(全水卸25年01月号より転載)
改正市場法見直しの年でもある令和7年の市場流通はどのように変化するのだろうか。
物流機能は国が補助対象とする施設整備の必須要件となった。物流の24年問題はいっそう重要性を増すだろう。
また水産流通適正化法の改正も予定されており、マグロをはじめ産地市場と信頼関係に基づく適正な集荷が求められるようになる。産地市場と消費地市場の新たなSCM(サプライチェーンマネジメント)の構築も市場活性化の必須課題となるだろう。
昨年に引き続き今年も各地市場の変化と卸売会社の取り組みについて紹介していく。
改正市場法時代における卸売会社の変化と役割をテーマに、仙台市中央卸売市場(仙台市場)の本田誠仙台水産社長にインタビューした。
仙台水産は、ホールディングス機能を持つ仙台商産を柱とする機能別10社、仙台水産を柱とする卸、仲卸など販売14社、合計24社のグループ企業を擁しており、改正市場法の方向を先取りした垂直型機能卸として知られている。以下、本田社長の発言要旨である。
令和6年4月から9月の上半期は数量、金額とも前年比106.5%、計画通りに推移しています。
単価は昨年並みで数量が伸びています。
単価ではなく数量で売上増となったことは良かったのですが、昨年の上期は前期比100%でしたので、それを考えると大幅増ではありません。さらに去年は10―12月が110%でしたので、この1年社員が努力した通信簿としてどんな数字が出せるのか楽しみです。
鮮魚は商材別に言いますと、豊漁を受けてカツオ、サンマで取扱数量を伸ばすことができました。一方で県内産の商材は、ウニ、ホヤ81%、ホタテ、ギンサケ70%となり、カキも海水温上昇の影響で斃死が見られて大幅な減産となっています。ホヤは他産地からも集荷しています。
輸入商材では鮭鱒、筋子、冷凍魚、カニの相場が上昇、部門別では単価高もあり売上金額では冷凍部、塩干部が前年比111%と大幅増となりました。
全国的な特徴ですが、三陸においても魚種の変化が顕著になっています。
タチウオ、サワラ、イシダイ、アオリイカ、コウイカ、マダイなど、地元で馴染みのなかった暖流系の魚種が増加しています。
昔から本業そのものが魚食普及活動と積極的に取り組んでいますが、魚種の変化が想像を超えるスピードで起きている今、この取り組みは一層重要になっていると思います。
仙台市場にも地元で食べる習慣がない魚が毎日入荷しています。地元で水揚げされ入荷した魚は全て積極的に集荷しています。
まず、地産地消の活動で市民、県民の皆さんに知ってもらう。そのための対応策として、提案会やマスコミを読んでの旬の早朝プレゼン会(上期で10回)、テレビCM、番組料理、地元雑誌広告、インスタなどのSNS,小売店との共同販売促進企画等々、やれることは何でもやっています。お金もかかりますが、魚食普及は最も大事だと思います。
アワビ等の水産流通適正化法改正は主に産地市場の課題ですが、消費地市場の卸である我々にとっても重要な課題です。
特に今後適用されるマグロは主要商材ですし、様々なルートで入荷しますので、適正化法の遵守にはまず入荷の入り口での対応が重要になります。当たり前ですが法令に沿った取り扱いを行い、信頼できる出荷者と連携しなければなりません。
信頼できる出荷者であるかどうか、新規出荷者への厳格な調査はすでに行っています。アサリ・しじみ等も氏素性のはっきりしないものは扱わないこと、新規取引については担当者の判断ではなく、取引について社内ルールを決め組織的に判断しています。
東北6県の中央市場、地方市場の卸43社が参加した東北水産物卸売市場連合会(東北水連)は毎年一回集まり情報交換などの交流を行っています。
前期までは弊社が、今期は仙都魚類さんが東北水連会長となり、協力して東北水連として新しい取り組みを進めたいと考えています。
昨年は、アルプス処理水放出に伴う風評被害対応を東北地区連として初めて取り組みました。
