2026年は卸売市場が新しいステージを迎えた年として長く市場史に残るだろう。
24年〜25年は食料・農業・農村基本法の改正、食料システム法など少子高齢化社会に対応し持続的な食品流通の確立を図る法案が相次いだ。
これまで生産や小売の産業ごとに拡大を目指してきた政策は、生産から流通、小売に至るサプライチェーンを一体的にシステム化する政策にシフトされた。この「持続的な食品流通の確立」に向け全国の、約1千の中央市場、地方市場の果たす社会的役割が明確になったのである。
卸売市場流通は社会の変化にどのように対応するのか、吉田猛 全水卸会長も参加し、2025年11月13日(木)・11月14日(金)に行われた第42回全国生鮮流通フォーラム(パーソナル情報システム主催・豊洲市場協会協力)を取材した。
(全水卸2026年1月号より転載)



「国内漁業の生産量はピーク時の1200万トンから400万トンを切るまでに減少しているが、近年の国内生産量は「劇的な減少」というほどではなく「微減」である。」
「日本の水産物供給は長らく「国内生産」と「輸入」の組み合わせで安定してきた。しかし輸入量は 1971年を境に輸出を上回り、その後長期的に増加したものの、近年は減少傾向に転じ、輸出量は増加傾向である。」
「特定の品目、特定の地域での水揚げ魚種の激変などによって供給構造が大きく変化しており、供給側の不確実性が高まり構造的に不安定化している。」
「供給安定性の面で、水産流通は今までの構造では対応しきれなくなっている。」
「流通チャネルは卸売市場だけでなく多様化しており、フードデリバリー、ECは成長の余地が大きいが生鮮の比率はまだ小さい。」
「この10年、スーパーは横ばい〜微減で推移しており、小売業界は構造転換期である。消費者は「価格」「利便性」「鮮度」のバランスを求め始めており、従来型スーパーだけでは顧客を維持できない状況が見えてきている。」
「ネット販売の全体市場は拡大しているが、“生鮮(食料)のEC比率”はまだ低い。しかし、①物流効率化②在庫管理の可視化③トレーサビリティ向上④リードタイム短縮に取り組むことで成長する余地は大きい。」
「市場流通には一定のルール(手数料、取扱品目、取引方法)があるが、これらは歴史的な背景で作られたものであり、現在の流通効率化(デジタル化・直接取引増加)とは必ずしも整合しない部分もある。」
「手数料は“必要悪”ではなく進化が必要である。単なる負担ではなく、市場が提供する鮮度保持の仕組みや価格形成、リスクヘッジ、情報提供などの対価として合理的であるが役割が変われば手数料の仕組みも再評価されるべきである。」
「市場流通と新チャネルは対立ではなく補完関係である。」
「流通チャネルの価値は「情報・物流・取引」3つの機能の質で決まる。」
パネルディスカッションは「水産市場の関東広域のあり方について」をテーマに以下の3氏によるディスカッションが行われた。個別のテーマについて、各氏からの発言要旨は以下の通りである。
築地魚市場株式会社 代表取締役会長(全水卸会長) 吉田 猛 氏
横浜丸魚株式会社 専務取締役 源波 秀樹 氏
常洋水産株式会社 会長(全魚会長) 大谷 勉 氏
① 豊洲市場は、築地時代の課題であった“低温管理不足”を徹底改善した市場である。
② この結果、温度管理された施設と物流の効率化が豊洲市場の最大の強みとなった。
③ とりわけ昼間の荷受けが可能になった事が豊洲市場における最大の革新点である。
④ 築地では深夜〜早朝に荷物が集中し、トラックの渋滞状態が常態化していたが、豊洲では13時〜14時台の荷受けが全体の約4割を占めるようになり、配送スケジュールの自由度が大きく上がった。
⑤ トラック待ち時間がほぼゼロという劇的改善が起きたことで、産地がまず豊洲に荷を下ろす中継機能も増えている。
⑥ また、豊洲は民間冷蔵倉庫とのネットワークが発達しており、全国規模の物流ハブ機能が整備された。
① 横浜市場は「横浜食文化の1丁目1番地」を存在意義としている。
② 神奈川県下には26の漁港と17の漁業協同組合がある。統合は進んでいるが、三崎、小田原以外は小さな組合が多い。
③ 相模湾は日本有数の豊かな漁場だが多獲性魚が少なく未利用魚も多い。
④ 小規模港には保管設備がないため価値が付かなかった小型魚を横浜市場が買上げ市場で加工・冷凍し市内340校へ学校給食として供給している。
