(全水卸2024年11月号より転載)
― 横浜魚類は本場、南部、川崎北部の3市場に展開されています。どのように3市場間の連携を行っているのでしょうか。
従業員中心の三市場合同会議
松尾=3市場の合同会議を月1回やっています。従業員中心で役員はオブザーバー出席です。その中での意見を本社で取り上げるようにしています。
例えば、休みが取りにくいという意見が多かったために連休を消化し5連休とした場合に 3万円の報奨金を支払うことにしました。令和6年8月で3人います。
また取引面でも荷主の共通化が図られるというメリットも出ています。
川崎北部の荷主さんが本場や南部のことを聞いてウチも横浜に送りたいという話があったことがこの会議で出されるなど、お互いのプラスになっています。
― 経営改善が軌道に乗ってきたことで気になる点があるのですが、横浜魚類は経営が厳しくなった時期に ベースアップ等の労働条件を抑えてきました。従業員も頑張ろうという気持ちでいたことは私も知っていますが、経営が改善されれば労働条件も改善するというお話もあったはずですが?
松尾=長年、給与面でもベースアップを抑えてきましたが、昨年、今年と2年連続して基本給を1万円ずつ上げています。基本給が2万円上がりましたので残業代や賞与も増えています。
コストダウンは経営立て直しの中でいろいろ取り組み、効果も上がっているのですが人件費は総額としては減っていません。
まだ十分ではないと思いますが、3市場間の会議で決めた5連休手当もそうですが従業員からも頑張れば良くなるのだという愛社精神が出てきていると思います。
― ありがとうございます。最後に社長として今後の抱負をお聞かせください。
松尾=実は私自身が数年前に脳出血で動けなくなり、一時はこのまま辞めざるを得ないのではないかと思いました。
ですから、実はお話しした経営改善に取り組んだ最後の数年間、私はお役に立っていませんでした。
幸い営業の仲間をはじめ周りの支援で治療に専念でき、復帰することができました。
石井社長からは何回も戻って来いというお話しがあり、柏原取締役からも励まされ、任ではないと思いましたが今回、社長に就任させていただきました。
私自身が助けられてここまできたのですから、社員一人一人を大事にした良い会社にしていきたい。その思いを今、最も強く感じています。
幸い、石井前社長には今もさまざまに助けていただいていますし他の役員の方々からもサポートをいただき、私一人の力は限られていますが、少しでもお役に立つことができるのではないか、魚を大事に売り、社員を大事にする会社にしていきたい。それが私の使命だと思うようになりました。
令和6年11月に60歳を迎えました。これからもどうぞよろしくお願い致します。
取材を終えて
横浜魚類の経営がどうなるか、40年以上前から取材していただけに個人的にも関心を持っていた。その理由は次の点である。
①中央市場の青果卸は統合し1社となるケースが多いが、水産部はニッスイ系、マルハ系に分かれた2社体制が多く、規模も多少は違うが競い合う規模であるケースが多い。
ところが横浜中央市場の場合は、卸2社の経営規模が違いすぎ、横浜丸魚が売上 400 億円、総資産 229 億円と全国屈指の財務内容であるのに対し、横浜魚類は売上 200 億円、総資産は56億円である。売上規模が違う以上に財務内容が違いすぎる中で、横浜魚類は加工・物流を重視した営業戦略をとった。
②早くも昭和49年に加工・物流機能を担う横浜食品サービスを設立している。50年代の高度経済成長期に 中央市場がどんどん手数料業者として売上を拡大していた時期である。昭和46年に制定されたばかりの卸売市場法の方針とは異なる経営戦略に取り組み、結果として失敗した。
その失敗した方針は、改正市場法の方針である「温度管理された物流と情報」をキーワードと位置付けた方針そのものであった。早すぎたのである。
失敗の経験を活かしたペスカI、ペスカII
③そうした経験が活きてきた。加工・物流機能を担う大型加工配送センターぺスカI、ぺスカIIとして横浜南部市場内に整備している。しかも横浜南部市場17万㎡が全て卸売市場を廃場した本場の補完機能となったのである。
賑わいゾーン5万㎡を除く12万㎡が青果部卸「横浜丸中青果」と水産部卸「横浜魚類」の 2社が民間のエリアとして自由に使えるのである。12万㎡を単純に青果と水産で二分しても6万㎡である。 全国の中央市場で、1 社で市場外に6万㎡の用地に加工物流施設を持つ卸がどこにあるだろうか。
さらに南部市場は卸売市場ではないため、「仲卸ではない仲卸」が市場内に20社あり、横浜魚類と協働し営業展開を行なっている。改正市場法によるどんな実証事業よりも意義のある改正市場法の実践である。
伸びる以外の選択肢はない
「天の時、地の利、人の和」の言葉は陳腐かもしれないが、SWOT分析風に言えば、食生活の変化と改正市場法による物流・加工機能重視の方針という社会的追い風がある。
コロナ禍を契機に東京からの転入が増えた神奈川県において、県中央にある横浜本場、県南部にある横浜南部、東京に接し東名高速に近い川崎北部の3市場に展開する地の利もある。
そして最も重要であり最も弱点であった「人財」が経営改善によって育ちつつある。
もともと南部市場は本場に統合する方針であったが、客層が違い配送中心の営業だった 20 数社の仲卸を本場に一本化することは物理的に無理があった。
移すもならず残すもならず、ある意味、苦肉の策として卸売市場を廃場して物流と賑わいの市場機能補完 の役割を選択せざるを得なかったのである。
これが改正市場法制定後であったら、卸売市場として維持する 途もあったのではないかと思うが、改正前であったことが横浜魚類にとっては幸となった。
自分の意思や努力では如何ともし難い課題解決策を「横浜南部市場を廃場し6万㎡を物流補完機能施設としなさい」と開設自治体が横浜魚類の鼻の先にぶら下げた。
本場を取引の中心、南部を加工物流機能中心、川崎北部を広域流通の拠点として展開できるようになったのである。
底は脱したが今も底
しかし有利な条件は活かせなければ重荷となるだけである。 横浜魚類はチャンスを活かし底から脱した。底は脱したが今も底である。多少の凹凸はあっても伸び続けるだろう。
辿り着いた地歩を、石井社長が松尾社長に委ねたタイミングもさすがだと思う。会長として留まらず、社外からのアドバイザーとして役割を果たす石井前社長や柏原取締役など強面先輩の支援を受けながら、ゆっくりと経営改善に取り組んでほしい。そうした役割に松尾社長はピッタリではないだろうか。
取材を終えた感想である。