卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

金沢中央市場の戦略

金沢市中央市場運営協会は、市場業界向けの情報提供を目的とする意見交換の場として「市場人 EXTRA」を定期的に発行している。
以下は同23号(2023年1月15日発行)に掲載されたインタビュー記事である。協会の了解を得て掲載する。
Q. 2020(令和2)年の改正卸売市場法の施行以降、卸売市場はどう変わったのでしょうか。

それまで「原則規制、例外規定で許可」であったものが改正により「共通ルールを守る以外は各市場の判断」となり、原則規制から原則自由となった。
改正市場法では規制が取り払われ、「最低限の共通ルールは守りなさい」という法制度となった。

これまで改正法は実態の後追いであったが、旧市場法と2020 年の改正市場法はまったくの別物である。

また、改正市場法は「何をしても自由。規制したいのならやっても構わない」という、一見物分かりのよい法律でもある。

自由と規制のどちらを重視すれば良いのか分からず混乱が生じ、結果的には旧市場法とまったく同じ規定を作った市場も数多くある。 

また、国の認可制だった中央卸売市場の開設が改正市場法 によって一定の基準を満たせば民間企業でも可能になった。

施行前は「大手の量販店や配送センターが参入してきたら、従来の卸売市場はつぶれるのではないか」という危機感があったが、蓋を開けてみると大手が申請することはほとんどなかった。 

なぜ申請しなかったのか。その要因は、受託拒否の禁止及び取引方法・結果の公開である。

改正市場法では、最低限の共通ルールがいろいろ謳われているが、根幹となるのが「取引ルールの公開」だ。民間取引において取引相手や取引条件公開はされておらず、卸売市場となるメリットは少ないという判断だろう。その一方で改正市場法後、市場の中にたくさんの異業種が入ってきた。IT企業が卸となり、配送業者が卸の経営権を握った。豊洲市場唯一の青果卸売会社「東京シティ青果」は米穀卸「神明」のグループ企業となった。そんな例が続々と出てきている。

異業種は、メリットがあるからこそ卸売市場に入ってくる。 
衰退産業に外部は決して金を出さない。お金を出すのは、儲けるチャンスがあると思うからである。 

Q. 今後流通において、卸売市場はどのような存在・位置 付けになっていくのか、お考えをお聞かせください。

現在の市場取引では、卸の第三者販売、仲卸の直取引が増えているが、今後、国が制限することはないだろう。改正市場法は、販売、取引方法について一律規制しないスタンスだからである。

とはいえ、卸と仲卸が対立関係となって両者にプラスになるのか。これまで仲卸が担ってきた小口の配送や分荷のコストを卸が負担できるのか。いずれにしろ、確かなのは卸と仲卸の競争が激化して、会社が経営危機に陥ったとしても、国は助けてくれないということだ。

考えてもみてほしい。いままで国が市場にお金を出して支援 してきたのは、旧市場法で規制をしていたからである。

改正市場法は規制を廃止し自由競争による市場振興を目指す方針であり、従来の「規制と保護」から「自由と自己責任」に転換している。国の政策推進に向けた補助事業等の「支援」は行うが、市場業者に対する直接的な経営支援は、もはや期待できないと考えるべきだろう。

民間企業は社会的ニーズがあるから存続するのであり、社会的必要性がなくなったら存在を否定されるのは仕方がない。市場も社会的ニーズに応えられる存在になることが肝要だと考える。

Q. 現在、当市場は再整備に取り掛かっています。今後、 再整備に当たり留意すべき点やアドバイスをお聞かせください。

事業の強みや弱みなど4項目で分析する「SWOT 分析」の観点から言うと、金沢市中央卸売市場は北陸の拠点としての役割と、駅や国道にも近い金沢の中心地に開かれた立地の良さといった点に、圧倒的な優位性や強みがある。

市場の場所は物流の観点から見ても非常に好立地。一方、弱点は「老朽化」と「狭い」ことである。

老朽化は再整備によって解決できるが、狭 いという弱点をどう克服するか。それが再整備の最大の課題になる。 

なるべくお金をかけないで、現在の立地で効率的に使える施設を配置するには、施設の高層化も手段の一つ。管理事務所など取引に直接関わらない部門を高層に上げる。
ほかに狭さの解消で重要なのは、車をどうするかだ。客が車を停められない市場には誰も来てくれない。

