(「全水卸」9月号より転載)
市場流通は水産、青果ともに長期低落傾向が続いている。
近年は横ばいないし若干の取扱増となっているが、社会的に果たしている機能は充分とは言えない。人口減少、高齢化の社会現象がすすむ中で、卸売市場、卸売会社はどのように対応していくべきだろうか。
いま全国の卸売市場が取り組んでいる課題は二点、市場用地・施設の活用と市場取引の活性化である。市場用地・施設の活用とは、端的に言えば公設市場における行政負担の軽減であり民間活力・PFIの導入である。
公設市場の開設者である地方自治体の市場会計への負担をいかに軽減させるか、単に公設を民営化することが目的ではなく「公」と「民」双方にメリットのあるPFIの導入である。
もう一点が市場取引の活性化であり、改正卸売市場法下における卸売市場、卸売会社のあり方である。卸売市場流通としてはこの課題が中心となる。
会報「全水卸」7月号は横浜魚類を紹介した。今号は仙台水産である。
1.仙台水産はなぜ伸びたのだろうか
仙台水産は周知の通り東北の拠点、仙台市中央卸売市場の水産卸売会社であり、東北における仙台市場は、北海道の札幌、関東の豊洲と同じ位置を占める拠点である。
その中で仙台水産は、早くから機能別にグループ企業を育成してきた。
仙台水産は「集荷(卸)、評価・分荷(仲卸)」が市場取引の原則であった時代から、仲卸や東北各地の卸のグループ化を進め、機能面では丸水配送とイーネット、物流と情報を柱に取引を拡大していった。
ホールディングス機能を果たしている「仙台商産」は、まだホールディングスが市場業界で注目されていなかった昭和58年に早くも設立され、今では卸、仲卸を含む販売会社14社と、情報や配送、メーカー、貿易等の機能別に設立された10社を擁する食品総合産業の舵取りに成長している。
なぜ仙台水産はこうした取り組みができたのだろうか。
法律は現実の後追いとはいえ、仙台水産が卸売市場法改正の方向を当時から読んでいたとは思えない。
疑問は当事者に聞くのが一番である。
2020年、仙台水産は本田 誠 代表取締役社長、石森 克文 代表取締役副社長の新体制に移行し、島貫文好氏はホールディングス機能を持つ仙台商産の会長専任となった。
過日、コロナ禍であったがワクチン2回接種を終えたことを口実に、久しぶりに仙台市場を訪ね本田社長にお話を伺った。島貫会長も変わらぬ元気な口調で「いくつになった、ワクチンの副反応は?」と高齢者同士の会話を楽しんだ。
本田社長は一つ一つの質問に丁寧に答えていただいた。一問一答の形で本田社長の発言として掲載する方がわかりやすいと思う。
2.本田誠社長に聞く
コロナ禍の中で社長に就任され一年が経過しました。
3月期決算と合わせてこの一年を簡単に振り返ってください。
コロナ禍の中でスタートした令和3年度は、4月スタート時が前年比81%、上期で95%と大変厳しい状況でした。
下期に入り、巣ごもり消費や外食から内食へのシフトによって量販店・小売店の売り上げが好転し、当社の得意とする提案型営業を一貫して推進した効果が出始めました。
しかし、増益でプラスとなったのはロスの削減効果、旅費を含めた管理費の削減が主な要因でした。
一方、グループ経営で厳しい会社への支援や松島にある子会社「宮戸水産」の閉鎖費用も計上し、3月期の単体としては売上高が前期比0・3%増の414億3600万円、営業利益は3・2倍の3億9200万円、経常利益は2・3倍の4億5300万円と増収増益でした。
伸びた要因としては、内食機会の増加で魚介類の家計費支出が増えたことがあげられます。特に40代以下の若い世代がテレワークで時間ができたこともあって2桁増と増えています。
当社も取り組んでいますがSNSで魚の捌き方を配信していることやメニュー提案なども自宅でおいしいものを食べたいという要求に応えたものだと思います。
また単価が下がった高級魚の扱いが増えたことや、簡便メニュー、提案型商品の扱いが増えたこと、さらに未利用魚の活用が図られことなどがあげられます。
こうした傾向は当社がお願いしている300名の消費者モニターの方々への直近アンケートでもはっきりしています。
コロナ禍でせめて美味しいものを食べたいが83%、どんなものを食べたいかのベスト5はお寿司、焼肉、刺身、うなぎ、海鮮丼で、水産物メニューが4品も入っています。
コロナ禍で変わったこと、変えようとしたことはどのようなことでしょうか。
もっとも大きく変わった点は次の二点です。
① オンライン商談室15室設置
コロナ前は対面商談でしたが、オンライン商談・リモート営業が増えています。
