮮魚は天候不順で厳しい状況です。
鮮魚の売上は委託 93%、買付 100%です。一昨年は良かったのですが、昨年は中国の規制で 15 億円落ちました。福岡はイカ市場と言われるほどでしたが今は最盛期の3割です。産卵地が変わっているのだと思います。
アジ、サバ、トラフグはそれほど落ちていません。
アワビ・サザエも厳しいです。原因は高水温で 30 度を超えると海藻が根腐れを起こします。離島関係が軒並み落としています。食物連鎖がうまく機能しなくなってきていると思います。
川端= クロマグロの不正取引が報道されていますが、こちらはマグロ文化がないのでアワビ、サザエの密漁が問題です。
水産庁からも調査の依頼が福岡魚市場へ来ますが、市場としてはよく分かりません。
しかし、居酒屋でもこれどうしたの?というマグロがあるのは事実です。
懸念しているのは日本人でなくともプレジャーボートを持てるようになったことで、これが密漁などに利用されるのではないかと懸念する声も出ています。
ただ九州、福岡の良い点は、水産関係は中小企業が多いですから変なことをする人がいるとすぐに噂が立ちます。日常的に信頼関係に基づく取引先が多いので大きな問題にはならないと思いますが、それでも流適法違反になると市場全体が大きな打撃を受けますので会議等でも気をつけるよう話しています。
― 物流総合効率化法の対応や人材確保についてはいかがでしょうか?
川端= 福岡市の特徴は、人口密度が高くインフラも非常にコンパクトにまとまっていることです。
このため市内の物流は意外に効率化が進んでいます。また人材確保についても 2030 年以降も人口はほぼ横ばいですすむ見込みですので、居住外国人の増加も含めると他都市に比べると人材確保は難しくないと思います。それだけに市場流通はいっそう効率化を進めないと都市づくりの中で遅れてしまう危険性も強いと思っています。
特に長浜鮮魚市場は、福岡方式と言われますが出荷仲買方式があります。
この出荷仲買方式は、昔、ピーク時は 23 万トンあった博多港の荷揚げを、地元だけで出来ないので福岡市がつくった制度です。設立当初は市場内仲卸を上回る扱いがありましたが、今は7万トンです。それを唐津や松浦など周辺魚市場と競合しますので出荷仲買も半分以下に減っています。
他の中央市場とはこうした違いがありますので、具体的な取り組みはまだですが、卸と仲卸 33 社、出荷仲買の再編など、市場流通の再構築が必要になってくると思います。
― ありがとうございました。最後に川端社長が考える市場機能と施設整備のあり方、長浜鮮魚市場の未来像についてお話しください。
川端= 卸売市場は買出人がトラックで仕入れに来る前提でしたが、市場から店舗に配送することが主流になっています。だからこそ物流が重要な市場機能となっているのだと思いますが、私見ですが長浜鮮魚市場が物流センターの役割を果たすには立地条件からも無理があると思います。市場機能と施設整備は切り離して考えるべきではないでしょうか。
長浜鮮魚市場の将来を考えた時にどういう形にするか、長浜は中心市街地にありますし、天然魚が直接入る環境にあります。長浜で買えば明らかにコストも低く美味しい魚を仕入れることができます。それを長浜鮮魚市場の最大の魅力として打ち出していきたいと思います。
またそのために、市場でいろいろな形の長浜ブランドとして開発した数量を増やし福岡県民に提供していきたい。福岡魚市場として「うおざ」に取り組んだ目的もその一つですし、今後は仲卸さんと連携してそうした方向で長浜鮮魚市場の活性化を図っていきたいと思っています。
長浜鮮魚市場は、全国の中央市場でも際立った特徴を持つ卸売市場である。
九州の人口 1,300 万人の 4 割を占める福岡県の中心、福岡市博多地区にある消費地市場であると同時に、市場がある博多漁港は、年間7万トンの魚を水揚げする全国で 13 ある重要漁港「特定第三種漁港」でもある。
最盛期は年間 23 万トンの水揚げがあった大産地市場であると同時に九州一の中心市街地にある大消費地市場でもある。
長浜鮮魚市場は、産地市場と消費地市場のバランスが時代によって揺れてきた。
周知のように市場行政は、産地市場は水産庁、消費地市場は農水省の管掌とする縦割り行政が続いてきた。
しかしコロナ禍を契機に、食料自給率の向上と水産資源保護が国際的な課題となり、漁業法、流適法、物効法が相次ぎ改正された。水産行政も縦割り行政から農水省、経産省、国交省を横断する生産から消費までの流通一体管理へとシフトしている。
そうした時代に入り、長浜鮮魚市場もまた「産地市場と消費地市場機能を併せ持つ市場」ではなく、「年間7万トンの水産物の流通に責任を持つ大消費地市場」としての役割が求められているのである。
特定第三種漁港が中央市場となっているケースは他にない。それだけに長浜鮮魚市場が水産市場流通に果たす役割と責務は大きい。
今回取材した「うおざ」も極めて異例である。通常の市場賑わい施設として見るなら成功する可能性は少ないだろう。
しかし「うおざ」は、豊洲市場や横浜南部市場のように、市場の隣地に賑わい施設を併設し市場機能と共存するというケースではない。魚食普及を目的とした賑わいを市場機能の柱の一つとして踏み込んだ。初めから採算ベースを考えた施設であればオープンできなかっただろう。
福岡魚市場という突出した力を持つ卸が踏み切ったことで実現したことでもあるが、福岡市が打ち出した「水産を中心とした長浜地区再開発」を成功させることは、長浜鮮魚市場の SDGs にも関わる重要課題になるのではないだろうか。
市場施設整備において通常の賑わい施設は補助対象にならないが、地域で生きていく卸売市場となるためには不可欠の課題である。長浜鮮魚市場が取り組んだケースを全国に普及させるためにも、今年の改正市場法見直しにおいて支援対象の拡大を検討すべきではないだろうか。
川端社長と「うおざ」の白木隆一社長を取材した感想である。