まずは市場事業者や買参人の車がすべて停められるよう駐車場の確保が求められる。
その際、従業員から駐車料をもらう。従業員の分を会社が負担するのもあり。一般客には昼間に有料で開放すれば、市場業者の使用料の負担軽減にもつながるだろう。
課題が「狭さだけ」というのはある意味、対処が簡単ともいえる。 
さらに付け加えるなら、市場法の改正で「商物一致の原則」が廃止され「商物分離」が認められた。

これにより、仲卸は顧客であるスーパー・販売店・飲食店などに、産地から生鮮食品を直接調達することが可能となった。であれば、金沢市中央卸売市場に全国から野菜や魚をすべて持ち込む必要があるのか。石川県だけでなく、福井・富山を含めて駐車場の空いている市場はあるはず。地方市場と連携し、荷捌きの拠点として使 わせてもらうのも手立ての一つではないか。狭さへの対処として機能を分化することで、ドライバーの働き方が変わる「物流の 2024 年問題」解決の糸口ともなるはずだ。 

もちろん、開設者には市場事業者から要望を出せばよい。市場は社会機能として大きな役割を果たしている。とりわけ金沢市中央卸売市場は食の拠点であり、食文化の発信基地であり、さらには市民の防災拠点ともなるであろう。それは行政にとっても大きなプラスである。

京都市場の再整備では、民間が建てた 建物のワンフロアをすべて京都市が借りて京都の食文化のフロアにした。そんな形での行政への要請・協力も考えられる。

Q. 当市場が勝ち残っていくために必要な事柄をお聞かせください。 

コロナ禍によって海外からの物流が停滞し、国内の第1次産業が注目されるようになった。これまでの「第1次産業は衰退産業」という位置付けから「成長産業」へと劇的に変化したということ。

社会を維持する基本となる食料の生産を第 1 次産業が担うとなると、それを国民に届ける中間流通を担う市場が果たす役割は大きい。
どんなところへも生鮮食料品を供給する都市の インフラとしての機能を打ち出せば、卸売市場の将来は開けるのではないだろうか。
第 1 次産業の価値が見直されることにより、卸売市場が進むべき方向性にもさまざまな選択肢が生まれた。市場の未来は決して暗くない。

法改正による規制緩和や新幹線、高速道路といった物流機能の発達により、他市場が金沢に攻め込んでくるのではないかと不安もあるだろう。

しかし、逆に金沢から攻めを仕掛けることもできるはず。水産であれば朝セリ(2番セリ)をはじめとして、県漁協ともっと連携を強めてはどうだろう。
法改正による取引規制緩和を活用し、仲卸と協力した周辺市場との市場間連携等は、金沢市場の「狭さ」を克服し広域流通拠点として発展していくための不可欠な課題となるだろう。
その一方で、新規事業に挑戦することだけが唯一の道というわけでもない。小売や買参 人との強いつながりがあるなら、あえて新しいことに取り組むのではなく、今ある強いつながりをもっと強化し、生かしていくのも立派な経営戦略である。 

青森に青果物卸売会社「弘果 弘前中央青果」が開設する「弘前総合地方卸売市場」という有名な市場がある。そこはリンゴに特化した取り扱いで知られている。
「ほかの野菜や果物も扱えば、もっと儲かるのに」とも思うが、彼らにそうした発想はない。リンゴ生産者と深く結びつき、農家の後継者がいなかった場合は経営権を引き継いで、新たな担い手を斡旋したりする。 

育種研究会を行い、若い人を集めて交流会を開く。
そうすることで、付近のリンゴ農家は「弘果」への信頼度を高め、弘果に出荷したいと思っているようだ。これも適切な経営戦略だろう。

自分の強みは何か、自分にとって何が必要かを考えて、それを実行することが大切だ。 

いずれにしろ、金沢市中央卸売市場は生産者と産地とのつながりが深い全国でも数少ない市場。食品流通では第1次産業を押さえているところが間違いなく勝つ。そこをどう極め、展開していくかが勝ち残りへの一つの突破口になるのではないか。