卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

開設会社職員が加工会社社長兼任(上)−震災復興に向け奮戦する相馬市場加工

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改正卸売市場法によって開設者の責務は大幅に増えた。しかし、ここまでの開設者の責任は想定されていなかっただろう。
相馬総合卸売市場(福島県日下石字鬼越迫)の小幡洋平氏は次の二つの肩書を有している。

相馬総合卸売市場株式会社 主 事   木幡洋平
相馬総合市場加工株式会社 代表取締役 木幡洋平

順番もこの通りで、民間企業の社長が開設者の職員になったのではなく、開設者の職員が震災復興に貢献すべく加工会社の社長になったのである。

相馬総合市場は行政が51%出資で開設された第3セクター市場であり「準公設」と言われているように公の公共性と民間の効率性をともに求められる「経営体」である。
それだけに実質は役人が商売を始めた武家の商法なのだが、商売の方が向いていると思われる役人もいる。小幡氏もそうなのだろう。

以下、小幡氏が全国第3セクター市場連絡協議会会報第32号に寄稿した取り組みをご本人、事務局のご了解を得て紹介する。

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施設はあるのに……

当市場は、平成5年青果水産総合の市場として開場した。
当時の計画の中では、市場別棟の加工場において一次加工的な考え方で利用をする方針であった。しかし、市場本体とは別棟の建物であったことや、利便性が悪い等さまざまな理由から当該施設を利用するものはいなかった。

食品衛生法上の問題

当該施設を利用するにあたっては、現行の食品衛生法上の問題を解決しなければならず、施設の改築が必要となる。当時は一次加工の考え方もあり、オーバースライダーがメインの出入り口となっており、フルオープンにすると単なる下屋のような建物にすぎない構造となっていた。
このような観点から、利用促進に向けては現行法の食品衛生上の問題を解決できるような施設の改修工事が必要であった。

市場の売上高の減少について

青果卸売業者①ピーク時(平成10年) 577,889,335円
      ②震災直近(平成22年) 293,925,106円
      ③震災後 (平成28年) 72,549,545円

水産卸売業者①ピーク時(平成8年) 2,507,072,738円
      ②震災直近(平成22年)1,218,888,351円
      ③震災後 (平成28年) 771,083,852円

青果水産共にピーク時から東日本大震災直近にかけて売り上げは半減している状況であり、さらに平成28年度には青果売上87%減、水産売上70%減と言う大変厳しい状況となる。

開設者として

このような状況の中、加工施設の利用は市場として大変有効であり、市場内業者にとってもあらゆる面で有利に展開できるのではないかと考えた。例えば学校給食関係で食育を推進する場合、必ず地産地消がついて回るが地元産の農水産物を市場で供給する形になる。相馬市では自校給食を採用しており、納入業者は相馬市の小売店がそれらを担っている。

しかし今後を考えると小売店の後継者不足に伴い継続が難しくなる小売り店舗も多数出てくるだろう。また、給食調理員についても予算の関係上減少に伴い一次加工品(カット野菜や魚の切り身)の需要が増えると考えた。

市場として流通条件は充実しており、施設面での整備が整えば産地→市場→加工→納入といった大変理にかなったスタイルで川上から川下への流通ができる。
そこで、誰が加工業を運営するのかがネックとなる。

施設利用者について

工施設については青果棟水産棟があり、市場内で利用する業者の募集をした。当市場は青果卸売業者1社、水産卸売業者1社、水産仲卸業者2社といった小規模市場であり、各社の代表者で会合を持ち、水産仲卸業者が手を挙げた。
水産物加工施設の利用者は決定したものの青果加工施設については利用者決定に至らず。

青果加工者は誰が

青果物利用者決定に至らず。そのような状況下、相馬市復興計画の中で相馬市復興市民市場(直売施設)整備が決定する。当該施設は震災前の水産物直売センターを再整備するという趣旨であったが、青果物コーナーも設けたいという相馬市での強い意向があり、当市場へ対する強い期待もあった。
しかし、当該市場には青果物部の仲卸業者がいないため、販売面での問題もあった。(卸売業者は限定的以外の小売はできない。)

この問題を打開するため、開設会社に勤務する私に白羽の矢が立ったのである。
青果部仲卸業者のような事業を立ち上げる決意をしたが、当該市場青果物卸売業者の年間売上高は当時7千万円程度で、仲卸業をメインとしての経営は大変厳しい。また、復興市民市場整備までどのくらいの期間を要するかはこの段階では未定だった。
とりあえずそれまでの期間、青果加工施設を利用し青果加工業者になろう。

新会社設立へ

法人を立ち上げるにあたり、市場関係者に出資をお願いし資本金400万円で「相馬総合市場加工株式会社」を立ち上げた。
その後、女性・若者向け創業補助金(200万円)の補助事業採択により、機械設備を導入この設備を導入するにあたり、青果物加工品の需要について市場内業者と話し合い、刺身用のツマの加工をメインにすることとした。納入先については水産卸売業者→仲卸業者やスーパーや観光面では松川浦の旅館やホテル関係へ納入することが決定。

試行錯誤

平成30年4月、本格操業を開始。
加工業素人の社長、加工業未経験パート2人で始まった当社、刺身の添え物である大根のツマの加工を安易に考えていた。

何といっても素人集団、始まって間もないころは各納め先からのクレーム問題。水っぽいことや劣化が早いことや張りがないこと等。また1年を過ぎるころには売り上げが低迷し、資金繰りの問題も発生し、当時は精神的に追い込まれ事業停止も考えた。

しかし開設会社が投資して改築した施設であり、私自身も開設会社の職員である。投資した分は家賃で数年かけて回収しないと。という考えの開設会社職員としての私。もう一方でいち早く事業停止を考える加工会社社長としての私がいた。

楽になった言葉

そのような状況だったが出資者からの一言が私を楽にしてくれた。

「あんたの好きなようにやれ、あんたのことが好きだから俺は出資したんだ。それにまだ創業1年目だろ、気長に積み重ねだよ。気長にな。」

この言葉で肩の力が抜けたというか、今までふさぎ込んでいた心が解放されたというか、新たな気持ちで再スタートをきった。この頃からカットキャベツや学校給食用カット野菜等のオーダーも徐々に入り、売り上げは上向き始めた。(続く)