卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

京都中央市場再整備‐まちと共存する都市型卸売市場

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京都市中央市場水産棟鮮魚部門。塩干は令和4年度完成。躯体部分を活用、整備費は約162億円

令和3年9月に京都市中央卸売市場新水産棟(京都市中央市場水産棟)第1期エリア(鮮魚部門)が完成した。
京都市中央市場は京都駅から嵯峨野線で2分の梅小路京都西駅と次駅の丹波口駅、二つのJR駅間に細長く位置する際立った特徴を持つ中央市場である。

典型的な都心型中央市場であり、再整備をめぐってさまざまな議論の結果、行政主体で現在地再整備を行い、既存躯体の活用と新設を組み合わせ、立体化することで余剰地を生み出し、その余剰地を売却することで市場整備費に充当するなど独自の工夫で再整備を行なっている。

今回完成したのは新水産棟の第1期「鮮魚部門」だけであり、令和4年度には塩干部門が完成する。

豊洲市場や福岡新青果市場など都心部から移転し郊外型中央市場として整備するケースが増えているだけに、京都市中央市場のケースは今後、名古屋本場や大阪本場、東京淀橋市場や足立市場、横浜本場など、同じような立地条件で再整備と活性化を目指す都心型中央市場の大きなテストケースとなるだろう。

京都市中央市場の特徴

京都市中央市場は様々な面で注目されている。

  1. 京都駅から嵯峨野線線で2分、梅小路京都西駅と直結している全国でも数少なくなった都心型市場である。
  2. 年間取扱高に比べて市場用地は狭い中央市場であったが、その用地を立体施設とすることで余剰地を生み出し売却、再整備費用の一部に充てる。
  3. 水産棟は既存の躯体を活用した整備を行い、青果棟は全面建て替えと部門によって異なる再整備方式をとっている。
  4. 全国的に波及している市場整備の民活・PFIを採用せず、行政主体で再整備をおこなっている。
  5. 多くの中央市場は改正卸売市場法によって規制緩和を推進しているが、京都市中央市場は、業務許可制を維持し,第三者販売や直荷引きを原則禁止とする等,卸売業者と仲卸業者の役割分担を明確にしている。
  6. 全国初の衛生管理基準「京都基準」を策定、平成3年6月から義務化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」よりもレベルを上げ、「京都市中央市場衛生管理基準手引書<鮮魚部門>」を策定し運用している。
  7. 市場業務に関する国際基準(PAS221)を独自に取り入れている(PAS221:英国規格協会による食品卸・小売における一般衛生管理プログラム)。京都基準(ステップ1〜ステップ2)を部門別ごとに段階的に策定し事業者にFSSC22000等の国際規模の認証取得を目指す。

新水産棟の特徴

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新水産棟入口、消毒した手をかざすことで解錠する
エントランス

京都市内産木材を壁・天井にあしらった水産棟の玄関口であるエントランスホールは約320㎡ある。二階へは吹き抜け空間がある。
一般見学者はここまで入ることができるが、この先は関係者のみ、見学は別の見学者通路を歩く。ガイダンスルーム約60㎡もある。

手洗・足洗室

卸、仲卸など市場関係者が衛生管理エリアに入場する際に行う。
足洗いは常時消毒水を流している。入り口の扉には手指の消毒を行うことで解錠することができるよう扉と連動している。

買出人通路(仲卸店舗エリア)

仲卸店舗の表側は買出人(幅約3m)を設け、直線的に配置。買出人同線の簡素化を図る。後部は商品の出し入れを行う物流スペース。基本は横浜本場と同じである。

活魚売り場

タイ、ヒラメ等の活魚売り場。館内は25℃の閉鎖型空間だが、ウニ、アワビ等はビニールカーテンで囲った10℃温度帯エリアの特種物売場となる。

太物売場

10℃温度帯エリア。せりの間はビニールカーテンで仕切り、冷やし込みを行う。

留め置き場

10℃温度帯エリア。卸の前日入荷商品等の一時保管を行う。

入荷トラックバース

荷捌きスペースと外部には10㎝程度の段差があり、衛生管理エリアとの区分を図っている。シャッター扉側はエアカーテンが導入されており、外気を遮断している。ドックシェルターでバース前室に搬入する。

出荷バース

鮮魚仲卸の出荷スペース。1階に50台の駐車スペースが確保(3階は29台)。屋根付き半屋外スペース。外部と10㎝段差があり衛生管理エリアとの区分を図っている。

3階プロムナード

水産棟を南北に行き来できる通路。屋上駐車場との境界は目隠しルーバー(板囲)西側はオープンスペース。

マイクロコージェネレーションシステム

マイクロコージェネレーションシステムおよび非常用発電機を採用し、災害時においても必要最小限の電力供給ができるよう対応している。
過去に発生した大規模地震では、ガス管の被害が生じたことから大阪ガスとの協議のうえ、ガス管を地震に強い中圧管にしている。
また井水を活用し水道水と併用することで災害時の水の供給を確保するとともにコスト低減も図っている。

さらに災害発生時にも人員、執務環境、ライフライン等に制約が生じた状況下においても、卸売市場としての役割を果たすことができるよう「京都市中央卸売市場業務継続計画」を震災編に感染症対策編を加えて策定した。

(全水卸3月号掲載より)