⑤ この取り組みによって価値ゼロだった魚が漁業者に対し有償を生み出すことになり、地元資源を活用する漁業者×市場×行政のコラボとして議会でも高い評価を受けた。
① 水戸市場は東京から100キロで、大洗や那珂湊など大型漁港も近く、消費地市場だが産地市場的性格も持っている。
② 茨城県はカスミをはじめ量販店、スーパーの進出が早く、温度管理と物流施設がないと取引自体が難しく、水戸市は2001年に2,760㎡の低温買荷保管積込所を整備、業界も事業協同組合による冷蔵庫を整備した。
③ 地方市場は「地域特化型のエリアマーケット」が特徴である。豊洲とは異なる価値を持つ。地元飲食店、学校給食、小規模小売など地域住民に対する「顔の見える供給」を担っている。
① 2024年問題によって人件費や物流コストの上昇は避けられない。そのコストは結局、市場が吸収するか価格転嫁するかの二択しかない。
② DX改革については、特に東日本大震災後、産地市場ではDX化が進んでいる。DX化は、入札の効率化、人手不足解消、トレーサビリティ向上、事務作業削減に大きく寄与する。
③ 市場流通は今後、荷受システム、RFIDによる箱単位管理、AI需要予測などのデジタル化が課題となる。DX改革は人手不足時代の唯一の突破口になるだろう。
① 地方から横浜へのトラック直行便はゼロである。荷物はまず豊洲に集まり、そこから各市場へ横持ち輸送される構造が定着したことで輸送コスト負担が増えている。
② 物流の効率化とDX改革は不可欠の課題。
③ 地元漁協と連携し横浜市場が食と働く人を守る拠点となる事業に取り組んでいる。
④ 具体的には保管・加工機能を整備し、相模湾の豊富な水産資源を活かし、学校給食等に活用する「地元資源 × 市場 × 行政」に取り組んでいる。
① 水戸市場の活性化は物流機能を柱にした取り組みによってもたらされた。
② 常磐自動車道と圏央道が全線開通したことによって東北方面や北関東、新潟方面、さらに成田空港方面など物流が効率化された。常磐地域の拠点市場であると同時に首都圏の供給拠点としての役割も果たしている。
③ 市場取引に冷蔵・冷凍施設整備は不可欠である。
④ 水戸市場はパネル式冷蔵庫を導入した。1〜2億円で導入可能。
⑤水戸市場の施設整備は、従来施設を行政、機能強化施設を業界が中心となって整備を進め
た。これが活性化の大きな要因である。
① 冷凍魚の品質は生鮮に近づき冷凍=品質が劣るというイメージは大きく変わっている。
② 産地加工・市場内加工の価値が急上昇している。加工は、食品ロス削減、人手不足対応、小売バックヤード縮小、飲食店の仕込み簡素化等、多面的メリットを持つ。
③ 加工と冷凍技術の組み合わせは、水産流通の新しい標準となりつつある。
① 市場卸は利益率が低く、今後はコスト圧縮と加工等による利益創出が必須になる。
② 規模が小さな漁協は冷凍保管機能が不十分であり、横浜市場が漁協と連携することで未利用魚まで商品化できるようになった。
③ この取り組みは単なる商品化ではなく「市場を介した地域資源循環型モデル」であり、地域経済活性化に貢献できる。
④ 量販店も高齢化でバックヤード作業が困難になりつつある。市場が加工・保管機能を肩代わりする時代に入るだろう。
① 市場が末端に向けた提案力を持たなければ魚食文化は衰退する。
② 卸売会社は小売のバックヤード減少に対応し、魚惣菜加工・中食対応などの機能を市場内に取り込む必要がある。
③ 市内スーパー6店舗をアンテナショップとして魚惣菜コーナーを持ち販売している。
① 今後の市場流通は、広域物流+大規模保管機能を担う卸売市場と、加工・小ロット対応できる機能を柱にした地域密着型の卸売市場に分化するのではないか。
② 豊洲市場が温度管理と物流効率化によって産地からの集荷が増えている。豊洲は民間冷蔵倉庫とのネットワークも発達しており全国規模の物流ハブ機能を担っている。
③ 豊洲市場の中継機能等も含めた流通拠点としての機能を活かすため、仲卸と協力し地方市場とつなぐネットワーク構築が今後の課題となる。
① 横浜市場は地元の食を守り、働く人を守る「横浜食文化の1丁目1番地」である。
② 横浜本場、川崎北部、川崎南部、館山市場の4市場と加工、配送等の丸魚グループ企業が連携し産地と消費をつなぐサプライチェーンを確立していく。
③ 現在進めている神奈川県下漁協と連携した物流効率化と保管・加工機能を整備することで地域経済に貢献できる役割を果たしていく。
④ 市場祭りや料理講習など魚食普及の取り組みも重要課題として取り組む。