これに合わせて当社の環境も変え、モニター相談室15室を設置し、対面だけでなく、いつでもリモートで商談できる環境を整えています。
② デジタル営業など若い社員の力発揮
第二は社員の意識改革です。
組織の壁を破り横断的なプロジェクトをいくつか実施しています。社員のやる気、特に若い社員の能力が活かせるようになり、みんなが経営に参画している意識が強くなったと感じています。
例えばデジタル営業推進室、DX業務改革室、ECビジネス開発室です。
これらはオンライン商談のニューノーマル化を発展させ我が社の営業の基本である提案型営業をSNSの活用などで展開することや、これも効果が出ていますが、テレワークの推進で書類の電子化を進めています。
その効果で、これまで会社に居ないとできないと思っていた仕事が自宅でもやれるようになりました。結果的に休日出勤しなくても良くなるなど、無理ではないかと思っていた仕組みもできました。
また、これからの課題としてBtoB やBtoCなど食品のEC対応も図っています。いずれも若い人の力があって驚くほどの実際的な効果が上がりました。社員の意識改革という面でも大きな効果を発揮しています。
仙台水産は島貫会長が退任され、本田社長、石森副社長体制に承継されました。
どの部分を承継しどの部分の強化を図られていくのでしょうか。
仙台水産の経営理念は「豊かな食を創造し、地域社会に貢献する」です。
仙水グループとしての中期経営計画は令和3年から3か年で目標はグループ売上1000億円とグループ会社の健全経営です。具体的な取り組み課題は以下の通りです。
- 基本方針は「法令遵守」「現場主義」「人財育成」です。人の成長が会社の成長だと位置付けています。
- 魚食普及は我々の最大の使命だと思っています。消費者への情報発信は大切な活動であり、テレビCM、現場提案会、SNS情報発信を強化していく方針です。
- 生産者支援も重視しています。桃浦かき生産者合同会社へ出資、全面支援していますが、この取り組みで生産者のご苦労が本当によくわかりました。自然との闘いや環境の変化、特に高水温、貝毒、ノロなど、さまざまな海の変化に対して生産者と協力し克服できるよう継続支援していきます。地元漁業の発展に貢献することも我々の大きな責務だと思っています。
- ウイズコロナの体制で飲食業務関係者に対して提案会の実施、共同配送などの機能強化、集荷や商品開発を行っていきます。
- 他には魚食文化の継承 環境への配、SDGs、資源管理、水産エコラベル取得推進を課題に取り組んでいます。
仙台水産の取り組みが改めて注目されています。
仙台水産の取り組みと改正市場法の目指す方向性が一致しているという評価だろうと思います。仙台水産はなぜこういう方向を取るようになったのでしょうか。
私たちが入社した時は、競合他社に圧倒的に負けていました。
どうすればいいか論議を重ねて、モノ不足時代に行ってきた卸売市場ビジネス、市場の慣習であった「欲しかったら買いに来て」の経営を変えるしかないことを共通の認識にしました。会社そのものの存亡の危機があったと思います。
それ以降、歴代の経営者が内外の既得権益と戦い、壊しながら、モノ余りの時代に即してマーケティング、顧客開発、社員教育、事業領域を超えたサプライチェーンの構築、そのグループ化をしてきた積み重ねです。
市場流通の改革など大それたことではなく、既存を壊し方向を決めたら当たり前のこととして当たり前に実行する。それを継続しながら徹底してきました。
「不易流行」(蕉風俳諧の理念、原理原則を徹底的に守りながら、変わることをためらうな、徹底的に変え続けること)を諸先輩の方々が築いてきた仙台水産のモットーとして取り組んでいます。
第三者販売の禁止への対応は、仲卸を含め関係会社を通じての仕組みを作り対応、商物一致の原則については農水省の定期的な検査の度に議論を交わすことになりました。
その頃から場内だけでなく市場外流通についても意識していました。
改正市場法の目指すところは、市場の活性化を図り、お客様(川上・川下)にとって利用しやすく、なくてはならない存在にしていくことだろうと思います。
今この環境で経営ができることに感謝し、グループ全体が成長するためにも牽引する仙台水産が一層の成長発展することが大切だと決意しています。
ホールディングス体制の中で、どのような機能・組織のあり方が貢献したのでしょうか。
グループ24社のホールディングス機能は仙台商産が担っています。
