(全青協25年4月号より転載)
青果市場卸の25年3月期は概ね好決算となりそうだ。
特に、八戸中央青果や山形丸勘市場、富良野市場、弘果など産地市場機能を持つ中堅卸売会社の健闘が目立つ。
農林水産省は生産コストを考慮した飲食料品等の価格形成に向け、令和7年3月7日に「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律及び卸売市場法の一部を改正する法律案」という長い名前の法律を閣議決定し、生産から消費までの流通を食料システムとして一体的にとらえた政策が打ち出されている。
少子高齢化社会の中で第一次産業の流通実態を調査し、流通の効率化と取引の適正化を目指す法整備がどのように実効性を持つだろうか。改正市場法が5年目を迎え、新たなステージに直面している市場流通を検証する。
今号は、社長就任一年目にして創業以来の増収増益となった八戸中央青果の春日慎一社長にインタビューした。
― 今期は青果市場全体が好決算になりそうです。まだ3月が終わっていない段階ですから正確な数字は出ないでしょうが、3月期の概況はいかがでしょうか?
春日= 今までのピークは2019年の255億円でしたので、売り上げとしては昭和52年に中央市場が開設され八戸中央青果としてスタートして以来の数字になりそうです。正確な売上や利益についてはまだ出せる段階ではありません。
― 決算の内容について詳しくお聞きすることは無理だと思います。昨年5月に、横町会長、春日社長、それに宮古専務の体制になりました。これまで横町社長のインパクトが強く、分権体制がうまくいくのかという失礼な思いもありましたが、創業以来の売り上げ更新とはびっくりしました。この一年、社長を経験されていかがでしたか?
春日=この市場も再整備が重要課題になっていますし、横町会長はずっと再整備についてやってこられましたので、私も専務として営業をやっていればよいという訳にはいかなくなりました。
営業の責任は宮古専務がやってくれていますので安心ですが、私は行政との話し合いや地元経済会とのお付き合いが増えました。卸の仕事は幅広いものだと改めて思っています。
― 青森は青森と八戸に中央市場があり、弘前にはリンゴに特化した弘果があります。青果だけで県内に三つの全国規模の広域流通拠点市場がある自治体は珍しい地域だと思います。中央市場の青果卸は75社ありますが、産地にある、いわゆる産地市場は多くありません。八戸中央市場は青果・花き、の二部門を持つ産地市場機能を持つ市場ということですが、わかりやすく言うと、どのような特徴を持つ市場なのですか?
春日=青森県の流通圏は、県北、県央、県南の三つに分かれていて、八戸は県南地域の流通拠点市場として開設されています。商圏としては岩手北部を含めて約60万人です。
売り上げの8割は野菜です。果実は2割でりんご中心です。野菜では根菜40%、土物18%を占めています。
入荷の6割は青森県内産です。ごぼう、ニンニクは全国シェア一位で、ごぼうと生産者がかぶる長芋も中心商材の一つになっています。数量的には大根が多く、他県からは北海道の馬鈴薯、玉ネギ、岩手はキャベツ、茨城はイモ類等です。
県南地域は比較的雪も少なく優良産地ですので産地機能を活かした卸売市場としての流通が我々の仕事だと思っています。
― 産地機能を持つ中央市場とは具体的にはどういうイメージでしょうか?
春日=前から横町会長が言われている言葉ですが、リトル農協を目指すということです。
生産者の高齢化は進んでいますので、JAとも協議しながら生産者の負担をなるべく軽減する取り組みを進めています。
例えば、ごぼう、長芋を土付きのままコンテナで買うことを考えています。
農家は、機械があれば収穫できますので、問題は洗浄やカット、選別作業です。これらの作業がないと生産者は助かりますし「それだったらやれる!」との声も聞いています。
個々の農家では無理でも市場に洗浄機を備えれば、ごぼうと長芋の生産農家は同じで収穫時期が違うだけですから集荷が倍になることも十分考えられます。選果はすでにやり始めていますが、今後はこうしたウイン・ウインの関係になるような支援策の取り組みを強化する方針です。
― JAと競合することはありませんか?
春日= JAもまた、人も機械も高齢化しています。全てをやれるわけではありませんし5年後10年後を考えるとこのままで良いわけがありません。農家が継続してできるようにお互いに考え取り組んでいます。そうした事業を十和田でも少しやりはじめていますが全国的にJAと協力した卸売市場と生産者の連携・支援が広がっていくのではないでしょうか。
― 人手不足に対応する方策としてはどのような取り組みをされていますか?