① 地方市場は「地域特化型のエリアマーケット」であり、中央市場と同じ手法では地方市場の卸売会社経営は維持できない。
② 中長期的な収益安定と自己資本の健全な運用を目指し卸売業を柱とした事業の多角化を進めていく。とりわけ太陽光発電等の環境事業を収益の柱としていく。
③ 卸としての提案力を強化するため市場食堂や市内スーパー6店の魚惣菜のアンテナショップも力を入れていく。
この生鮮流通フォーラムは二日間にわたって行われた。同時期に行われた各種集まりも盛会で、変革期での対応に取り組む業界の関心の高さを示すものとなった。
2020年の改正卸売市場法制定5年の総括がなされ、今年4月には食料システム法が全面施行となる。こうした卸売市場流通に対する関心が高くなりつつあるのは、様々な危機に瀕している第一次産業と卸売市場、小売の一体的な取り組みが、食料安保を担う中軸として卸売市場流通の活用がキーワードとなったことの反映でもあるだろう。
フォーラムの中で婁氏は、「供給側が構造的に不安定化しており、供給安定性の面で、水産流通は今までの構造では対応しきれなくなっている」と述べた。クロマグロの資源保護を主体とした水産流通適正化法による密漁防止、は生産段階における課題であるが、流通まで含めた対応でないと解決できなくなっているという国の問題意識による政策である。婁氏の提言通り卸売市場もまた変わることが求められている。
また、青果フォーラムにおいて発言したR&Cながの青果の堀陽介社長は、全国2位となった2千億円を超す売上について「我々は売上拡大を目的として統合しているのではなく青果卸売会社として持続できるために必要なことを取り組んできただけである。売上が全国何位であるかは問題ではない」と述べているが、これもまた「売上よりも持続的供給をめざす」経営戦略だろう。
フォーラムで興味深い論議となったのが、持続的供給を担う卸経営のあり方である。パネリストとなった3社はいずれも独自の経営戦略が際立っている。
豊洲市場内に大型冷蔵庫を持っているのは築地魚市場と中央魚類の2社のみである。吉田会長が述べたように豊洲市場は全体が温度管理された保冷施設であり、築地魚市場冷蔵庫は仲卸主体に利用されている。この強みは今後さらに大きくなることは明らかである。
横浜本場は「横浜食文化の1丁目1番地」としての位置が確立されている。
神奈川県は相模湾を有し、三崎、小田原の第3種漁港を含む26の漁港と17の漁業協同組合がある。
そうした立地を活かし、横浜丸魚は鮮魚を中心に県下漁協からの集荷に注力し小田原漁協の「追っかけ魚」や学校給食、未利用魚の活用に取り組んでいる。横浜丸魚が先駆的に取り組んだ小型サバを価値化した未利用魚の活用は、保管設備がない小規模港から買い上げ市場で加工冷凍し市内学校給食に供給する行政事業となっており、地元資源を市場と行政が共同で価値化した地域に貢献する事業は、卸売会社としての成功モデルとして学ぶべき点が多いのではないかと思う。
地方市場の卸として常洋水産は一つの到達点を示す典型事例である。水産物、水産加工品だけでなく、早くから「一般加工食品・酒類・菓子類の卸売販売、営業用冷蔵庫営、太陽光発電事業」の4つの事業に取り組み、とりわけ、太陽光発電を公設市場の施設を借りて卸の独自事業として取り組む事業の多角化は、手数料業者から差益業者への転換に迫られている多くの卸売会社の参考になるのではないだろうか。
印象深かったのは吉田猛 全水卸会長(築地魚市場会長)の発言である。
吉田会長は、築地から移転8年目を迎えた豊洲市場の変化について、立体化された温度管理施設によって集荷の24時間受け入れ体制ができた。物流の効率化によって産地からの転送も含め、とりあえず豊洲に送るケースが増えている。」と述べた。すでに関東周辺の水産卸の多くは「豊洲便」による集荷のウエイトが高くなっている。400億円卸である横浜丸魚ですら地方からの直送便はほぼ無いという。
しかしこれは、豊洲の卸7社の力が強いということではなく豊洲市場というハードが「水産物の持続的供給」を担う流通のインフラ機能を果たしているということだろう。「豊洲市場の活用」が周辺市場卸の課題であり、豊洲市場卸もまた仲卸機能を活かした市場としての対応を考えることが課題になっている。
築地時代は誰もが「豊洲で7社は無理、4社か3社になるだろう」と言っていた。事実、卸売会社事務所フロアは、7社がいつ5社になっても4社になっても大丈夫な設計である。開場当初、卸社長が「うちの事務所はどこだ」と迷ったほど画一的である。
