卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

開設会社職員が加工会社社長兼任(下)−震災復興に向け奮戦する相馬市場加工

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前回に続き、開設会社職員(相馬総合卸売市場株式会社主事)と加工会社社長(相馬総合市場加工株式会社)を兼ねる木幡洋平氏の寄稿である。

事業拡大

売上は上向き始めたものの、利益率にどうもつながらない。ここで、仕入れを見直すことにした。

現在の仕入れは当市場の卸売業者から行っていた。当該青果卸売業者の取扱数量は金額ベースで平成10年のピーク時に比べ87%の減少であり、要因は震災に係る影響によるものも大きいが、当時からいた従業員が誰一人残っておらず、現在は青果業に携わったことの無い社員3名の卸売業者であることも要因としてはかなり影響している。

年間の相場や長年の経験で培われる市場間の信頼関係や、情報交換も全くない状況でこのような卸売業者から仕入れをすることに不安を感じ始めていた。

この頃、開設会社の職員でありながら、加工業の社長と言う肩書もあり多忙ではあったが、この疲弊した青果卸売業者の救済担当でもあり、全体がうまく進むようにしなければならなかった。

令和元年11月、転機となったのは会社勤めを全うし、今後は農業を主として有意義な人生を送りたいという方が現れたことだった。この方、「生姜を作ったんだよ。収穫するのはいいんだけど、1トン位あるんだよね。お宅の市場で売ってくれないですか?」(生姜おじさん)と私のところに話に来たのだ。

さすがに1トンともなると当市場のような小さい市場ではせいぜい売れても50kg程度。もっと大きな市場だったらと頭をよぎったのが、とある中央市場。幸いにも相馬から福島までは復興支援道路なる高規格道路が8割程度開通しており、アクセスも良好。早速先方に一報を入れると価格及び規格については後日相談とはなったが、全量引き受けの回答があった。

後日価格規格共に決定し、生姜おじさんとの交渉をする。生姜おじさんは農業1年生、当加工会社も1年生の間での交渉は両者共に譲歩しまくりで何となく進んだ。

収穫は生姜おじさんが行いコンテナでの出荷。

加工は当社で行い、とある中央市場への配送も当社で行う。

このように収穫から納めまでの段取りは整った。しかし、いざやってみると加工業1年生の私にとって生姜はかなり高いハードルであった。まず高圧洗浄し、ちょうどよい大きさに切り分け、芽取りを行い乾燥、後に300gに統一し袋詰めを行い出荷。

簡単に説明するとこうなるが、私含めて従業員3名、内常時2名体制での作業で延べ20日を要した。とある中央市場への配送は10回に分けて行い、中央市場の関係者とも情報交換やいろんな話をした。 

とある中央市場は年末ムードもあり大量の箱が山積みになっていた。「やっぱり市場はこうだよな。」以前は当市場も小規模ではあるがその中でも大量の荷物があり、いろんな種類のミカンやら果物が沢山あり、市場に行けば何かあると言うところだった。しかし今では在庫を置かず、注文品だけを他市場から配送してもらうだけの単なるオンラインショッピングのような状態で売り場は閑散としていた。

以前のような多少なりとも活気があり、来場してくれたお客さんがワクワクするような売り場を作りたいと言う思いもあり、当社が仕入れを担当し当該卸売業者への納品を行うこととした。

加工品の原料もとある中央市場の担当者と情報交換を行い、直接商品を確認して先の相場や産地の状況なども共有することにより、加工者にとっては大変良い仕入れを行えるようになった。

このことはとても貴重な経験で、当市場を利用するお客さんへ対する情報提供を行うことで、信頼と言うものを再度構築できるものとなった。

 魅力ある市場を目指す

年末ムード一色となる12月の中旬、目新しい商品やら年末の贈答用商品やら数々の品物を取り揃えた青果売り場は当時には及ばずとも、多少の活気を取り戻し現在は徐々にではあるが魅力を増しているところである。

今後は

令和2年3月末で本格操業2周年となる当社、今年の11月には復興市民市場も完成する予定となり、青果物コーナーは福島の農産物をメインに福島県の観光PR活動や販売、地場農産物を使った加工品開発等さまざまなチャンスを生かし、雇用創出や農産物の産地形成、後継者育成等地域と共に会社を育てていきたい。

最後に

時代の変化に柔軟に対応することや、新たなことにチャレンジすることは我々業界にとって容易ではないことは重々承知しているが、それはできない理由をつけてやらないだけで、自らが動かなければ何も始まらないということではなかろうか。

私個人の意見ではあるが、開設会社として空き店舗の利用率を上げる為に利用者を募集するのも良いが、開設会社が空き店舗を利用し利益を生み出す方法。例えば、開設者が加工業を行い市場内業者へ供給すれば、原料仕入れは市場内で発生し、加工は市場内で行い、販売先は市場内業者となれば市場内で全てが回るようになる。開設者が出荷者の直売コーナーを設け半端な商品や訳アリ商品等を販売するなど・・・再度申し上げますが、個人的な意見である。

いずれにしても、この先市場運営は当市場も大変厳しくなってくることは間違いない現実である。開設会社として市場の商売という、これまで関わりのないところで自らが活躍する時代になっているのかもしれない。