春日= 産地市場ですから「リトル農協」の取り組みは生産者支援ですし、今、横町会長が中心になって取り組んでいる施設整備もまたそうした取り組みの一つです。
詳しくは会長に聞いてもらいたいのですが、仲卸6社が使う冷蔵庫は昨年4月から稼働していますし、低温配送センターも計画中です。
八戸中央青果としては子会社含めて8社(運送、荷受、仲卸、カット野菜、パッケージ、農業生産法人、食堂)グループで業務を行っていますので、人力でなくともやれる業務は機械化し、取引のAI活用と働き方改革にも取り組んでいます。
今年は幸い4人の新卒が入ります。社員は97人ですから100人体制をキープし、時差出勤などの導入で残業を完全に無くす取り組みを行いつつ、AIの導入によって人力に頼らなくともよい部分を極力機械化していくよう取り組んでいます。
春日= 物流問題で最近困っているのが。東京以西の産地の荷が直接来なくなったことです。
東京経由の荷物は仙台で下ろして引取る形が多くなっていて、その場所代などの経費は向こうの言い値で請求された金額を八戸中央青果が払わざるを得なくなっています。産地から事前の話や相談はありません。今までになかった経費ですからコスト高に繋がっています。
― 知らなかったのですが八戸中央青果の役員には2代目、3代目も多いですね。7代目となる春日社長の父親も5代目社長ですね。社内の派閥争いなど起きませんか。
春日= 八戸中央青果は昭和7年に三戸郡農業会が発起人となり、近郷農家の有志と青果物業者の出資により、青森県で最初の青果市場として誕生した経緯がありますから、今も株主の2代目、3代目で働いている方も多いです。初代の畑内善一郎社長の子息も横町会長の子息もおられますし、宮古専務も農協にいたお兄さんの紹介で八戸青果に入社しています。関係者が多すぎますので派閥にはなりません(笑)。
― ありがとうございました。最後に一言、お願いします。
春日= 社員の名刺に「情熱市場」の言葉があるのはご存知でしょうが、これは「郷土を愛し、郷土のために働く」想いを表していて、卸売業だけでなく地域農業の振興と地域住民への安定供給という創業の理念です。
長く地域の食生活・食文化を支え続けてきた地域貢献の歴史や天災、人災の非常時にも公共的役割を果たしてきたという誇りなどが詰まった想いであり「情熱市場」は当社の社風を表す言葉です。
八戸中央青果は2032年に創業100周年を迎えます。90周年時は「感謝と反省と更なる努力」のスローガンを掲げました。100周年に向けてこれまで以上の努力をしていきたいと決意しています。どうぞよろしくお願いします。
横町社長時代の一昨年、総務省の地方公営企業アドバイザーとして通い、八戸の魅力は知っていた。朝5時から銭湯が営業しており、朝風呂に入って出勤する一般市民も多い。
本当なのか、温泉のあるホテルに泊まったが、朝5時半に起き出し寝静まっている静かな商店街をタオル片手に歩いて住宅街の銭湯に行った。開いていた。
気仙沼魚市場にも早朝から営業している風呂屋があるが、漁船員向けである。
築地市場の中にもあった。
温泉好きで、若い頃は自宅の入浴でも1時間から2時間は入っていた身としてはたまらない魅力である。八戸中央市場の隣には数百店が営業する全国的に有名な小売市場「八食センター」がある。魚市場は離れているが隣接するスーパーではイカ刺しやカサゴの唐揚げなど売り場で買って端にある食堂に入ると食べることができた。
八戸の観光案内をするつもりはない。八戸、青森、弘前の3拠点市場はいずれも地域に根付き、街づくりの重要な要素になっている。それが県内3ヶ所に大型集散市場が維持できている理由だろう。
卸売市場が担う公共性とは、こうした食を通した街づくりへの貢献であり、生産者支援=市場活性化=地域経済貢献となっていることを感じた。
卸売市場の衰退は日本経済の衰退に繋がっていたのではないか、第一次産業再生の取り組みは地域経済再生の道につながっており、その成果も出ているのではないか、
今回、春日社長のインタビューという形でまとめたが、八戸中央青果の横町会長、春日社長、宮古専務、三人の幹部に揃って取材できた感想である。