しかし、豊洲市場の卸7社が減ることはないだろう。総合食品や東都水産が変わったように経営主体が変わっても卸7社体制は変わらないだろう。「豊洲市場」のハード・ソフトの価値は築地時代とは比較にならないほど上がっている。かつて「世界の築地」という言葉があった。これは単なるイメージコピーだが、豊洲市場は関東を主体とする広域流通の集散・中継拠点となることが確実になっている。
今回のフォーラムにおいて施設整備は主要なテーマにはならなかったが、大谷会長は「従来施設を行政が整備し、機能強化施設を業界が整備する責任分担によって整備を進めることができたことが活性化の大きな要因だと思う。」と述べた。
水戸市は現市場用地16万平方メートルに隣接した用地6万㎡をすでに取得しており、市場用地は実質22万㎡と中央市場規模となる。
水戸市場は、産地市場機能を持つ消費地市場であり関東全域を商圏にできる交通の要衝に位置している。その条件を活かし、常洋水産は物流を柱に広域流通と地元密着型経営で環境事業を大きな柱とするなど市場卸売会社としての安定経営を確立している。
「食料の持続的供給」は「市場業者の安定経営」が前提であり、公共性を維持できる要件でもある。常洋水産の経営は、地域市場がめざす改正市場法時代の一つの指標である。
横浜本場は横浜みなとみらい地区に面するという首都圏の中心に位置している。
少し前までは、将来的に移転せざるを得ないという見方が強かったが、横浜南部市場が廃場し、本場の補完機能となったことで現在地が確定、現在、青果部が三つの配送センターを増設し、水産も機能強化施設の検討に入っている。
名古屋本場、大阪本場、福岡鮮魚市場等の都市中心部に位置する卸売市場は、いずれも移転か現在地かの選択肢が検討されてきた。市場機能としては移転がベストいう見方が主流だが、横浜市場、福岡鮮魚市場が「現在地のままの市場独自機能」方針を明確にしたことで「改正市場法時代の卸売市場のあり方」の選択肢は広がったのではないだろうか。
フォーラムで発言した豊洲、横浜、水戸、3市場の取り組みは、そうした選択肢の三つの提案である。
全水卸会長でもある吉田・築地魚市場会長の発言にもあるように豊洲市場は新しい機能を備えた集出荷拠点となる方向は明らかである。こうした集出荷拠点機能は全国に広がるだろう。
青果市場の場合は、東京青果グループ、R&Cながの青果グループ、神明グループの、個別の卸売会社が主体となった再編が進んでおり、これに横浜本場に4月から稼働するセントライ青果と丸中青果、北九州青果のグループなど新たな再編の動きが出ている。
これに対し水産部は、個別の卸主体ではなく豊洲市場のようにハードとしての卸売市場が核となった機能再編と関西のように大水、うおいち、の拠点卸が主体となった市場機能の再編に分かれるのではないだろうか。
例えば北海道はハードとして札幌市場一択である。
北海道は地球温暖化の流れの中で水産資源の主流になるだろうが、道北などの小規模漁港は整備されているが、住民も生産者も減り、少ない生産者が獲っても運んでくれる運送会社がない。札幌は北海道のどの地からも8時間以内に届く。海に魚は増えても流通手段は未整備である。DX改革を柱にした札幌を拠点とする市場ネットワークが「食料の持続的供給システム」に向けた不可欠の課題となるだろう。
東北6県は仙台主体の再編が進むだろうし、農政局単位を軸にこうした市場再編の模索が進むことになるだろう。
水産卸売市場は中央市場34、地方市場500が全国に展開している。集出荷拠点市場を核とした市場ネットワークによって市場減少を最小限に抑えることが水産物の持続的供給を構築できる中心課題となるだろう。
昨秋に開かれた日本流通学会第39回全国大会は、東京都卸売市場審議会会長の木立真直中央大学教授が実行委員長となり「食の社会インフラとしての卸売業の存在価値」をテーマに開かれるなど研究者の間でも流通卸売業に対する関心が高まっている。
鈴木裕 卸売市場室長は「少子高齢化社会の下で迎える今後の市場流通は残念ながらバラ色の世界を築くことは難しい、厳しい時代の中でも国民に対する食品の持続的供給を維持することが使命となる」と述べたが、国の食料安保を担う役割はどんな時代においても第一義的な課題であり、卸売市場が不要になる時代は来ないだろう。
行政・業界の幹部や有識者の話を聞き、変化への対応を進めることが市場業界の使命なのだと改めて思った。