仙台市場に仙台市郡市長始め行政の皆さん、東北水連会員各県卸の皆さんが集まり常磐三陸水産物応援キャンペーンを共同で開催しました。量販店や小売専門店も参加し東北全県の販売促進活動としても大きな効果を上げることができました。
また当社の提案会についても、東北水連の皆様にご案内、私も各市場卸で行っている提案会に訪問・企画等の確認を行いました。大変参考になることも多く、お互いのレベルアップにつながっていると思っています。
各県の市場は人口減少や物流の24年問題、漁獲の減少、小売店の競争激化など多種多様な課題を抱えています。地元で大切な魚食文化を伝える各地の水産卸が存続し元気でいるためにも、お互いに情報交換し、出来るところから事業の共有に向けた取り組みを進めていければと考えています。
仙台は東北地区の政治経済の中心です。仙台市場としても東北地区全体の拠点市場として、各県の市場流通活性化にどのような貢献ができるか、元気な消費地市場をどう目指すかが問われてくると思います。
まだまだ不十分ですが、部分的に取り組んでいる課題を含めた今後の東北における仙台市場の役割は次のような取り組みです。
物流の効率化は24年問題の解決のため避けて通れない課題ですし、仙台市場だけでなく他市場との連携の中でお客様が良くなる視点での商流も含めて物流の協働化、共同物流センター化、相互利用について考えるべき時が来ています。物流はもはや競争領域ではなく協働領域になっています。
またカミサリー機能は、小売店のバックヤード機能や飲食店・ホテル・施設などで提供する食材の一次加工を行うセントラルキッチン(中央厨房)の機能です。この需要は増えています。魚食普及の面からも重要であり、衛生的で安全安心な商材を提供する卸売市場として取り組んでいく方針です。
東北各県の卸売市場も老朽化した市場が多く再整備の計画が進められています。
仙台市場では行政と話し合い、3月までに基本計画を策定する予定です。
現在地再整備のため、15年先を見据えた市場機能を検討しています。
基本構想を踏まえた基本計画の検討では、卸売場、仲卸売場のハセップの基準に準拠した施設や配置など論議されています。
配送や冷蔵庫など機能重視の施設配置を目指しており、現在地再整備のためローリング方式による現在地再整備で工期は約10年です。全面完成は令和19年度(2037年度)予定で、事業費はかなりの額になるだろうと言われています。
これだけの大型投資ですと、当然、使用料の増加が見込まれ、現状でも水産部は約5億円の使用料を負担しており、事業費と使用料については課題が残っています。
具体的な課題は先に述べたとおりですが、今年は改正市場法の見直しの年です。
我が社としては基本的な方向は変わりません。地域内買参人に影響のない範囲での自由な流通を進めることができる機能をつくっていきたいと思っています。
委託手数料の見直しについて、新改正市場法施行後、手数料の自由化となり、委託手数料を値上げ変更したいくつかの市場では効果があったとお聞きしておりますので具体的な検討に入りたいと考えています。
水産流通適正化法も改正されますが、特にマグロは重要商材ですし、集荷の段階で法令違反等が起きると全社的な業務に支障が出ます。先ほどもお話しましたが、集荷についてもコンプライアンスに基づく産地・出荷者との信頼関係が重要になってきます。担当者レベルの判断にせず全社的な方針として共有していくことが大事になると思います。
我が社は「お客様第一主義」を掲げていますが、お客様とは「川上、出荷者、メーカー様から川下小売店、業務用各店、消費者まで」と定義しています。
そのビジネスモデルとして垂直型流通を指向し、特に量販店対策のための機能をグループで強化してきました。そうした先輩たちの努力で、24のグループ企業を有する今があるのですが、私たちはそうしたお客様満足の到達点をさらに高めていく責任を担っています。
地域社会の貢献は人作りと企業理念で唱えています。
毎朝、執行役員、部長以上でフィロソフィーの読み合わせをしています。社員全員にフィロソフィー本を配布し社内でも共有し、「考え方」や「利他の心」など多くのメンターがいる中でも、尊敬している稲盛和夫氏の教えを社員全員で共有して質・レベルを上げていきたいと考えてのことです。
