改正卸売市場法の下で、アフターコロナの食品流通におけるITを活用した非接触・非対面販売は定着するだろう。
その時に、「来てもらう取引」から「届ける取引」の場として、卸売市場がどのように変わるか、その一つの方向を示すケースとして、2022年3月1日に竣工した「豊海流通センター」がある。
豊海流通センター 東京都中央区豊海6 |
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建築主体 |
(株)豊海(伊藤晴彦社長) |
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資本金1千万円 中央魚類51%、ホウスイ9%、水産流通5%、豊海ロジHLD(中央運送、東発)35% |
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使用5社 |
水産流通、中央運送、東発、八面六臂、プレコエフユニット |
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敷地面積 |
11891㎡(延床面積6183㎡) |
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建設費 |
約40億円(躯体部分・内装除く) |
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鉄骨4階 |
1F 鮮魚・搬出入 フロアは5社が変動利用 |
2F 冷凍 水産流通と中央運送・東発 |
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3F 加工 八面六臂とプレコ |
4F 事務所・集会所・非常食備蓄室・フットサル遊び場 |
2022年3月期決算は大手水産、流通卸ともに好決算の見込みだが、伸びた要因の一つは冷蔵庫、加工、配送部門であり、冷蔵庫は保管型から加工・仕分け・配送も行うPC(プロセス)センターに変わりつつある。
市場流通の課題は「来てもらう取引」から「届ける取引」の場と変わり、その対応策としてEコマースと物流の取り組みが始まっている。
その取り組みは、一つは自社として取り組むケースと、もう一つはEコマース企業や物流企業とコラボするケースがある。
2022年3月1日竣工した豊海流通センターは、運送企業、Eコマース企業とコラボすることで新しい食品流通を目指すスタイルが鮮明になっている。
その特徴を羅列すると以下の通りである。
こうした特徴を見ると、豊海流通センターは卸売市場の補完機能を果たすということではなく、生産者・出荷者と小売・消費をつなぐ企業のコーディネートを図る3PL(サードパーティロジスティクス)企業としての役割が大きいだろうと思う。
それも単にコーディネートというソフト部門だけの事業ではなく40億円かけた物流施設を5社が共同でフレキシブルに使用し、業務用・通販を通して産地から消費者に至るSC(サプライチェーン)の最適化を図る手法(マネジメント)である。
運送企業は中央運送と東発、ともに築地市場の発展を支え続けた「卸売市場育ち」である。また八面六臂は総合食品の通販で大きく伸びた企業であり、プレコは水産をメインに青果、食肉の生鮮三品を日々配送することで成長している企業である。
豊海流通センターのキャパは年間400億円。経営採算ラインは300億円近くになるだろう。この目標を5社で達成するには施設の二回転が必要になる。その二回転を可能にしたのは5社の業態であり、それがフレキシブルな施設使用を可能にしている。
中央運送と東発の地方出荷は夜24時過ぎまで、水産流通グループの量販店等への出荷は午前6時頃までがピークで、その後に加工2社の出荷となる。
一部時間帯は重なるものの基本は重ならないため、フロアは大まかな区分けはあるが出荷時間に合わせたフレキシブルな使用となる。
面積割と売上高割使用料制度によって各社が一定の施設エリアに責任を持つ卸売市場では難しいシステムである。
5社が「豊海流通センター」という大きなバスに乗り込み、利用料金を払うことで共同運行する「バス方式」ともいうべきシステムが最大の特徴である。
利用する5社はいずれも大手だが、独自に配送施設を建設・使用するよりも、はるかにコストが下がることは明らかだろう。そうなると、大量輸送でなければコストが合わなかった小口配送がコスト的にも可能となってくる。
24年問題で人材確保も難しくなり、宅配の利用料金もコスト負担が大きくなる。豊洲市場や豊海冷蔵庫団地を活用できるなら、出荷者も輸送コストは確実に低減するだろうし、競合・ライバル関係にあったとしても「豊海流通センター」のような共用施設を活用するケースが増えるようになれば、マーケット開拓は飛躍的に広がるのではないだろうか。
コロナ禍の中で見果てぬ夢の実現を期待したいと思う。
豊海流通センター全景