(全水卸2024年11月号より転載)
横浜魚類は令和6年3月期決算で1.8億円の経常利益を計上した。コロナ禍の下で5年連続の黒字となり、経営改善が軌道に乗った。
令和6年6月、18年続いた石井社長の後任として松尾英俊社長が就任、長い経営危機を 脱し第90期にして新生横浜魚類のスタートとなった。
横浜魚類の歴史もまた、時代の変化の中で卸売会社のあり方を模索し改正市場法の方向性を先取りした一つの事例である。松尾英俊社長にお話を伺った。
5年連続の黒字に
― 市場流通は生鮮の素材流通から現在、加工を含む食品流通全体にシフトしつつあります。横浜魚類は昔から加工に力を入れ、場内流通だけでなく幅広い販売戦略をとられてきました。早すぎたための失敗もあり、長い低迷期に入っていましたが、昨年、今年と経常黒字となり、経営改善が軌道に乗りはじめた追い風の中で社長に就任されました。
新社長のインタビュー早々に失礼ですが、長く御社を取材していますが、横浜魚類が 1 億を超す経常利益をあげた記憶がありません。10 数年、いや数十年ぶりになるのではないでしょうか。
松尾=そうですね。令和5年3月期も7900万円の経常利益でしたので6年3月期は経常利益1億を超すことを目指していました。1.8億円の経常利益は数十年ぶりになるでしょうね。
コロナ禍の中てで5年連続の黒字をキープできましたが、厳しい年が続きました。
令和4年4月から東京証券取引所の市場区分見直しに伴い、東京証券取引所スタンダード市場に上場しましたが、この改正で令和4年度決算から受託を含む帳合部分を売上からカットしたことで数字上は100億円以上の売上減少となりました。
見た目ほど売り上げが減ったわけではないのですが、やはり苦しく、単体として200億円を切りましたが経常利益1600万円とかろうじて黒字を維持しました。
その翌年の令和5年3月期決算は7900万円、令和6年3月期は1億8千万と大幅な増益となっています。令和6年四半期(4-6月)も順調に売上、利益ともに推移しています。
社員のレベル向上
― 5年連続の黒字となった経営改善の要因は?
松尾=コロナ禍における内需効果などもありましたが、石井前社長の長年のご指導があって初めてここまで来ることができました。経営改善が軌道に乗りつつある中で、社員一人一人の能力、レベルが上がったと感じています。
― どのようにレベルが上がったのでしょうか?
松尾=私は営業の責任者をやらせて頂いたので特に感じるのですが、営業のメンバーがコストを意識して取 引をするようになっています。売ることだけが営業の仕事ではなく利益の取れる取引をしなければならないという、レベルというか能力が上がっていると感じています。
― 横浜魚類の経営が苦しくなったきっかけは、横浜南部市場近くに建設した刺身加工など高品質の加工場だと思いますが、経営改善ができた原因も横浜南部市場に建設された加工場「ぺスカメルカードII(通称ぺスカ・南部配送センター)」の貢献が大きかったのでしょうか。
加工物流中心の営業展開
松尾=当時の状況は、私は詳しく知らないのですが、石井前社長や柏原取締役が一番苦労された課題だとお聞きしています。「良いものを作れば必ず売れる」という理念先行の投資が裏目に出たのですが、しかし、この失敗によって2か所で営業していたグループ企業の横浜食品サービスが南部市場の中に一本化され、平成28年に横浜南部市場内に低温加工物流施設(名称:南部ペスカメルカード)を新設しました。このペスカが、その後の横浜魚類の営業促進の中心的な柱となりました。
南部市場の民営化とぺスカII建設
― 横浜南部市場は廃場となりましたが横浜魚類は残る選択をされました。
松尾=平成27年4月1日(2015年)に横浜南部市場が廃場となり、本場の物流加工部門の補完機能を担うことになりました。
南部市場は買出し人が多く仲卸も 20 社以上あります。廃場となったからといってどうするのか、経営的には厳しいですが、仲卸さんとも話し残ることを決断しました。
施設面でも1社となったため、活用しなければ民営市場としての機能が活かせません。 その主力となったのが加工物流機能を担うペスカです。本場は小売・業務用主体の顧客が多く立地的にも加工・配送機能は不足していましたので、南部市場を主体に加工・配送に取り組んできました。 その取り組みの中で、入荷した魚をそのまま売るだけでは量販・スーパーに販売を開拓することは難しく なってきました。
そうした要望も多くなり、ペスカを活用し加工に重点をおいて取り組み、ペスカIでは 間に合わなくなったため令和5年2月にペスカIIを建設しました。
― ペスカIは食品サービスが、ペスカIIは横浜魚類が運営されているのですか?
松尾=加工を直接行うことは難しいことは知っていましたので、我々は躯体部分を整備し、原料を委託加工 してもらい、製品化されたものを当社が販売するというスタンスをとっています。
まだ 1 年ですが、初年度は30 億円になりました。ペスカIが約50億円ですから、当社の売り上げは南部市場の方が多いことになります。
本場中心の3市場機能連携
― 横浜魚類としては南部市場中心の営業ということでしょうか?
松尾=もちろん利益面で言えば本場が高いですし、本場主力です。 横浜魚類は集荷が強く荷主さんとの関係も深いので本社を中心として本場、南部、川崎北部それぞれの市 場の特性に合わせて取り組んでいます。 南部市場で言えば、ペスカI、ペスカIIがありますし、南部の事業者さんと連携して南部の事業者さんの 営業力が十分に発揮できるよう集荷に全力を集中していきます。
― 南部市場でもう一点、お聞きしたいのは賑わいエリアとの関連です。物流エリアと賑わいエリアは消費者が行き来できないようになっていますね。
松尾=南部市場は、本場を補完する「物流エリア」(約 12.2 万m²)と、民間事業者のノウハウを活用して「食」をコンセプトとした集客施設「賑わいエリア」(約 4.7万m²)に分かれています。
賑わいエリアにある関連店舗にはグループの(株)マルハマ冷食がありますし、南部の事業者さんも賑わいエリアに出店している方もいますので南部の事業者さんエリアとの関係は今後、検討されていくことになると思います。
(下)に続く