卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

物流と情報−フィジカル・インターネット

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食品流通としての市場流通が、今後、サプライチェーンを構築する上での大きなキーワードとなるのが「フィジカル・インターネット」である。

聞き慣れない言葉だが、今まで繰り返し言われてきた「物流と情報」を一体化した言葉であり、「Physical and Internet」ではなく「Physical Of Internet」(インターネットで構築された物流)である。
「IOT」(モノのインターネット)がネット主体であるのに対し「物流」のあり方を定義した言葉である。

以下、フィジカル・インターネットにおける具体的な取り組みを紹介する。

パレチゼーション〜パレットの共同利用と循環利用

水産物よりも荷姿を平準化しやすい青果物流通におけるパレチゼーション(荷役作業の効率化)は、「農産物パレット推進協議会」によって産地から小売・実需者までを対象とした共同利用と循環利用を取り組まれている。

そのための課題は、木製パレットからプラスチック製パレット(プラパレ)への転換と循環利用のためのRFIDによる移動管理である。
木製からプラパレに転換する必要性は、東京大田市場における現状を見るだけで十分だろう。(写真)

もう一点の循環利用の鍵を握るのがRFIDの活用である。
RFIDは、物流の様々な場面で使用されており、使用が拡大するとともにネックだった単価も下がっており、パレチゼーション促進の大きなツールとなっている。

トラックバース予約システム

東京大田市場は場内のトラック渋滞解消に向けて、トラックバース予約システム(通称・Eパーク)に取り組んでいる。

もともと大田市場は平成元年に開設するにあたって、羽田空港に隣接する大田区臨海工業団地に位置しているだけに、トラック渋滞緩和の対策を取ることが大田区からの大田市場開設同意の条件だったが、近年さらに周辺道路の交通渋滞が目立つようになってきた。

大田市場においても、特に青果部は東京青果の取扱シェアが年々拡大するとともに場内の渋滞が進み、東京青果は平成23年に立体配送センター「大田市場ロジスティクスセンター」を独自に建設するなど対応を進めてきた。

Eパークは、こうした場内渋滞緩和を目指す一環として、2019年から東京青果が始めた。これに花き部のFAJ、太田花きも参加し「大田市場Eパークシステム」として取り組まれている。

省力化から省人化へ

Eパークシステムは、レストラン等で予約を入れるシステムと基本は同じで、荷下ろし作業のスピード化や卸職員の荷置き場・荷待ち体制の効率化、ドライバー負担の軽減などいくつものメリットが生じている。

またこうした直接的なメリットの他に、どうしてもトラックの場内渋滞を解消しなければならない理由がある。それが2020年4月の労働派遣法の改正による同一労働同一賃金制の導入である。

この改正によって、荷下ろしまでのドライバーの待ち時間や卸職員の夜間着荷までの待ち時間が労働とみなされるようになった。

産地からの品物が市場業者に所有権が移転するのは、卸売場で荷を下ろし検収が終了した時点である。しかし、こうした待ち時間が市場負担となると人件費コストは何割か増えることになりかねない。
「省力化」から「省人化」は市場側にとっても喫緊の課題なのである。

現在、農水省、経産省、国交省の三省共同による食品流通合理化検討会がドライバー不足解消など「ホワイト物流」を目指した取り組みを行なっている。
トラックドライバーの待ち時間解消の課題は、大型拠点市場だけの課題ではなく市場流通全体の解決すべき課題となっている。