コロナの終息が期待できるか、不安ながらも夏がきた。
静岡新聞が2020年5月30日付けで「天然ウナギの生息する場所には他の生き物も多く存在し、ウナギは生物多様性の象徴になる可能性がある」と神戸大学等の研究チームが発表した論文を紹介している。
ウナギの季節を前に嬉しいニュースだ。興味深かったのでメモ代わりに紹介しておこう。
- 神戸大や東京大、中央大、さらに海外の研究者を含めた研究チームの論文で5月29日に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
- 調査は2015年8月〜2016年9月まで、静岡市の波多打川や南伊豆町の青野川など国内6河川の計78地点でニホンウナギとオオウナギ、及び周辺の淡水生物を捕獲調査した。
- 採集した淡水生物は全部で48種類。うち8割が回遊生物だった。ウナギは上流から下流まで最も広く分布し、ニホンウナギは3河川の調査範囲の87%、オオウナギは離島3河川の94%で生息していた。
- 壁や段差など人工構造物がなく、海から遡上(そじょう)しやすい場所ほど生息数が多く、餌になる小型魚やエビ、カニなども多種多数が確認された。
- ウナギ属魚類が淡水生態系の生物多様性保全の包括的なシンボル種として働く可能性を世界で初めて示した。
- 河川環境の保全と回復を通じてウナギ属魚類の個体群を回復させる活動は、ウナギのみならず、淡水生態系全体の保全と回復へも貢献すると推測される。
日本は山と川が豊富で、その結果として沿岸には豊かな漁場が広がっている。
気仙沼「水山養殖場」の畠山重篤氏は「森を育てることが牡蠣を育てる、牡蠣を食べることは森を食べること」のポリシーで数十年にわたって森に木を植える運動に取り組んできた。
若いころ築地市場の業界紙にいたこともあって畠山氏の取り組みは知っていたが、本当には理解していなかった。
世界で第6位の海岸線を持ち、経済水域が世界の共通認識になったことで日本の水産業は遠洋から沿岸・近海主体になった。
その中で、沿岸に養殖場が増え、漁協が経営体に変化していったのだが、沿岸漁業は海に支えられているだけでなく、山とそこから流れ込む川に支えられていることを、おそらく日本で初めて気がついたのは研究者ではなく畠山氏だろう。
畠山氏の知見を科学的に実証したのが今回のウナギ研究だろうと思う。
海と川を行き来する「通し回遊生物」が他の淡水魚等に優占する魚であることは知らなかった。
今まで「ウナギは産卵場もわからないのだから減るのは仕方がない」と思っていたが、我々が川を汚さなければウナギは増えて他の魚種や生物も増えるのだ(順番は逆で川の生物が増えるから、ウナギが増えるのだろう)。
川を汚さないことが自然を守り、生態系を守ることに繋がる。さらに川から海に流れ込む沿岸漁業の発展にもなる環境保護に直結した経済行為でもあるだろう。
淡水域は生物多様性に富んでいるが、人間の生活域と近いため劣化が著しく、淡水域に生息する種の三分の一がレッドリストにある絶滅危惧種として指定されている。
日本経済における第一次産業、漁業・農業の重要性は増えることはあっても減ることはない。
魚や植物、鳥と共存することが人間社会を守ることにもなるという程度の認識はあったが、環境保護と経済への貢献が両立するという意義を教えられたことは嬉しいことだ。
畠山氏ほどの行動はできないが、せめて川を汚さない、ゴミを減らす等の基本を守りたいと思う。