卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

改正市場法と機能強化‐横浜魚類の取り組み

f:id:chorakuan:20210910160635j:plain

(「全水卸」7月号より一部転載)

コロナ禍が続く中、市場流通の変化もまた静かに進行しつつある。
施設整備に取り組む中央市場共通の課題は、市場用地の単なる縮小ではなく「余剰地」の設定による機能強化と施設建設・運営におけるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)である。
すでに和歌山や奈良、金沢などの中央市場は、この考え方に基づく再整備計画を具体化しているが、こうした考え方の、先駆的な取り組みとなったのが二つの総合中央市場を開設していた横浜市である。

今号は、中央市場を廃場した横浜南部市場と、そこに低温物流施設を建設し場外にあった関連企業を誘致、物流機能の拡充を図った横浜魚類の取り組みを紹介する。

横浜魚類の取り組み〜単一セグメントからの脱却

19年度、20年度と連続増益

f:id:chorakuan:20210910160944j:plain
f:id:chorakuan:20210910161251j:plain
石井良輔社長 / 横浜南部市場の物流エリアと賑わいエリア

横浜魚類(石井良輔社長)は2020年度、318億円を売り上げた。

全国の市場共通だが、量販店への販売は伸び、料理飲食店などの業務筋は不振、利益面ではコスト減が貢献している。
横浜魚類もまた、この傾向と同じく減収増益となっており特に目立つものではないが、内容的にはコロナ禍に入った19年度、20年度と連続して増益となるなど、経営内容の改善が進んでいる。

横浜本場と南部市場、川崎北部市場の卸売業がほとんどを占める単一セグメントである横浜魚類は、中央市場を廃止した横浜南部市場を物流の補完機能として活用することを経営戦略の柱とした。

横浜南部市場の廃止とともに、低温加工物流施設「南部ペスカメルカード」を建設し、そこに市場外2か所で営業していた関連企業「横浜食品サービス」を誘致し、場内に残って営業している旧仲卸16社との連携を強化することで、横浜魚類は単一セグメント事業からの展開・脱却を図ったのである。

こうした卸の経営戦略は、令和元年に制定された改正卸売市場法の方向性とぴったり一致するものであり、さらに17万㎡の横浜南部市場を物流エリアと賑わいエリアに分けたことも「卸売市場ではない」横浜南部市場活性化の追い風となったのである。

改正卸売市場法の5年前に実現した横浜市場のケースは、今、多くの中央市場で取り組まれている再整備の選択肢の一つとなるだろう。

南部市場の活用による機能強化

横浜市は平成27年、中央市場であった横浜南部市場を廃止し、横浜本場の補完機能を担う施設とした。

この意義については次に述べるが、横浜南部市場が廃止された際、横浜魚類は残ることを選択、横浜南部市場を本場と機能分化することで活性化を図ったのである。

横浜魚類は本社、横浜南部支社、川崎北部支社の水産物卸売業を主な事業としている。
子会社のサカエ食品、横浜水産、マルハマ冷食3社は規模が小さく、水産物卸売業が横浜魚類全体の単一セグメント事業であった。

こうした単一セグメント事業からの機能強化を図る中心と位置付けたのが、資本金6千万円の49%を出資する関連企業「横浜食品サービス」である。

横浜食品サービスはもともと、横浜魚類の加工・販売を強化するために設立された関連企業である。
横浜魚類は卸売市場が廃止された横浜南部市場に、低温加工物流施設「南部ペスカメルカード」を建設し、横浜南部市場の売買参加者として市場外2か所にあった横浜食品サービスを市場内に誘致した。
この体制を構築したことで横浜魚類は、南部市場で営業している旧南部市場仲卸16社とともに、横浜魚類本社―南部支社―旧仲卸16社・横浜食品サービスのルートをサプライチェーンの大きな柱として取り組むことができたのである。

なかでも量販店への販売が中心である横浜食品サービスに対しては年間約60億円を販売しており、売り上げの主要な柱となっている。
横浜魚類は、南部市場を活用することで効率化を図ることができ、売上、利益面での大きな貢献へとつながったのである。

食と市場で人気集める横浜南部市場

横浜市は平成27年、二つの中央市場(本場、南部)の一つ、南部市場を廃場し、本場の補完機能を果たす「物流エリア」(約12.2万㎡)と、民間事業者のノウハウを活用して「食」をコンセプトとした集客施設「賑わいエリア」(約4.7万㎡)に分けて整備した。

