(農林リサーチ23年2月号より)
改正市場法による大きな変化として、公設市場から民営市場への転換、廃止など、様々なケースを検証してきた。実践的にも中央市場と地方市場、公設市場と民設市場といった従来の卸売市場のカテゴリーそのものの垣根がなくなりつつある。
また卸売市場の機能も変化し「卸し売りをする場」だけではない機能特化型市場も増えている。
改正市場法とコロナ禍による大きな流れの中で、改めて検討されなければならない課題が開設者の役割変化である。
公設卸売市場は、電気や水道などと同じく昭和27年に制定された地域住民サービスのための、地方公営企業法の任意適用事業である。
公営事業が軌道に乗りだすと民間移譲となったのは周知の通りであるが、同じ公営事業ではあるが、卸売市場は直接的に地域住民を受益者とする住民サービスではない。
もともと、食品流通は物々交換の時代から生産者と消費者を結ぶサプライチェーンの歴史である。一日市、二日市、三日市など「市が開かれる日」が今も地名として全国に残っている。
こうした「食品流通の場」としての市場は、信長の楽市楽座や戦争による統制経済時代を除くと「民・民の取引の場」であることは当然である。
このような歴史を持つ「市場」に、国は大正12年に中央市場法を制定し直接介入を行った。
これは富山の米騒動が全国に波及することを阻止し、日本経済勃興期に都市部の人口膨張に対応する食料供給を担う目的があったと言われており、社会的、政治的色彩の濃い政策であった。
そうした卸売市場法の目的であった「食料の安定供給を図る」目的は達成し、卸売市場の取扱高は日本経済の成長とともに増えたが、行政が業界取引を管理規制する必要性は薄れることになった。しかし、電気や鉄道、水道など次々に民営化される中で、なぜか任意適用である「卸売市場事業」の民営化は進んでいない。
電気や水道は巨額の投資を国が行い軌道に乗ると民営化する方針だが、卸売市場は元々民間がやっていた事業を法律によって寄せ集めて始めた公営事業である。得られた成果は大きいが、軌道に乗ったから民営化とはいかない。国鉄とは違うのである。
旧卸売市場法における「卸売市場」のカテゴリーは以下のようになっている。
法律上の区分 |
中央卸売市場 |
地方卸売市場 |
その他市場 |
開設形態上の区分 |
公設 |
公設、準公設、民設 |
民設 |
|
中央市場は全て公設 |
地方市場は公設、民設ともにある |
市場法の要件を満たしていない市場 |
前項でみたように、公設卸売市場は行政による民間企業の取引規制・管理が目的であったから「開設=管理運営」がセットであった。公設の場合は開設自治体が運営する「公設公営」であり、民間が開設した卸売市場は「民設民営」であることが当然の前提であった。旧卸売市場法が想定するカテゴリーに「公設民営」はなかったのである。
市場関係者の間では、「公設と民営」という表現がされる。なぜ「公設と民設」でないのか。
この「設」は、建設の「設」ではない。自治体が土地・施設を所有するから「公設」ではなく「市場業者を管理運営するための市場施設の設置者」である。
民営企業の場合は「民間が運営する市場」である。しかし、市場法の目的である市場取引の管理指導としての役割を果たしている「開設者」は少ない。
愛知の豊明花き市場や熊本田崎市場などごく限られた市場のみである。ほとんどの場合は卸売会社の管理部、総務部が担当している。
「公設公営」のカテゴリーが揺らぎ始めた要因がPFI(民間活力導入)である。
PFIを日本語にすると「民間資金導入」である。この言葉が示しているように、本来、PFIは公共施設の建設に民間資金を導入させることが目的であり、民間事業に公的資金を投入する「第3セクター」の逆パターンである。
第3セクターは公的資金の投入だがPFIは民間資金の導入である。税金ではないから民間企業はメリットがなければ資金投入はしない。
その「民間のメリット」が問題で、イギリスから移入された初期は、PFI資金の回収に数十年かかり損はしないが回収に時間がかかりすぎることがネックとなり進まなかった。
このため、市場施設の建設だけでなく完成後の施設管理、さらに本来、開設自治体が担っていた市場の運営までPFI事業者に委託できるように法改正がなされた。
指定管理者も初期PFIと同じで自治体に代わって使用料の収入や施設の維持管理を行う補助的な役割に限定されていたが、これも改正された。
さらに改正市場法も追い風となり公設市場を「民間の事業経営体」とできる可能性が一気に広がったのである。
改正市場法は許認可制度から認定制度へと法の根幹を転換させた。
卸売市場の中心である「中央市場」は、農林水産大臣の「許可」が要件であり、開設者は都道府県、人口20万人以上の地方自治体、一部事務組合に限定されていた。中央卸売市場が全て公設であるのはこのためである。
この市場制度を改正市場法は許認可制から認定制へと変え、卸売業者も許可ではなく開設者からの認定申請に中に記載されていて一定の要件を満たしていれば良いことになった。
施設規模も今までは一定規模以上がなければ地方市場としても認めないという方針であったが、改正市場法は、卸売行為を行う場であれば地方市場の規模は問わず、今まで規定がなかった中央市場が、民間企業も開設者となることができるようになったため、一定の規模要件を規定している。
改正市場法による中央市場と地方市場の主な違いは以下の通りである。
改正市場法による中央市場と地方市場の主な違い |
||
|
中央卸売市場 |
地方卸売市場 |
認定 |
農林水産大臣 |
都道府県知事 |
取引 |
受託拒否の禁止 |
規定なし |
施設規模 |
卸売場、仲卸売場、倉庫・冷蔵庫の合計規模が一定規模以上 青果、水産 10,000㎡ 食肉、花き、他 1,500㎡ |
規定なし |
卸売市場としての条件がこれだけ変わると、従来の公設公営、民設民営といったカテゴリーはもはや通用しなくなるだろう。
例えば、まだ実際にはないが、民間企業が開設した中央卸売市場は「民設民営中央卸売市場」と言って良いのだろうか。従来の市場カテゴリーが通用しなくなることは明らかである。
また特に「公設公営市場」は、PFIや指定管理者の権限拡大によって開設自治体からの一部業務の委託と言った範囲を超え、市場活性化の責任を負う立場になりつつある。
以下、現状及び将来的な流れとして、卸売市場の開設運営がどのように変化するか、市場カテゴリーの一つの考え方として以下のようなタイプが考えられるだろう。
開設者の権限・義務が強かった時代は「開設=管理運営」であったが、市場の開設と管理運営が分離されるようになり、公設は必ずしも公営とは言えなくなっている。
こうした視点で卸売市場を分類すると次のようなカテゴリーとなるのではないだろうか。
中央・地方、公設・民設に関わりなく今後も市場数はまだ減るだろう。しかし市場数の減少は必ずしも市場流通の衰退ではなく再編である。時代が変われば市場の役割も変わる。市場数の減少も時代の変化である。
今後の市場流通はコンパクト化と公有民営による再整備とコロナ禍を契機に卸売市場の重要な機能となった食の分野におけるインフラ機能、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献を軸に再編が続くだろう。