「全青協」21年02月号より転載、「上」の続き
旧卸売市場法の基準で考えると「卸売市場」と言えないかもしれないが、改正卸売市場法がイメージする「機能優先の卸売市場」のイメージを鮮明に具現化した市場が、成田新市場である。
公設市場の移転、建設事業費の増加、新たな輸出入業者の募集、空港との利便性など様々な問題で当初計画より大幅に遅れたが、ようやく来年度、2021年度の完成、開業に目処がついた。施設は今年中に完成し、開業は来年1月の予定である。
インバウンド景気のピーク時に計画され、コロナ禍の下で完成する結果となったが、開場の遅れが結果的には「ポストコロナ」の受け皿としての役割を担うことになった。
前述したように、コロナ禍によって食料安全保障は国内生産と輸出機能の強化が課題となっており、インバウンド・訪日観光客への対応は当面、ほとんど考える必要がなくなったことから、成田市場は輸出機能に特化した施設となる。
市場概要は簡単に紹介するだけに留めるが、ここで取りあげたいのが「機能優先の卸売市場」を目指す施設配置である。
「機能優先の卸売市場」を最も象徴しているのが高機能物流棟である。
市場本体施設の中央に高機能物流棟があり、左右に水産と青果の卸売場が配置されている。
さらに民設ゾーンには、最も厳しい状況になるだろうと思われるが従来の関連棟や訪日観光客対応の集客棟(従来の賑わいゾーン)の他に、①輸出ビジネス支援拠点(成田フードバレー)、輸出専用商品の生産・開発を行う大型ハウス・ほ場(日本版グリーンポート)、海外バイヤーなど市場関係者が常駐するエリア等が計画されている。
繰り返しになるが、改正市場法が求める施設整備は物流・情報・温度管理・輸出入・関連機能である。1日に入場する買出人の規模に合わせた駐車場や関連業種、また卸売業者や仲卸業者の数・取扱高に合わせた施設規模は基準になっていない。
成田新市場は、こうした機能を中心に施設配置がされ、従来の「公設地方卸売市場」部分は全体の約15%、1万4千㎡である。
多くの卸売市場は輸出がメインではなく、成田新市場が改正市場法の考え方を具現化したモデル市場とはならないが、成田新市場のコンセプトは改正市場法に基づく市場施設整備の典型である。それは以下の理由である。
① 従来の卸売場中心ではなく、物流棟(ここは冷蔵・保管・加工・配送機能がある)を真ん中に据えている。入荷は三か所別々となる。機能的には水産、青果の卸売場は「卸売」機能よりも保管・配送機能が主になるだろう。
② 独立した冷蔵庫はなく、高機能物流棟の中に整備される。冷蔵庫は補完型から加工・配送機能を備えたPCセンター型になりつつあるが、成田新市場は冷蔵庫も本体機能の一部として整備される。
③ 改正市場法の「関連機能」部分も民設であり、本体の「高機能物流棟」の補完機能を担うことになる。
④ 今まで何度か取り上げてきたプロポーザル型やサウンディング型などで検討される「余剰地」の使い方の一つが、この民設ゾーンである。「余剰地」ではなく市場法適用外の「付帯事業用地」であり民間企業の判断とコスト負担で整備される。
コロナ後(After Corona)となるか、あるいはコロナとの共存(With Corona)となるかは不明だが、菅首相は1月の通常国会施政方針演説において今後の政策の柱としてグリーン(環境)とデジタル(IT)をあげた。
デジタル化については菅政権が誕生した2020年9月よりも前に「ソサイエティ5.0」を策定、デジタル化に向けて取り組まれている。食品流通、市場流通においてもすでにいくつもの先進事例が生まれており、今年9月にはデジタル庁設立も予定されている。
コロナの収束や政局によって予定通りに進むか不透明な部分もあるが、食品流通分野における政策の柱がデジタル化である以上、市場流通における取引や施設整備もまた、デジタル化の方向で具体化することが求められてくるだろう。
成田新市場は、輸出に特化した「国策」の地方市場だが、今後の中央市場のあり方についても多くの示唆を与えている。
施設概要で見たように「公設卸売市場エリア」は、9万3千㎡の市場用地のうち2割以下であり8割以上が民間主体の「輸出関連事業施設」である。
これは成田新市場だけの特殊なケースではなく、多くの卸売市場で検討されているプロポーザル、サウンディング型の施設整備計画における「余剰地」と同じ考え方ではないだろうか。
「余剰地」の設定は、「取扱高に見合った施設規模以外の部分」ではなく、改正市場法で出された5つの機能を、行政責任で整備する部分と、業界負担で整備する機能の部分をどうするかによって決まるものであり、成田市場はその一つのケースである。
今、取り組まれている中央、地方公設市場ともに、業界が主体となり異業種を含めた市場外企業と連携した市場再整備に対応することが必要となるだろう。