中央市場を一気に廃場することで残った中央市場の機能を高める選択は、当時、大きな話題となった。

横浜南部市場は廃止されたとはいえ、場内には横浜魚類と青果卸2社があり、さらに旧仲卸である水産16社、青果6社と関連40社が今も営業している。

賑わいゾーンは今、多くの卸売市場再整備で検討されているが、横浜市の場合は二つの中央市場を合わせて一つの市場機能を強化するという初めてのケースである。
さらに市場機能を本場に集中し、みなとみらい地区に接する都心型市場の弱点である「物流機能」を主要な補完機能として横浜南部市場に整備する機能重視型の市場整備という点でも新しいケースとなった。

なぜ賑わいエリアは成功したか

物流エリアと賑わいエリアは面積としては12万㎡と5万㎡で7対3である。お互いのエリアに行き来はない。
それでも賑わいエリアはコロナ禍の中でも多くの市民が来ており775台の駐車場不足がすでに出されている。

横浜と同じコンセプトで開場した東京豊洲市場は、賑わいエリアとしてオープンした「江戸前場下町」などコロナ禍で苦戦している店が多い中で横浜南部市場はなぜ成功したのだろうか。
大和リースが開発した複合商業施設「ブランチ横浜南部市場」は食を中心とした賑わいエリアで、スーパ「エイビイ」を中核テナントに、ノジマ電気、ドラックストア「クリエイト」、上州屋など大型店主体に25店舗が揃っている。これをまず成功の第一の要因としてあげるべきだろう。

しかし個人的には旧南部市場の関連店舗街であった南部市場共栄会の存在が大きいと思う。
通路まではみ出した野菜や果物、鮮魚などが並ぶ「食の専門店街」が真新しい大型店を圧倒する集客力を見せている。
昔の関連店舗街とは見違えるような活況であることが最も印象に残った。

「ブランチ横浜南部市場」のネーミングも貢献している。住民は「ブランチに行こう」ではなく「南部市場に行こう」と言う。

当初の計画通りではないと思うが、結果的には「旧来の市場」の一部が残り大型商業施設と混在することになった。ブランチ(食)のマルシェ(市場)を全面に出したコンセプトが成功の最大の要因である。
開業時、誰もが気づいただろう「食事ができる店、休める店」が少ないという弱点も、その後、餃子の王将やスシロー、喫茶店など10数店舗の飲食店が増え、解消している。

横浜市場・横浜魚類の取り組みに学ぶ

令和元年の改正卸売市場法は従来の「卸売市場」としての枠組みを大きく変えた。

全国の卸売市場開設自治体は、卸売市場を社会的なインフラとして活用する方策をとり始めた。
それが市場本体のコンパクト化による余剰地の創出と、業界責任による機能強化、民間企業誘致による賑わいゾーンなどの収益施設の導入である。

中央市場を廃止して他の中央市場の補完施設とする横浜南部市場のケースは、おそらく今後の市場整備で二度と出ないだろうと思われたが、それから5年後の令和元年に制定された改正卸売市場法によって、横浜市の取り組みは市場流通の機能強化を図る先進事例としての地位を獲得することになったのである。

改正卸売市場法の考え方は、横浜本場と南部市場を合わせ、中央市場の卸売機能と補完機能、賑わい機能を一つの市場として整備した横浜市場の取り組みを法的に追認したとも言えるだろう。

横浜本場11万5千㎡、南部市場17万㎡、合計28万5千㎡が一つの市場として機能するのである。首都圏の供給拠点として取り扱い、施設ともに十二分なツールとなるだろう。

川崎市も現在、北部市場の再整備構想に取り組んでおり、ここも規模が小さい川崎南部市場との連携が課題の一つになっている。

東京都が先ごろ出した「東京都中央卸売市場経営指針」でも11の中央市場を類型化し再編する方針を打ち出している。
横浜市のケースをそのまま取り入れることができるのは、東京や大阪の複数の中央市場を持つ自治体に限られるが、今後の市場再編は改正卸売市場法後も認定数が減少していない公設地方卸売市場の再編が大きな課題になるだろう。

異なる開設自治体にある中央市場と公設地方市場の機能連携、公設市場と民営市場の機能連携など横浜市場のバリエーションが今後さらに広がっていくだろう。
中央市場の卸売会社も、統合再編ではなく機能再編の道も選択肢の一つとして模索することが必要になるのではないだろうか。