これは「会社経営は一部の経営トップで行うものではなく、全従業員が関わって行うものだ」という考え方であり、強いグループ経営を推進する為、多くの経営者を輩出するために必要なことと考え継続しています。
経営者意識を持ったリーダーを社内で育成するとともに、全従業員が経営に参画する「全員参加経営」を目指しています。
グループ各社のシェアードサービスを今期から石森副社長が中心となり本格的に推進をしています。コスト削減ではなく業務の効率化や間接部門の品質向上、人材の育成が狙いです。
そのこともあり、生成AIが社会を変える、人間の叡智を超えるAGIまであと2~3年と言われています。ひとつはっきりしているのは生成AIによる社会の変化は食品業界にも大きな影響を与えると言うことです。
社員にはとにかく「習うより慣れろ」と言ってソフトバンクの孫さんのYouTube動画の視聴やChatGPT使用を奨励しています。まだまだ事業経営にどのように導入できるかは決めていませんが、業務の効率化だけでなくお客様提案力向上、商品の企画開発など可能性を模索している段階です。
仙台市場が明らかに変わりつつある。水産部の仙台水産と仙都魚類、青果部の仙台あおば青果ともに劇的に変わりつつある。仙台市場が変われば東北地区の市場流通もまた変わることは必然であり、東北が変われば全国市場流通の変革の波も起きるだろう。
仙台水産、仙都魚類の2社は、それぞれ独自の機能を拡充することで東北地区のネットワークを広げてきた。
関東や関西が基幹市場卸の支社グループによる流通が主であるのに対し、東北は各地に水産中央市場、地方市場43社が展開している。漁港も第三種基幹漁港が多く産地機能、消費地機能ともに全国有数の地域である。
それだけに仙台水産と仙都魚類2社の競争・競合が東北地区市場流通の発展の原動力であったが、経営陣が代わり改正市場法下で競争・競合から協力・協働の取り組みが増えている。
とりわけ仙台水産は24社のグループ企業を持ち垂直型機能卸として我が道を行く路線であったが、本田 誠・代表取締役社長、石森 克文・代表取締役副社長、硬軟二人の二刀流経営が新たな仙台水産をつくりつつある。今回、本田社長のお話を伺って改めてそれを強く感じた。
懸念材料があるとするなら、市場再整備である。
現在地のローリング工法は工期10年、事業費700〜800億円と言われている。
ゼネコンによる基本構想は、すでに廃止されている従来の全量上場・全量セリによる取扱基準を前提としている。他でも同じ方式で「適正規模」を算出し、用地の3割〜4割減としている公設市場は多いが、仙台市場水産部はこの基準でもほぼ現状規模となっている。
余剰地の活用が具体化されていないが、このままで工事に入ると、工事期間中だけでなく完成後も水産部は狭隘化が避けられないのではないか。そもそも15年後の施設を今、決める必要があるのだろうか。ある拠点市場で同じように10年単位の整備の公募を行ったが、10年間の事業費は算出できないとして応札企業が1社も無かったというケースも出ている。
改正市場法により取引の自由化と自己責任が明確になった。それでも市場施設は開設自治体の責任で整備されている。ソフトは規制緩和されたがハードは行政主体である。施設整備も業界主導で論議されるべきだと思う。
公設市場施設の見積もりは民間より最低3割は高いが、その分、行政補助があった。
しかし改正市場法になって民間も補助対象になった。事業費も3割安い。さらに施設は資産計上できる。民間責任部分と行政責任部分に分けるなど余剰地の考え方も変わりつつある。行政の財政支援は様々な方式がある。富山方式もその一種である。
こうした状況は再整備に直面している多くの中央市場に共通する課題である。
仙台市場でも今後、地方市場卸への出資や協働など市場間連携、中継地点としての活用等々、全量上場・全量せり時代とは違う整備事業計画があって然るべきではないだろうか。