市場流通ビジョンを考える会から「“適者生存”戦略をどう実行するか 卸売市場の“これから”を考える」(筑波書房:1000円+税)が出版された。
東京聖栄大学の藤島廣二・常勤客員教授をメインに水産経済新聞の八田大輔、農経新聞の宮澤信一、ナチュラルアートの鈴木誠、の各氏が共著となっている。
研究者の論文ではなく、研究者と水産、青果の業界紙ライター、コンサルという組み合わせは珍しい。通常は各章の責任執筆者で分担するが、この本は藤島氏と各氏が共同で分担している章も多い。
改正市場法は扱い業種の許認可制を廃止し、開設者の責任と権利・義務が強化されている。そうした改正市場法時代を迎えて今後は「卸売市場」を対象に青果部門と水産部門を検証することが求められてくる。
青果市場の課題や水産市場の課題と個別の問題としてではなく「卸売市場」として捉える視点は重要になるだけに、こうしたメンバーで共同執筆する意義は大きいと思う。
内容は6章に分かれ、1章から3章までは卸売市場の社会的機能・役割や環境の変化、業務規程等の、いわば「おさらい」で4章から6章までがメインである。集出荷など基本機能の強化、高齢化への対応力強化、改正市場法への強化の三点で論を展開している。
基本機能の強化について前提となる問題意識は「価格形成能力のような日本型卸売市場の重要な能力についても(一般の人は)ほとんど理解していない。このことが卸売市場の社会的評価を低下させ、誤解に基づいた2018年の卸売市場法の“抜本的”改正に結果したのである。」(原文ママ、下線は引用者)
卸売市場の役割を国民に理解させなかったから小泉進次郎等の規制改革会議が“誤解”して、改正市場法が制定されたという問題意識は、一つの見方ではあるだろうが、さすがに一面的というか、善意な解釈すぎると思う。
4章以下の具体的な課題では青果や水産市場のケースが紹介されていて参考になった。一つ残念に思ったのは、私はこの共同執筆者4氏を個人的にも知っていて書かれたものも多く読んでいるが、この本に関しては、八田、宮沢、鈴木といういずれも知られた論者が、同一テーマでどのような時論を展開するか関心があったのだが、執筆者としてはほとんど藤島氏一人の姿しか見えてこなかった。せっかく各分野の現場から発信できるメンバーだけに残念だったが、各氏とも同じ研究会で論議されているようだから今後に期待したいと思う。