目的は、仙水グループとして機能別会社を形成し、サプライチェーンのローコスト化を実現することです。
具体的には次のような方針で取り組んできました。
① 卸・仲卸を区別ではなく役割分担で捉え「共通のお客様の困っていることを解決する」とお互いに定義付けて共同体で仕事を組み立ててきました。
② さらにホールディングスとしては、中央卸売市場の卸売業者の役割だけでなく商品の企画開発、小売店・量販店に直接商談することやCM、SNSなど迅速にお客様の多岐にわたる問題解決に応えることができる体制と、それに応えるための人材育成、連携など総合力を発揮する推進力としての役割を果たしてきました。
③ 人事面でも相互牽制しながら正しい選択ができるようになりました。
④ 機能別に各社を専門化・独立することで経営者育成を図っています。
⑤ ホールディングスの最も重要な役割として、毎月の取締役会・営業会議・G戦略会議で問題点や情報共有を行なっています。当然相互に営業支援や経営支援することでグループの全体最適なガバナンスを構築しています。
改正市場法後の市場流通のあり方についてどのようにお考えでしょうか。
特に物流、デジタル化等の機能強化と市場の整備・再編について伺います。
どのように環境が変わるにしても、最後に残るのは生産者と消費者です。
われわれ中間流通業者は、生産者と消費者の間で必要とされる役割を果たしていく以外にありません。
市場卸は、長い歴史の中で生鮮品の流通で抜きん出た機能を蓄積しています。その機能を顧客視点でもっと利用しやすい市場を目指しています。
今後の卸売市場流通は、消費者の満足度に応える川下を踏まえつつ、川上の水産業を志向する方向が強まるのではないでしょうか。
水産業は地球温暖化の影響を非常に受けやすい、大衆魚の不漁や取れる魚の変化などその一環です。
水産業の持続可能性はわれわれにとっても重要なテーマですので、水産エコラベルやCoC(Chain of Custody、加工・流通過程の管理)認証に積極的に参加、取得を目指します。
グループ企業の脱フロン化、プラごみ問題など、資源、環境に良い取り組みを強めていくことは企業としての責務だろうと思っています。
そのためにも物流高度化、デジタル化は重要ですし、ワークフローを見直してデジタル化、業務効率と働き方改革につなげていく方針です。市場営業の二部制もいずれ検討されることになるのではないでしょうか。
さらに、仙台でも青果卸2社が合併しますし、全国的にも青果の大型合併が続いていますが、水産との提携や合併も市場の利用価値を高めるでしょうし、EC取引に対応する物流、媒体、宣伝、電子決済の整備など今後に取り組むべき課題は山積しています。
3.仙台水産の取材を終えて
個人的には数十年前から仙台水産を取材してきた。
いつ頃か記憶にないが、東京で開かれたセミナーで講演した当時の熊谷社長に対し、参加していた開設自治体の方が「取り組みは素晴らしいと思うのですが、仙台市場の卸でいる必要はどこにあるのでしょうか。市場外に出たほうがさらに自由な営業が展開できるのではないでしょうか」という趣旨の、大胆な質問が出されて驚いた覚えがある。
仙台水産を批判しているのではなく純粋に疑問に思っている口調であったが、昔は、卸売市場法の枠を外れているという批判もあったことは事実である。
仙台水産に限らず、今は先進的な取り組みとして評価されているが昔は農政局や国から「指導」を受けた卸売会社はあった。
本田社長の話を聞き、仙台水産の取り組みは、改正卸売市場法の先取りであったことを改めて実感した。
改正卸売市場法は今、仙台水産に追いついた。「追いつかれた」仙台水産は今後、どのように水産流通の世界を変えようとするのだろうか。
グループ24社の中では、「イーネット」が仙台水産の枠を越え数千社を扱う独自な情報企業として機能している。丸水配送もロジの専門企業として重要性を増している。地方市場卸、加工の分野も広がっている。
そうした広がりを担うグループ企業が、仙台水産の「補完機能」からどう脱却するか、ホールディングスの新たな役割が求められるだろう。
東北各地の市場も疲弊している卸が増えている。
東北の拠点、仙台市場として仙台水産、仙都魚類の卸2社、仲卸は新たな役割を求め、さまざまな形のグループ化、役割分担、協働・協業化が進められるだろう。
本田社長は宮城で生まれ、宮城で育った62歳。仙台水産生え抜きである。
改正卸売市場法とコロナ禍という、市場流通の歴史でもかつてない激変時代を石森副社長とのコンビで切り拓く。
改正卸売市場法の先を行く新たな取り組みを期待したい。